白
目を覚ますと、見たこともない場所にいた。
無機質な部屋は、大きな鏡が一面の壁を覆い尽くしていて、その鏡の前にはパイプ椅子が何個も並べられている。
小さな畳間が鏡とは反対の場所にあり私はその場所に座り込む形で居た。
全く見覚えのない場所。
ゆっくりと辺りを見渡すが自分以外に人の気配もない。
「ここは?」
独り言のように呟いてみても答える人もいない。
ただ、ここで誰かが居たことは確かなようで、ハンガーに掛けられた洋服が何着か壁にぶら下がっていたり、鏡の前のテーブルに化粧品のような物が散乱しているのは見て取れた。
私は頭を振りため息をつく。
(ここがどこなのか、何でココにいるのか、誰か来たら聞いてみよう。)
そう考えると自然と気持ちが楽になった。
ここから移動して人を探すべきかと思案していると、鏡に自分の姿が映し出されていることに気づく。
(!!!!!!)
ヨレヨレのTシャツにパイル時の短パン。髪はボサボサで、どう見ても寝起きの姿。まるで自宅で過ごしているよな格好に思わず驚いてしまう。
(ここが私の家?)
そう思ってから慌てて頭を振る。
そんな訳がない。
この場所が人が暮らす場所には到底見えないし、第一自分の家を分からないはずがないのに・・・
思わず自分の考えにツッコミを入れたくなる。
(アホなこと考えちゃった。何で自分お家なんて思ったのかな?)
ため息を零しながらもう一度辺りをゆっくり観察することにした。
少し広めの部屋は入口が一つ。
鉄の重たそうなドアが付いている。
そのドアから入って右手に大きな鏡が一面にある壁がありその壁に括りつけられたテーブルがある。そのテーブルの上には沢山の化粧品が置かれていて、六脚のパイプ椅子が並べられていた。
ドアと反対側の壁にはハンガー掛けが有りそこには6着分の洋服が掛けられている。
そして私のいる畳間。
畳間には小さなテーブルが真ん中に置かれていてそれを囲むように4枚の座布団が置かれている。
(誰かの部屋?)
そう思うにはかなり無機質な気がする。
見たことも無い部屋の作りに不安を覚える・・・
そしてなにより、自分がなぜここにいるのか・・・・
もう一度深い溜息を付いた。
扉の向こうに行くべきなのか、悩んでいると外から人の声がしてきた。
人の気配を感じて思わず体を固くする。
今の状況がはっきり判らない以上、もし誰かが入ってきて大騒ぎになったらとか、自分の今の格好を見られたらとか頭の中がパンクしそうになる。
声は段々近づいてくる。
私の心臓もどんどん大きく音を立てていく。
(どうしよう・・・)
周りを見渡しても隠れる場所も何も無い。
今すぐこの部屋から飛び出してももう遅い。
緊張感がピークに達するのと扉の向こうで足音が止まるのはほとんど同時だった。
(誰か入ってくる?)
ドキドキと高鳴る心臓をグッと抑え、身を縮める。
何人かの人が話している声が聞こえ、また足音が遠ざかっていった。
私はホッと息をつく。
(何だ。この部屋に入ってくるわけじゃ無かったんだ。)
安心感が私を包み静かに息を吐く。
ホッとして気を抜いていた私には聞こえていなかった。
鍵が空きゆっくりと扉が動いていた事を・・・・