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碧~深き記憶~  作者: 美彩
はじまり~桃~
6/9

はじまり

私は口を開け、立ったまま呆けた顔で目の前の建物を見つめていた。

3階建ての一軒家で綺麗に手入れされた庭におしゃれな建物・・・・


「こ・・・ここは?」

「ん?僕たちの合宿所~~~♪」

「合宿所????」


相変わらずぴょんぴょん跳ねながら工藤さんがニコニコしながら私に教えてくれる。


「そうそう。僕たちが使ってる合宿所~~。ここで寝泊まりしてるんだよ~~~」


それだけ言うと私の背中を押して中に入っていく。


「あ・・・あの・・く・・工藤さん」

「ん?」



後ろからひょこっと顔を出し私を見下ろす。本当に動きが可愛らしい人だなと思う。


「ここに皆さん住んでいるんですか?」

「ん?知りたい?」


工藤さんが、小首を傾げニコッとほほ笑む。


「知りたいっていうか・・・あの、私もここに住むんですか?」

「教えてほしい?」

「・・・・はい」

何の謎かけなのかよく判らなかったけど、取りあえず返事をする。


「なら・・・僕のこと名前で呼んでくれないと。教えない~~~~。」


突然の申し出に私は目をパチクリさせる。


「だ・か・ら。栄斗って呼んでくれないと。教えない。」


ニコニコというよりはにやにや笑いながら私を見下ろす工藤さんに私はため息をつく。


「ならいいです。他の皆さんに聞きます。」


そう答えるとくるりと踵を返した。


「わ!わ!待って。ごめん。ごめん。ちゃんと教えるから。ね?」

「ふふふ。ハイ。」

「でも・・・。名前で呼んでほしいのは本当だよ。なんか“工藤さん”じゃ、むず痒いっていうか・・う~ん。気持ち悪い?」

「気持ち悪い?」


その言葉が不思議で私は首を傾げた。


「うん。普段名字で呼ばれないから慣れないんだよね~。だ・か・ら。名前で呼んで!」


可愛らしくウインクして見せる


「じゃ・・・。栄斗さん・・」

「違う~~~~!!!」


せっかく呼んだのに栄斗さんは地団駄を踏んで嫌がった。


「はい!もいう一度!」


もう一度といわれても・・・

私は少し考えてから、もう一度口を開いた。


「栄斗・・・・・くん?」

「まだ納得いかないけど、これ以上は無理そうだから・・・うん。それで許す♪」


何をどう許すのか判らないけど、栄斗くんは満足そうに微笑んで私を抱きしめた。


「え!!栄斗くん!!」


びっくりして声を上げると、私と栄斗くんを誰かが引き離した。


「やりすぎ。」


その声に私はまたびくりと肩を揺らす。金城さんが栄斗くんの首根っこをもって少し真顔でそう言ったのだ。


「帝兄さんのいじわる~~。へへ。でもいいもんね~~。名前で呼んでもらえることになったから」


栄斗くんは鼻歌交じりでその場から離れると、スキップしながら家の方へと進んでいった。


「名前?」


突然金城さんに尋ねられ私は目をそらした。

やっぱりどうしてもあの目で見られると身構えてしまう。


「工藤さんって呼んだら、栄斗くんって呼ぶように言われました。」

「・・・」


少し考えてから金城さんが口を開いた。


「それなら、僕も名前で呼んでもらおうかな?いいよね?栄斗だけ呼ぶのは変でしょ?」


少し意地悪そうに微笑んで私を見る。

ドキドキと胸が鳴り私は困ってします。


「あの・・・

「ほら、呼んでみて。はい。」


そう言って微笑むその顔はどこか何かを企んでいるような、そんな印象で・・・


「え・・あの・・えっと・・・」


私はただパニックってしまう。

そうでなくても、誰でもときめいてしまうような綺麗な顔少しずつ近づいてくるだけでも緊張するのに、私は理由もわからない恐怖心を彼に抱いているため頭の中が全く整理できない。


「ほら。呼んでみて」


そんな私のパニックぶりを楽しむかのように金城さんとの距離は、一歩、また一歩と近づいていく。

あと少しで唇が触れそうな距離まで来た時だった、バシンという音と共に金城さんが頭を抱えた。


「いって・・・」

「帝。やりすぎ。お前たちは本当に・・」


どうやら、鶴野さんが金城さんの頭をたたいたらしい。

ため息交じりに鶴野さんが私と金城さんを見る。


「僕が黙ってたらいつまでもふざけるんだから。」

「だって、栄斗だけ名前呼びってずるいだろ。」


子供みたいに頬を膨らませる金城さんに思わず微笑んでしまう。

それを見た金城さんが驚いたように私を見た。


「そんな顔出来るんだ・・・」


どこかさみしそうにそう呟くのが私の耳に届いた。

それは何かせつない響きをまとっているように感じて、私を困惑させた。

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