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無冠の皇子と煉獄の龍姫  作者: 樟 秀人
第2章【北国グラシオス侵略戦】
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第15話《罠》

 工業都市に向かう最中、ダリアはグラシオスと二体の龍姫が交戦しているのを目の当たりにした。

(龍姫が二体も!? それにあの龍姫は以前も見た……?)

 その光景はサラディアの水龍との戦闘を思い出させる。それと同時に炎龍もといフィリアのことも思い出した。

(あの時炎龍は俺を襲わなかった。龍姫同士は率先して戦い合う習性なのか? それとも俺を庇った? ……いや、後者はあてにならない。もしもその考えが違った場合、間違いなく俺達は全滅する。ここは龍姫を刺激せず、遠距離から弓矢でグラシオス軍に攻撃をするのが正解だろう)

 ダリアは弓隊の射程距離に入ると、進行を止めた。

「弓隊に告ぐ!! 龍姫は狙わず、全てグラシオス軍に向けて放て!!」

 弓隊はその指示を聞くと軍勢の戦闘で準備をし、グラシオス軍目掛け弓矢を構えた。

「隊長!! シュヴァリア軍が来ました!! こちらを狙っております!!」

「何!? 龍姫と挟み撃ちだと!? レスター様が読み間違えたというのか!?」

 龍姫の脅威とシュヴァリア軍の迫力に圧倒され、グラシオス軍は混乱状態に陥った。どちらも一万の軍勢では倒すことの出来ない状況。正しい指示を模索しているうちに背後からシュヴァリア軍の大量の弓矢がグラシオス軍を襲った。

 圧勝とも言える程、グラシオス軍はバタバタと倒れていく。たった一度の射撃でおよそ三千の兵を仕留めた。

「て、撤退だ!! 全軍撤退しろ!!」

 グラシオス軍はシュヴァリア軍に背を向け、西方へ向かい撤退していく。その姿は恐怖に怯えた鼠の群れの様だ。

「ダリア様! この好機を逃してはなりません!」

「分かっている。……全軍、奴らにとどめを刺すぞ! 追え!!」

『おおー!!』

 ダリア率いるシュヴァリア軍は得意の騎兵隊を中心にグラシオスを追って行った。




「行ってしまったわね。何だか呆気なさすぎるわね。物事が簡単に進み過ぎている気がしてならないわ」

「確かに【頂の五将】がいるにも関わらず、敵が弱すぎる。……この程度で強引に敵国に乗り込むとは思えぬ。これは裏に何かありそうじゃ……」

 この戦場の異変に気付いたミーファとフィリア。口には出さないが、どうやらシャッテもこの場の違和感に気付いている様だ。

(三人とも戦場慣れしている……。僕も早く慣れないと! このままじゃあ足を引っ張る一方だ!)

 セトはそう意を決した。戦の場において自分が圧倒的に経験不足であると自覚しているのだ。戦を終わらせるにはこの先も戦に勝ち続けるしか無い。戦を続けるのは本意ではないが、その先に見える理想を叶えるためならば仕方が無いのだ。

「少しシュヴァリア軍の後ろで様子を見させてもらいましょう。いくらレスターでもダリア様相手に一撃で勝利を手にするのは不可能なはず。レスターの一手を見てからでも大丈夫だと思うわ」

「しかし、それではレスターが奇策を立てていた場合シュヴァリア軍の兵士がただでは済みませんよ!」

 セトは兵士を見殺しにしてしまうのではないかと心配している。出来ることならたった一人の兵士も死なせたくない。そんなことを自分の危険も顧みずに考えてしまうのがセトの長所であり同時に人が好過ぎるという欠点でもあった。

「セト、お主の言いたいことは分かる。お主がお人好しなのは妾は重々承知しておるし、それを変える必要はない。じゃがな、戦でたった一人も犠牲を出さぬというのは不可能じゃ。それは理想じゃなく、ただの妄想に過ぎぬ」

「信じたくはないと思うけど、炎龍の言う通り。貴方がすべきことは生きてこの戦に勝つことだけ」

 フィリアとシャッテが厳しい現実をセトに打ち付ける。しかし二人の言うことの方が正しいことは間違いなかった。

 セトは許せなかった。皆に対してではない。妄想と言われたものを現実に出来ない自身の無力さに嫌悪感がした。

「……分かったよ。でも出来るだけ被害は抑えよう! 僕達にはそれを可能にさせる力がある!」

 それを聞いた三人はポカンと口を開けたまま閉じようとしない。やがて呆気に取られていた三人は笑いに変わった。

「あはははは! やっぱりセトは面白いね! ここまで行くと馬鹿じゃないのかなって思うよ!」

「同感じゃ! お主の考え方には呆れを超えてしまうわ!」

「……奇想天外ね」

 面白いことを言った覚えはないが、先程までの張り詰めた空気が和んだので良しとした。

 すると、シュヴァリア軍が森に入ると同時に悲鳴が聞こえた。

『うわあああああー!!』

「シュヴァリア軍の悲鳴!? 一体何が起こったんだ!?」

「様子を見に行くわよ! レスターの罠かも知れないわ!」




 ダリア達シュヴァリア軍は森の入り口でグラシオス軍追い詰めていた。グラシオス軍は逃げ続けていたものの、森の奥に進もうとする先は大きく傾斜になっており、どうしても逃げ続けることは不可能だった。開き直り、シュヴァリア軍に決死の覚悟で挑むものの、既に勝敗は決していた。

 グラシオス軍の兵の数が残り少なくなると、その兵士達は戦を放棄して必死に坂を上り始めた。シュヴァリア軍は容赦なくとどめを刺す。しかしその瞬間、乗っている馬が勢い良く脚を踏み出すと、地面が崩れ落ちた。

「な、何だ!? 一体どうした!?」

「ダリア様! 落とし穴です! 坂の手前に落とし穴が掘られています!」

 ダリア達は落とし穴に落とされたのだった。それは偶然に掘られたものではない。間違いなくレスターの策略だった。

 落とし穴に落とされている味方の兵士を見るが勢いづいた馬は止まることが出来ず、シュヴァリア軍の騎兵隊は次々と落とし穴の餌食となった。

「これは……レスターの策か!? マズい!!」

 ダリアは咄嗟にそう感じたが、それは僅かに遅かった。レスターの次の一手が打たれていたのである。

「全軍、放てー!!」

 坂の上からグラシオス軍の指揮官である男の声が聞こえた。すると同時に、木々の陰から大軍のグラシオスの兵士が現れ、落とし穴に落ちたシュヴァリア軍目掛け弓矢を放ち、顔の大きさ程の大きな石も投げ落とす。騎兵隊の多くは弓矢に腹部や腕、頭部を射抜かれ、大きな石をぶつけられた兵士の骨は砕かれた。

「くそっ! レスター! こんな古臭いやり方で戦うとは……。やはり正攻法ではお前に敵わないか」

 ダリアは苦しみながらも弓矢を大剣で叩き落とし、大きな石は馬を庇いながら剣先で受け流すようにした。

 しかしシュヴァリア軍の被害は大きく、たった一度の奇襲によりおよそ三千の兵を失う大打撃を受けてしまった。そしてグラシオス軍は再び弓矢や石を持ち構えている。

「ちっ! どうすれば良いんだよ……」

 ダリアがそう呟いた瞬間、グラシオス軍の再攻撃が始まった。

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