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無冠の皇子と煉獄の龍姫  作者: 樟 秀人
第1章【東の軍国サラディア戦】
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第7話《セト初陣》

大変お待たせいたしました!

今後も引き続き宜しくお願い致します!

「ぎゃああああああー!! 死ぬ!! 死んじゃうよー!! 」

「ええい! うるさいぞセト! 」


 フィリアに強引に窓の外へ引きずり出されたセトは落下中である。地面がすぐそこに迫ると、ようやく炎龍に姿を変えたフィリア。セトを背に乗せダリアのもとへ向かい、火花の散る夜空を華麗に飛び回る。


「うわあーっ! 凄いよフィリア! 鳥になった気分だ! 」

「鳥とは失敬な! 妾は龍じゃ! 」


 フィリアが怒るも、空を飛ぶという感覚に感動を覚えるセトの耳には入っていなかった。



 やれやれ……。まるで子供の様じゃ。これが妾の主になるとは、妾も変わったものよ。



 フィリアは自分の心境の変化に気付く。空高くから、戦の行われている商業街が見えてきた。

 そこにはシュヴァリア軍がサラディア軍を挟み撃ちで追い込んでいく様子が見えた。その状況を打開するために頼りたい水龍が不在のため、ただただ向かって来る兵士と戦うことしか出来なかった。数で勝るシュヴァリア軍は、一人のサラディア軍に対し、一人が剣を受け止め、もう一人がその隙にサラディア軍兵士の身体を突き刺し、切り裂くという圧倒的有利な状況で攻めている。

 人が死に行く姿から目を背けたくなったが、そうはしないと覚悟を決めたのだ。


「……人間の覚悟とはこんなにも凄いものなのじゃな。お主の目つきが一層変わって見える 」

「もう逃げないって決めたんだ。戦う姿を見届けるのも僕の仕事だから 」

「そうか。……セト、お主も戦うのであろう? 」

「うん、フィリア一人に任せて僕だけ戦わないのは今までと何も変わっていない。僕も戦うよ 」


 セトがそう言うと、セトの右手の龍章が輝き出した。


「うわっ! 何だこれ!? 」

「妾が主であるお主に武器を与えたのじゃ。龍戦士ドラグライダーとして、お主の力を限界以上に引き出すことが出来るであろう 」

 セトの身体は紅緋色に輝く鋼鉄の鎧に全身を纏われた。頭に被せられた全面の兜。腰にも紅緋色の細剣が差されている。


「これが僕の武器か……。僕はフィリアに何かしてあげられるかな? 」


 今から初の戦に出るというのに、他人のことを考えていることに呆れてしまいそうだ。


「ふふっ! お主はお人好しじゃな。この様な時でも他人のことを考えるとはの。……だから妾はお主のことが…… 」

「えっ? 最後何と言ったんだい? 」

「いやいやいや! 何でもない! 何でもないぞ! 」


 明らかに取り乱すフィリアだが、セトはそのことに全く気付く様子は無い。ダリアと水龍のいる場所が近づくに連れてその表情に緊張が走る。それに感化される様に、フィリアも緊張感が増してきた。幾度となく戦を経験してきたつもりだが、此度の戦は訳が違った。死んでも構わないと思っている人間を背に乗せて戦うか、大事だと思う人間を背に乗せているかの違いである。すると、森の付近から爆発した様子が見えた。


「……見えたぞセト 」


 水龍の姿、そして苦戦を強いられながらも戦闘を続けるダリアの姿が見えた。ダリアの周りには互いの戦闘に巻き込まれたシュヴァリア軍の兵士が大勢倒れている。その戦闘の激しさ故に戦き、腰を抜かし立てなくなっている者もいる。現状、ダリアが一人で水龍と戦っていることになる。


