私は誰?
「先ずは、君が誰なのか確認しないとね。」
全員の話を纏める様に品のいい感じの男性が言葉を発すると、男性たちは皆うんうんと頷いた。
「ところで僕たちのことは知ってる?」
覗き込むように尋ねられドキリと胸がなる。この品の良い男性もとても整った顔立ちで俗に言うイケメンだ。
それだけじゃない。ここにいる6人の男性全員それぞれ個性は有るけど皆かなりのイケメンで・・・・
「すみません。解らないです。」
こんなイケメンに囲まれて嘘など付けるはずもなく、私は素直にそう言った。
品のいい感じの男性から自己紹介が始まった。
「僕たちはアイドルグループsilverstarで、僕が 鶴野 悠。リーダーをしていてメンバーの中で一番年上だよ。で・・・」
「俺が、二番目にお兄さんの 金城 帝」
ビックリするほど綺麗な顔の男性がそう言って私を見た。丸い綺麗な瞳で・・
一瞬びくりと肩が震えた。何だかこの瞳が怖かった。なぜ怖いのかも全く解らないけど・・・
そんな様子を察したのか鶴野さんが金城さんを制した。
「怯えるからあんまり近づかない。ほら、次。」
促されてココアをくれた男性が一歩前に出る。
「僕は伊藤 成弥。よろしくね。」
優しい口調に吸い込まれそうな瞳が印象的な男性だ。
「はい!はい!は~い!今度は俺~~~!」
明るく元気よく手を挙げてピョンピョン跳ねながらニコニコ男性が近づいてくる。
「俺は工藤 栄斗!メンバー一のイケメンで~~す♪」
靴の裏にバネでも入っているんじゃないかってくらい跳ねながら自己紹介をする姿に思わず笑みが漏れる。
「あ!笑った。かわいい~~~~!!」
ガバリと抱きつかれ思わず固まる。
「こら!栄斗!」
鶴野さんが呆れたように私から、工藤さんを引き離す。
「いいかげんにしなさい。建。こいつ縛っておきなさい。」
「うん。ほら、いい加減離れろ。」
「え~~~~。いいじゃん」
一番背の高い男性に引っ張られるように工藤さんが後ろにズルズルと引きずられていった。
「じゃ、俺か?俺は篠田 光だ」
ぶっきらぼうに少し怖そうな男性が言った。何だか怖そうな人だなと感じるのに悪い人には見えない不思議な感じだった。
「最後は僕だね。林原 建です。このメンバーで一番年下なんだ。と言っても、僕と光と成弥と栄斗は同じ年なんだけどね。」
優しく微笑みながら自己紹介してくれた。
6人の名前が分かりそして、見たことも無い知りもしない人間が自分たちの部屋に居たのに、攻めるでもなく優しく接してくれることに私の心も少しずつ冷静さを取り戻して行く。
普通だったら通報モンだと思うのに。優しい人たちだなと感じる。
「あの、ありがとうございます。私・・・・自分の名前も解らないような奴にこんなに優しくしてくれて・・・・」
思わず涙が溢れた。
「別に君の言ってることを信じてるわけじゃないけど、もしかしたら熱狂的なファンかもしれないし。」
「帝!」
「事実でしょ?でも、腑に落ちない点も多いから色々調べてからでも遅くないと思ってるだけ。悠兄さんだって、そうだろ?じゃなきゃ警備員呼んでるだろ?」
金城さんの言葉に鶴野さんが黙る。
金城さんの言ってることはもっともで皆黙り込む。
「で、何から始める?いつまでもこうしているわけにはいかないだろ?」
篠田さんが口火を切る。
「そうだね。先ずは、彼女の服を何とかしてあげないとかな?」
鶴野さんが私を上から下まで見ると苦笑いを浮かべる。
「そうだね~~。このままじゃ流石に女の子が外歩けないよね~~。」
工藤さんがひょっこりと林原さんと伊藤さんの間から顔を出す。いちいち動きがキュートな人だと思う。
「スタイリストさんにお願いして、女性用の衣装持ってきてもらおうか。健お願いできる?健なら大丈夫だと思うから。」
「OK。任せといて。じゃ、行ってくるね。」
鶴野さんにそう告げられ、林原さんが部屋を出て行った。
「じゃ~~。彼女ちゃん♪こっち向いて♪」
工藤さんの声のする方に向くと突然明るい光が私を包んだ。眩しくて思わず目を閉じる。
「あ~。目閉じちゃだめだよ~~。はい!もう一回!」
