名前
「それじゃ、やらなきゃいけない事を箇条書きにするよ。」
綺麗な文字で紙の上に言葉を記入していく。
1・名前を決める
2・生活に必要なものを用意する。
3・彼女に仕事を与える
4・記憶が戻るようヒントを探す
そこまで書いて鶴野さんのペンが止まった。
「こんなところかな?」
「そうだね。悠兄さん。彼女の名前ってどうするの?一応男として暮らすわけでしょ?男っぽい名前にする?」
「それは・・・似合わないだろ。
「フルネームつけるの~~?」
「面倒くさいな・・・」
「え?じゃ!僕が付ける~~~♪」
「絶対だね!」
さっきまで静かだったのが嘘のように各々話し始める。あまりの賑やかさに私は目を白黒させ皆を見た。
「こら!お前たち彼女が怯えてるだろ。少し静かにしなさい。」
まさに、鶴の一声とはこのことだろう。
皆が一斉に私を見た。
「どんな名前がいい?」
小首をかしげながら私の座ってるソファーに寄りかかっていた林原さんが尋ねる。
「名前・・・ですか?」
記憶を呼び覚まそうと必死に頭の回転を回そうとするけど頭痛だけが呼び覚まされてしまう。
頭を抱えて項垂れる私を、林原さんが心配そうに覗き込む。
「大丈夫?ごめん。無理させちゃったね・・・」
「すみません・・・」
消え入りそうな小さな声で囁く。
「色々思い出すのはゆっくりでいいから・・・」
鶴野さんに優しく声をかけられ。私はほっと息を吐いた。
「じゃ、こんなのは?フルネームはおいおい考えるとして。この子ビクビクチョコチョコしてるから・・・チョコ」
楽しそうに金城さんがそう言った。
「また。帝兄さんは・・・」
皆が呆れたように首を振った。
でも私は 何故かその名前が嫌じゃなかった。
「それじゃ犬の名前みたいだろ?」
鶴野さんのツッコミに金城さんが頬を膨らませる。
「いいと思うんだけどな。」
不貞腐れたように呟く金城さん。
私はゆくっり言葉を発した。
「私・・・それでいいです。」
皆が驚いたように目を見開き私を見た。
「本当に?」
「いいの?」
「もっといい名前があると思うよ?」
口々に反対する中金城さんだけが嬉しそうに微笑んでいた。
「ほらな。やっぱ、オレ天才だね。」
そう言いながら満足そうに頷く。
可愛らしい笑顔を浮かべて。
「彼女がいいと言うんだから。良いんじゃないか?どうせ記憶が戻るまでの名前だろ。」
騒がしい皆と全く違った空気感をまとって篠田さんが言った。
瞬間皆黙る。一時のことそれは確かで、それを楽しむ状況でないことを否応なく突きつけられた気分だった。
「名前は、ちょこちゃんで良いかな?」
鶴野さんの問いかけに皆が頷く。