四肢折々の四折ちゃん
四折ちゃんは人の腕や足の骨をばっきばきに折ってくる女の子なんだけど、とにかく顔がいい。クラスの男子に大人気だ。いつも誰かに言い寄られててその度にケガ人が出てるんだけど、諦めるやつは一人もいない。
もちろん僕もその中の一人だ。四季折々の四折ちゃんを側で観察するために、今日こそは彼氏にしてもらうぞ。
「四折ちゃん! 僕と付き合ってよ!」
「いやでーす」
ぼきり。
僕の上腕骨が折れてだらりと右腕が垂れ下がる。痛いなあ。
折れた腕をさすっているとあっと言う間にクラスメイトに押しのけられる。
「四折ちゃん! 俺と付き合ってくれないか!」
「いや。顔が好みじゃない」
ばきっ。
「俺! 俺ならどう? 結構イケてると思うんだよねー」
「軽い男はだいっきらい」
ぽきん。
「僕と! 四折ちゃん僕とお付き合いを!」
「きもいからごめんなさい」
がっきん。
橈骨や尺骨と言った腕の骨から腓骨、脛骨、大腿骨と言った足の骨まで満遍なく網羅して折ってくる四折ちゃんはすごいなあ。
悲鳴を上げてのたうちまわるクラスメイトを尻目に、四折ちゃんはどこかへ行ってしまう。仕方ない、また後でチャレンジだ。
「いてぇ! くそっ! 治ったらリベンジだ!」
「痛いよー! これ治るのにどんだけかかるんだよー! 四折ちゃん! それまで独り身でいてくれぇ!」
「あぁぁいたいぃぃぃ」
だめだよ。四折ちゃんは僕とお付き合いするんだから。
「四折ちゃーん」
「あんたまた来たの? しつこい男は嫌い」
ぺきん。
今度は左足の骨が折れた。
すごいなあ四折ちゃんは。一人ひとり前回折った骨の場所を覚えてるんだ。同じ場所を折ってたらマンネリ化しちゃうもんね。僕は四折ちゃんのそんなマメなところも大好きだよ。
「ていうかここ、トイレなんだけど。女子トイレなんだけど。きゃー」
「ごめんね四折ちゃん、すぐ出ていくよ」
痛みで動かせない左足を引きずって、なんとか女子トイレから出る。
また駄目だった。もう一度後で挑戦しよう。
ついでだから用も足しておこう。左足を引きずって、隣の男子トイレになんとか入った。
「四折ちゃん四折ちゃん。教科書見せてよ」
「あんた持って来てるでしょ。ほら、おもいっきり机に置いてあるじゃない」
「ほんとだ。ねぇついでだから僕と付き合ってよ」
「ついでに交際を申し込むような男に価値は無いわ」
グギッ。
中手骨だなんてマニアックだなあ。今度の骨折は左手の親指の根元。四折ちゃんの意外にマニアな一面を知れて嬉しいよ。それにしても的確な骨折だなあ。何度折られても惚れ惚れするほど素晴らしい技術だ。
「ちょっと、今授業中でしょ! なにこそこそしてんの!」
「うるさいなー。迷惑かけられてるのはこっちなのになんで私が怒られなくちゃいけないの」
ガキャッ。
「キャアァァァァ!」
うるさいなあ。ちょっと中節骨が折れたくらいで。使命感だかなんだか知らないけど学級委員だからって小さなことにいちいち目くじら立ててるからだよ。
当然こんなことで授業が中断したりはしない。なぜなら数学教師は男だから。男なら教師だって例外なく、四折ちゃんの虜になるんだ。たしかこの教師も両足を折られたことがあったはずだ。
ほら、振り向いたけどまた黒板に向き直った。
「四折ちゃ」
「また来た! もう何度も何度もしつこいなぁ! 一度折られたら大人しく引き下がりなさいよ!」
「そんなこと言ったって諦められないよ。僕、四折ちゃんのこと大好きなんだから」
「ちなみに私のどこが好きなの?」
「顔だよ」
「少しは取り繕いなさいよ!」
グシャッ。
わお。大胆な骨折だね。大腿骨だけに。ついに右足まで使い物にならなくなっちゃった。しかも今回は複雑骨折。完治に時間がかかりそうだ。
「さよなら! 入院でもしてて!」
駆け足で遠ざかっていく四折ちゃん。残念だなあ。今日のチャンスはこれで終わりか。また明日告白しようかなあ。
でもなあ。
この気持ちは今伝えなきゃいけない気がするんだよなあ。明日なんて待ってられない。よし。今から行くよ四折ちゃん。
「うげっ。ちょ、あんた大丈夫なの?」
「どうして? ほら、どこもなんともないよ?」
「なんともないからおかしいんじゃない! 私はちゃんと四肢を折ったはずよ!」
「ああそうだね。四折ちゃんの骨折は今日も惚れ惚れする腕前だったよ。僕の骨はちゃんと折れてた」
「だったらどうしてよ!」
「もしかして知らないかな? まあ当然か。僕なんて四折ちゃんファンの群れの一員だし、その他大勢のモブキャラの一人だしね」
「私が何を知らないっていうの?」
「僕の名前さ。僕はね、骨林っていうんだ」
骨を生やす、骨林。
「僕は身体中の骨を自在に生やすことができるんだ。四折ちゃんに折られた骨も、すぐに生え替わる。だから僕は思ったんだ。僕と四折ちゃん、なかなかいいコンビになれるんじゃないかなって」
「え、なにそれ……。そんなのありなの……?」
「四折ちゃんだってばっきばき折ってるじゃない」
「いや、でも、それとこれとは訳が違う……ていうか、違う世界の能力じゃ」
「何を言ってるかわからないよ。四折ちゃん、僕と付き合ってよ。僕ってなかなかオススメだよ」
「え、いや、あの、ごめんなさーい!」
あらら、逃げちゃった。家まで追いかけるのは可哀想かな。
仕方ない、また明日にしよう。
楽しみだね四折ちゃん。
待っててね四折ちゃん。
愛してるよ四折ちゃん。