プロローグ
第一章 プロローグ
プロローグ
出会いと別れは当たり前のようにやって来る。
当たり前だからその記憶もいつの間にか忘れ去られていく。
だからいっときの感情に流されることなく体裁を保って人は生きている。
そうしなければいけないし、そうする事が自分を守ることだと知っているから。
新しい出会いが自分を成長させてくれるなんて、本の中だけの事だし、そんな事を言う奴は大抵綺麗事を並べているだけだ。
いやもしかしたらそう言ってる人も自分を守るための言葉なんかもしれない。
だからこそ薄っぺらな表面だけの感情と体裁が私には似合っているし、私を守ってくれている。
記憶なんて何時かは消えてなくなってしまう物。
それなら今を楽しく生きればいい。
身の丈にあったごく普通の当たり前の現実の中で、私の薄っぺらな人生を送ることが今の私に見合った生き方。
だから情熱だの熱い心だのそんな物はどこかに捨ててしまって、私なりの道を歩いていく。
そう思っている。
一歩進むたびに増えていく何かにいつまでも怯えているのは辛く怖いから、何かに執着したり思いを深くすることは怖いから・・・・
あの碧い海のような深い感情は、私を苦しめ滅ぼすから・・・
だからこの平凡で薄っぺらい人生を歩んでいる。
そう信じて・・・・・
優しい春の風が頬をなでていく。
ふと見上げると、青く綺麗な春の快晴が空を埋め尽くしていた。
ザワザワと胸が高鳴り出す。
私は慌てて胸を抑え視線を地面に写した。
無機質なアスファルトが目に映る。
(・・・・・)
ひらりひらりと舞い落ちた桜の花びらが、私が視線を落とした先に舞い落ちる。
それは必死に抵抗する私を嘲るようで・・・
そんな情景なんて要らない。
今の私には必要ないもの。
春の陽気に浮かれ気味の人々が私の周りを通り過ぎていく。
優しい風も暖かい陽射しも綺麗な花びらでさえも、覚めた心を取り戻してはくれない。
あの日私は知ってしまったから。
深く強い感情は、自分を傷つけ心を壊す。
だから私はもう決してこの陽気のような感情は持たないと決めたから。
ゆっくりと顔を上げ視線を前に移す。
明るい陽射しも舞い落ちるピンクの花びらも、色あせ温もりを失っていく。
笑顔で通り過ぎていく人たちも・・・・
いつもの日常。
私の日常。
私はゆっくりと歩き出した。自分の一日を歩くために。