「いよいよだね。力を合わせれば、きっと相手の龍姫にも勝てるよね? 」

「……妾が全力でお主を手助けする。奴の龍戦士ドラグライダーを倒すのはお主の役目じゃ。頼むぞ。

 ……それと、気張るのは良いが、決して正体をさらすではないぞ? 何者にも妾の正体を暴かれてはならぬ。お主にも関わることじゃからな! 」


 フィリアは釘を刺すように、強めの口調で言った。セトもその意味を悟り、黙って頷く。


「行くぞセト! 」





「はあはあ……。やはり俺一人では龍姫に勝つことは無理か…… 」


 ダリアは大剣を地面に突き刺し、膝を着いてしまった。ひたすら苦戦続き、そして強大な敵との力負けをし、精神も肉体も限界を迎えていた。

 水龍はいつでも殺せると言わんばかりに、ダリアを睨み続けたまま一向に攻撃する気配を見せない。

 しかし、思わぬ伏兵が現れた。


「炎の咆哮バーンブレスト!! 」


 何者かの強烈な炎の渦巻く光線が水龍を襲ったのだ。水龍は虚を突かれたが、自らの身体から発せられる水で身体の炎を消火した。

 その攻撃のもとは、夜空の羽ばたく緋色の龍である。


「今の攻撃……炎龍の龍姫か!? まさかここに来て二体目の龍姫に遭遇してしまうとは……。俺の命運もここまでか…… 」


 ダリアはこの状況を打開する術を失い、自害する決心をした。仲間の敵を討てず、更には自らも圧倒的な差を感じ、無念ではあるが致し方無い状況である。

 しかし、巨大な衝撃音に思わず顔を上げると、見るからに炎龍は水龍を攻撃している。それに対抗すべきと、水龍までもが炎龍と戦闘を繰り広げているのだ。

 この状況を上手く理解出来ずに呆然とするダリア。



 一体何が起きている? 何故龍姫同士が争っているのだ!? 炎龍やつは水龍の援軍では無いというのか!?



 必死に考えても疑問しか浮かばない。分かっていることはただ一つ。戦えぬ以上、周りの兵を連れ、ここから離れることだ。いつ炎龍に狙いを定められるか分からない。しかし、この状況を炎龍に任せなければならないのもまた事実である。


「立てる者はいるか!? 我々はこの場から負傷者を連れ、宮殿へと帰る! 私に続け! 」


 五千の兵の内、死者千人、重軽傷者三千三百十五人。あまりにも悲惨で尊い犠牲となった……





「フィリア! 兄上達が兵士を連れてここから逃げるつもりだよ! 」

「良い判断じゃ。逃げることは決して悪いことではない。それにお主の兄は今生きている者の命を全て守り切ったのじゃぞ? お主の尊敬する理由が分かるのぉ 」


 ダリア達がこの場から離れて行くのを見届け、狙いを再び水龍へと戻す。


「しかし、悠長なことを言ってはいられぬぞ。奴は水、妾は炎。全くもって分が悪いのも事実じゃ 」

「僕が敵の龍戦士ドラグライダーを先に倒せば良いんだよね? 」

「ああ。そうすれば奴と妾に龍姫としての大きな差が出ることになる。……妾は龍姫を抑えることで精一杯じゃ。龍戦士ドラグライダーはお主一人に任せることになるぞ? 」


 フィリアがそう言うと、セトはフィリアの背中から地面に降りた。そしてフィリアにこう言う。


「自信は無いけど、これは僕だけの戦いじゃない! 君を守るためにも、僕は全身全霊をもって戦うよ! 」


 心配無い、と言う様にセトは紅緋色の細剣を高く掲げた。

 水龍の龍戦士ドラグライダーもセトとの戦闘を決め、水龍から地面へと降り立った。


 初めての戦。初めての戦闘。シュヴァリア軍の兵士とは何度も稽古を重ねて来たが、真剣を手にし、相手を殺すという実践は初めてである。

 緊張感が増し、ゴクリと唾を飲み込んだ。


「お前、どこの国の者だ? 」


 突然敵の龍戦士ドラグライダーが話し掛けてきた。セトは細剣を前に身構えるものの、敵は御構い無しにその距離を段々と詰めていく。


 フィリアの指示通り正体を明かさぬ様、セトは口を閉ざしたままだ。


「何だよ、だんまりか? 同じ龍戦士ドラグライダー同士、もっと楽に行こうぜ? 」

「……僕達は敵同士だ。君と仲良くする義理は無い 」

「あっそ。ならいいけど。……んじゃ、そろそろ行くぜ!? 」


 ゆっくりと歩いていたはずの敵の龍戦士ドラグライダーが突然言葉と共に消えた。常人ならばそう感じただろう。龍戦士ドラグライダーとなり、常人離れしたセトにははっきりと敵の姿が目で捉えられていた。


「俺が見えるくらいで良い気になるなよ? 」


 敵の言う意味が理解出来なかった。しかし、その理由はすぐに判明する。セトの足元には大量の水が流れて来たのだ。敵の水龍の力だとすぐに悟るセト。しかし、気付いた時には時既に遅し。


「水の渦潮スプラハリケーン!! 」


 その水から凄まじいほどの渦潮が巻き起こった。渦潮に飲み込まれ、呼吸も出来ず、その水流によって身体を徐々に切り裂かれていく。



 く……苦しい……



 セトの視界は少しずつ暗くなり始めた……


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