ワンピース
皆が戻ってきたのはそれから30分ほどしてからだった。
最初に戻ってきたのは、林原さんで、手に何着も洋服を持って現れた。
「僕の好みで選んだから、気に入るかは解らないけど・・」
そう言って私に洋服を渡す。
私はそれを受け取る。
受け取ったものの、どうすればいいのか分からず、思わず鶴野さんを見た。
「着替える?」
「いいんですか?」
「うん。じゃ、僕達は外で待ってるから、着替え終わったら声かけて。」
そう微笑んで他のメンバーを連れて部屋から出ていく。
私は皆が部屋から出たのを確認すると渡された洋服を広げた。何着もある洋服の中から、淡いクリーム色のシフォンのワンピースを手に取る。
柔らかい布の感触に何だかホッとする。
私はそれに決め着替え始めた。
着替え終わると鏡の前に立ち髪型を整える。
深呼吸をして、ゆっくり目を閉じる。
(大丈夫・・・きっと、大丈夫)
自分に言い聞かせるように何度も心の中で唱える。
そうやって自分を奮い立たせた。
「あの・・・もういいです。ありがとうございます。」
扉から顔を出し皆に声をかける。
扉のすぐ近くで壁に寄りかかりながら何やら相談をしている皆が目に入る。きっと私のことだ。
何だか居たたまれなくて、すぐに扉を閉め部屋の中に戻る。
そのすぐ後から皆が部屋の中に戻ってきた。
「似合ってるね。」
鶴野さんが私の頭をやさしく撫でながらそう囁いた。
「あ・・ありがとうございます。でも、これ良いんでしょうか?私がきてしまって・・・」
綺麗なワンピースに視線を移しそう尋ねると、林原さんが私の顔を覗き込んだ。
「気にしなくて大丈夫。問題ありで返却出来なくなった洋服をすっごく安くで買い取ってきただけだから。ここにある洋服は自由に着ていいよ。」
にっこりと微笑まれ私はドキリとする。
本当に皆イケメンでびっくりする。
「あの・・・でも・・それだと申し訳ないです。」
「でも、君。お金もないんでしょ?」
金城さんがそう言って少し意地悪そうに笑った。私はさっき脱いだ洋服をみる。洋服のポケットに入っていたのは小さなぬいぐるみのキーホルダーだけだった。
それを思い出し洋服のポケットからそれを取り出す。
「すみません。ないです。」
キーホルダーを握りしめる。唯一私を私に繋ぐもの。
「なら、甘えるしかないよね。それに本当によく似合ってるよ。」
金城さんが私が着ているワンピースの袖を軽く持ち上げる。
たったそれだけの行為なのに私はまた身構えてしまった。それを感じ取って金城さんが困ったように苦笑いを浮かべた。
「その辺ことはおいおい話すとして、そろそろ移動しないと。えっと・・・・」
鶴野さんがそこまで話してふっと唇の端を片方だけあげた。
「名前がないと不便だね」
そう言って皆に目配せする。
「取りあえず移動しようか。ここじゃあんまり落ち着いて話せないし。さ!みんな帰る準備して」
その一言で皆がさっと片付けを始めた。
私はそんな皆の姿を見ながら、これからどんなことが起こるのか不安と期待の混じった複雑な感情を抱いていた。