そう言って携帯で私を撮影する。
「うん。かわいい♪これで皆に聞いてくるね~~。」
工藤さんの言葉に鶴野さんがニッコリと微笑み頷く。
「栄斗なら大丈夫だね。頼んだよ。」
「まかせといて♪」
「栄斗。僕にもその写真送って。僕も聞いてくるよ」
そう言って伊藤さんが携帯を取り出す。
「OK~~♪」
工藤さんと伊藤さんが赤外線通信でデータ交換をし、二人揃って部屋を出て行った。
残りのメンバーはそれを見送ると、今度は3人とも畳間に腰を下ろした。
鶴野さんがさっき私が踏みつけた紙を取り上げ、金城さんが鶴野さんにペンを渡す。
テーブルにそれらを広げ、私に座布団に座るよう促した。
私は恐る恐る座布団に座り3人を見回した。
「大丈夫。これからゆっくり皆で考えていこうね。でも、君のことを知らないと何も出来ないから、分かることだけでいいから教えてくれる?」
鶴野さんに覗き込むように優しく言われ。私はこくんと頷く。
テーブルの4面に壁を背に私が座り私の右側に金城さん、左側に篠田さん、正面に鶴野さんが座る。
私は右側に座った金城さんに何故か緊張感を感じて少しだけ左側に寄った。
無意識のうちの事だった。
「じゃ、目が覚めた時の事詳しく話してくれる?」
私はこくんと頷き目を覚ました時のことを思い出す。
「目を覚ますとこの畳間にいました。見たこともない場所で・・・」
私の言葉を丁寧に紙に書いていく。
「他に変わったこととか、気付いた事はない?」
私は首を振る。何も思い出せなかった。
「何も・・・・・思い出せません・・・」
泣きたい気持ちをぐっと堪え膝の上に置いた手で拳を作る。
自分が誰なのか解らない事がこんなに怖いなんて・・・知らなかった。
当然優しい手が私の髪を撫でた。
顔を上げると金城さんと目が合う。
ビクリと肩を震わせてしまう。何でこんなに彼が怖いのか自分でもよく判らない。
さっと、左側に寄ってしまい、気まずい空気が流れる。
「珍しいよね。」
それを見た鶴野さんがそう呟いた。それを聞き私は鶴野さんを見る。
「帝に擦り寄っていく女の子は居るけど。そんなに怖がる子は居ないよ?どっちかというと、光を怖がる方が多いのに・・・・君は何故か帝を怖がってる。何だか不思議だ。」
「確かに。俺を怖がるなんて珍しい。というか、今までに居なかったね。面白いなあ・・」
顎に手を当て、何か考えるように微笑む金城さんは、とても綺麗で私も何でこんなに怯えているのか全く判らない。でも、どうしようもなく怖い。
「ちょっと脱線しちゃったね。話を元に戻そう。今のままだと何の手掛かりもない。このままだと君を警察に連れて行くしかないかな・・・・」
警察?確かにそこに行けば私の情報が少しはあるかも・・・・でも・・・・
瞳を伏せて何かを考えている鶴野さんを見る。
「悠兄さん。それは少し俺たちも困らないか?あんまり大事になるのは・・」
今まで黙っていた篠田さんが口を開いた。
「うん。僕もそう思ってた。警察に行けば何らかの情報が得られると思うんだけど・・・僕達の立場的に考えるとここは少し考えないといけないね。帝はどう思う?」
「俺は、合宿所に連れて帰るのが一番だと思う。少なくともここにいたんだから俺たちと何らかの関係があるかもしれない。この子の記憶が戻るまで、俺たちのアシスタントでもしてもらえばいいんじゃないか?」
金城さんの言葉にみんなが頷く。私はどうすることも出来なくて。三人が話しているのを見つめる事しか出来なかった。
「僕たちが預かることにして・・・名前決めないとね。」
何処か楽しそうに鶴野さんが言った。
「兄さん。まさかちょっと楽しくなってないか?」
その様子を見た篠田さんがツッコミを入れると、鶴野さんが唇の端を片方だけ挙げて微笑んだ。何だかとても色っぽい微笑みに私は思わず見とれてしまう。
「どうかな?さて、皆が戻って来たら名前を決めて今後の事を相談しようか。あいつら何か掴んでいるといいんだけど・・・」
鶴野さんの言葉に私たちは何となく俯いてしまった。何だか何もいい結果がでなさそうな予感がして・・・・・