始まり。
首に縄をかけて、ゆっくりゆっくりと自らの体重で縄が首を締め付けていく。重力に従って、ゆっくりゆっくりと・・・・そしてやがて、息が止まり、心音が消え、簡単に人は死ぬ。静寂に支配された部屋にぎしっぎしっと縄が人の重さで軋む音だけが響く。
《1》
おい・・・・嘘だろ。なんで・・・おいっ!返事してくれよっ!茜音っおいっ」
「高橋っやめろ。もう・・・・」
陶器のような白い肌と、墨のような美しい黒髪の彼女は彼女自身の血液の海に浸っていた。
彼女を揺する僕を、友達の晴行が制した。もう、彼女は死んだのだと。
僕が静かになったのを確認して、晴行は警察に電話をかけた。
夢を見ているようだ。なんてひどい悪夢なんだろう。茜音が、茜音・・・・
「うっ・・・・茜音っ・・・・ああああああっ!」
「高橋っ高橋っしっかりしろ!」
きっと、このよに生を受けて初めて泣いた時の次くらいに大泣きして、叫んだと思う。晴行の宥める声がずっと遠くから聞こえる。
「茜音・・・・」
ポツリと自分の口から漏れた声にはっと目を覚ました。
「高橋、大丈夫か・・・・?」
「晴・・・・ここは」
ゆっくりと、上半身を起こすと、酷い目眩がした。晴行の名前を呼んだ声は自分でも驚くほどに枯れていた。
「警察の仮眠室を借りた。」
「茜音は・・・・なんで・・」
晴行は言葉をつまらせた。
「高橋 準さん。少しお話をいいですか? 」
「刑事さん、高橋はまだっ 」
「いいよ、晴・・。なんです?」
晴行は、怒りと悲しみぶちまけたような、複雑な表情をしていた。
刑事の話は、茜音の人間関係と、最近の行動、殺人に至った経緯に心当たりがないか、というものだった。
「すいません・・。親戚の葬儀で実家に帰っていて、彼女と会うのは、今日が久しぶりだったものですから・・・・」
僕は、彼女の殺害につながるような重要な手がかりは持っていない。彼女は、身辺のことをとやかく言う子ではなかったし。
「いえ。有難う御座いました。また何か、思い出した点などありましたら、連絡をいただけると助かります。事件解決に我々も全力を尽くさせていただきます。」