出会い
ギーという重い音で扉が開き、気を抜きまくっていた私は思わず、身をすくめた。
数人の話し声が一気に近くなり、見覚えのない男性の集団が部屋の中へと入ってきた。
「今日の仕事これで終わり?」
「ああ。今日はこれで解散だよ。ご飯でも行く?」
「いくいく~~~♪ご飯♪ご飯♪」
「さっき何か食べてなかった?」
「ん?でもはらへったの~~~♪」
ガヤガヤと賑やかな集団が室内に入ってくる。
私は自然と身を竦め、後ろの壁の方へとさがって行く。
後ずさった拍子に私の後ろに落ちていた何か紙を踏みつけてしまった。
ガサリと音が鳴り、賑やかな集団が一斉にこちらを振り向いた。
「え?」
「誰?」
口々に私の存在に驚き身構えている。
私はあまりの恐怖に言葉を発することもできず、これ以上ないくらい体を竦ませ壁に張り付く。
視線を逸らし自分の体を隠すように小さく膝を抱える私に、賑やかな集団の中から、スラリとして何処か品の良さそうな男性がゆっくりと近づいてきた。
畳間に腰掛け私の様子を伺うように見たあとゆっくりと口を開いた。
「君は誰かな?どうやってここに入ったの?」
優しい口調に少しだけ私の心が安心感を帯びる。
「私は・・・・」
答えようとして口を開いたのだけど、何故か自分が誰なのか思い出せない。
さっきまで全く気にしていなかったのに、急に自分の存在が解らなくなり恐怖心が私の心を覆い尽くした。
「うん。君は?」
「私は・・・・」
恐怖がどんどん広がり不安が私の言葉を飲み込んでしまう。自分が誰なのか?なぜここにいるのか?何も思い出せない。
突然襲ってきた恐怖心に手足が冷え、体が震えだす。
「ねえ。何かこの子変だよ?」
集団の中からビックリするほど綺麗な顔をした男性が品の良さそうな男性の隣に立ち私を覗き込むように見つめた。
「大丈夫?怒ったりしないから正直話して?僕たちのファンなのかな?」
品の良い男性がさっきよりもっと優しい声で私に問いかける。
私は何をどう話していいのか分からず、俯いてします。自分の存在を理解できないなんてこの世に誰も私のことを知らないようで、孤独と不安が私を埋め尽くしていた。
「悠兄さん。これ。飲んだら落ち着くかも。何だか怯えてるみたいだし。」
紙コップを持った綺麗な瞳をした男性が、品の良い男性に持っていた紙コップを渡した。
「そうだね。ありがとう。成弥。」
品の良い男性が私に紙コップを渡そうとする。
「これ飲んで、少し落ち着こうか。大丈夫。怒ったりしないし、君を傷つけるつもりはないから。」
そう言って私の手にコップを持たせ、私の背中を優しくさすった。
その行動に少しづつ落ち着きを取り戻していく。私は受け取ったコップに口を付ける。
甘い香りが鼻先をかすめ、ココアの優しい暖かさがゆっくりと体の中に浸透していった。
「落ち着いた?」
あの品の良い男性が優しく微笑む。私は何とか頷き顔を上げる。
小さく深呼吸をし、自分のことを思い出してみる。
でも、何も思い出せない。
思い出そうとすればするほど頭がズキズキと痛み出した。
「あの・・・」
ようやく絞り出した声はあまりに小さく届いているか不安になるほど。
「うん。」
優しく頭を撫でられ。私は意を決して言葉を発した。
「信じて貰えないかもしれないけど。私なんでここに居るのかも、自分が誰なのかも解らないんです。目が覚めたらここにいて・・・・」
そこまで言ってあまりに現実的でない言葉に信じてもらえないことを確信してしまう。
「それは・・・ちょっと」
やはり流石に信じられないようで、品の良い男性も困り顔で私を見ている。
「面白いけどないわな。そりゃ。」
今まで黙って状況を見ていた少し怖そうな風貌の男性が私を上から見下ろした。
言葉にした事で私も少し落ち着いたのか、自分が6人もの男性に囲まれていることに気づく。
それと同時に自分がパジャマみたいな格好だったことを思い出す。
自分でも解るほど顔が赤くなっていることを隠すように俯いた。
「信じられないと思うんです。私も・・・でも・・本当に思い出せなくて・・・」
話しているうちに段々泣きそうになってくる。
自分が誰なのか判らない上に、今自分が置かれてる状況すら判らない・・・
こんな不安の中何をどうしたらいいのかそんな答えさえない。
「悠兄さん。彼女の言ってることが本当かどうかは解らないけど、この部屋には鍵がかかっていたし合鍵を彼女が持っていない限りこの部屋に入ることはできないと思うよ。」
さっきココアを渡してくれた男性が静かにそう話すと。6人の男性は皆顔を合わせ何かを確認するようにお互いにアイコンタクトを取った。
「確かに。成弥の言う通りだね。彼女がどうやってこの部屋に入ったのかはかなり不思議だね。テレビ局ってテロ対策されてるからそう簡単に入れないし。ましてやこの部屋の鍵はずっと悠兄さんが持っていた。どう考えても誰にも見つからずこの部屋に入るのは難しいね。」
一際綺麗な顔の男性がそう言う。それを皮切りに皆がそれぞれ話し始める。
「ん。じゃ~~。彼女は宇宙人とか~~?」
ニコニコ笑顔の男性がのんびりした口調で話すとみんなの視線がその男性に集まる。
「栄斗・・・・。それはないだろ。普通。」
呆れたように一番背の高い男性がニコニコ男性にツッコミを入れる。
他の男性も呆れたように首を振った。