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アモール  作者: 泣き虫小僧
1/1

アナト

1年半。

18ヶ月もの間、俺は栗島シュリという女と付き合っていた。

高校2年になってクラスが一緒になり、それとなく仲良くなって、いつの間にかカップルになってた。


季節のイベントがあれば世のカップルに習い、下校も一緒にした。

これほどまでに続いたカップルは少ないらしい。だがそれが、破局の原因になったのである。


長く一緒にいると、それが当たり前のように感じてくる。

隣を見ればシュリがいて、シュリの隣は俺がいる。

そんな日常が「普通」で「当然」

だが俺たちはそれに飽きつつあった。


決して嫌いになったんじゃない。でも、胸が苦しくなるほどの恋をしているわけでもない。

こんな曖昧な気持ちで恋人を続けてもいいのか。

そういう考えが浮かんでいた頃、シュリから別れを告げられた。

特にショックも受けなかったし、拒否することもなく。

「うん」と頷いて、終わった。


これがフラレたって事か。なんかいつもと変わらないなぁ。

その日の夜は、こんな感じだった。


***************


フラレたあの日から2週間。

俺は新しい恋をした。


お相手はアンナ・アルスキーと言う。

なぜ外国名なのかと言うと、祖母がロシア人らしい。


今日も俺は自分の席から、アンナさんを見ていた。

毛先が少しカールしている長い金髪。碧眼の目は大きくクリクリとしている。

アンナさんは2人の友達と話をしていた。

流暢な日本語を透き通った高い声で喋り、楽しそうに笑顔を振りまくアンナさんうっとり見とれていると、頭を本でつつかれた。


「!?」


すぐさま前を向くと、呆れた顔をした男子生徒がこちらを見ていた。

ちなみにつついた本は国語の教科書だ。

男子生徒の名前は松本一樹(カズキ)。中学の頃から仲が良い友達だ。

眼鏡をかけているが、ものすごくアホっぽい顔をしていて、ていうか本当にアホだ。


「お前ちょっと見すぎだぞw

 気持ち悪いからやめろw」


「いやぁ・・・だってしょうがねぇじゃん・・・

 すっげぇ美人じゃん。」


「まぁそれは分かるけどさー

 ・・・あ、来たぞ。」


カズキが教室のドアを見た。

俺もカズキの向いている方を向くと、小さい女子生徒が入ってきた。


学年でも一番ではないかと思うほどの低い背丈。所属しているバスケ部のルールでショートカットにしている茶髪。


彼女こそが、俺を2週間前にフッた、栗島シュリだ。

シュリはすまし顔で俺の斜め前の席、つまりはカズキの隣の席にカバンを置いた。


「おはよう。」


シュリはこちらをくるりと向いて言った。


「おう~!おっはよー!」

カズキはノリノリで答える。


「朝練?」


「もうちょっとで試合だしね。」


別れたと言うのに普通に会話をしてしまう。

お互いそれは不快に感じず、これまでどおり過ごしている。

ただ「恋人」でなくなっただけで、基本俺たちは仲が良い。

「友達」と称すれば良いのだ。


シュリは圧倒的に不利である「低身長」というハンデを持っているにも関わらず、持ち前の足の速さとすばしっこい動きで、バスケ部のレギュラーになっている。

レギュラーに任命されるまで、どれだけの努力をしてきたか。

それは俺が一番よく知っている。


「そっちはまだ入る気ないの?」

カバンの中から教科書を取り出して、机に入れる作業をしながら、シュリが訪ねてきた。


俺は部活に所属していない。

元々どこかの部活に入っていて、退部した・・・ということでもない。

高校だけでなく、俺は中学の時も部活に入っていなかった。


理由は面倒だからとでも言っておこうか。

運動は人並みにはあるし、コミュ障でもない。

ただ、スポーツのルールとか、大会とか、そういうのが嫌いだった。


シュリは部活の話になるといつも俺に「入らないのか。」と聞いてくる。

どっちにしろ入る気はないし、シュリもそれはわかっている。


「入るわけないだろ、もう2年だぞ」

適当に流しながら、シュリの小さな背中を眺めた。

中学の頃からずっと変わっていない背中。


・・・少し、惜しいな。


内心そう思った。


でもやっぱり俺はアンナさんが好きだ。

これは変えられないし、変えるつもりもない。

まぁ、いいんだ。あっちがフって、俺がOKを出した。


これで、終わりだ。


俺は新しい恋をした。今はこれを頑張らなければ。

気持ちを改めるように息を少しはいて、もう一度アンナさんを見た。

ちょっとだけ頬が上がって、目を細めた。


*******************************


今俺は下校中である。

木曜の学校ほど辛いものなどあるか。

いや、どちらにしろ学校は嫌だが。

それでもアンナさんを眺められるだけで俺は幸せだ・・・。


アンナさんの顔を思い出していると、どうしてもにやけてしまう。

隣を通り過ぎた女子小学生2人が顔を蒼白にして逃げ去ったような気もしたがまぁ良い。


車道と歩道を()けるために植えてある木は、夏らしく青々を茂っている。

反対側には色々な店が立ち並び、橙色の夕日の光を浴びてキラキラを輝く。


進んでいくと小さなカフェがあった。透明なガラスが張ってあり、店内がよく見える。とてもおしゃれな雰囲気で、こんなとこでアンナさんとデートできたらなぁ・・・と変な妄想が膨らむ。


あぁ、会いたいなぁ。ここでお茶でもしてみたいなあ。


もう一回店内をぐるりと見渡した。

カップルが何組も座って、席は結構埋まっていた。


と。


俺は奥のある席に、見覚えがある人物がいるような気がした。

知り合いかな?目を凝らして奥を見る。

そして、それが誰か、確認が出来た。


「・・・え・・・?」


嘘だろ、そんなわけない。

そんな思考が回り回って、冷や汗が体中から吹き出る。


「アンナ・・・さん?」


つい、口に出た。

そう。その奥にいた見覚えのある人物とは、アンナさんだった。


普段の俺ならすぐさまカフェに入り込んで、あちらから見えないような席で、アンナさんを眺めているだろう。

だが、今は違う。本当はできることなら飛び込みたいが、今はできないのだ。


アンナさんは、男の人と楽しそうに話していた。


見たこともないような笑顔で、いつもより明るく。

俺は確信した。こいつは彼氏で、アンナさんは彼女だ。


誰がどう見たってそう思う。

あいにく男は後頭部しか見えない。だが、アンナさんはその男を見て顔を赤らめている。


付き合っている人がいたんだ。


その言葉が頭に浮かんだ瞬間、失望と怒りがこみ上げてきた。

なぜ俺はこんなイライラしてるんだ。アンナさんは楽しそうじゃないか。

嫉妬だ。俺は嫉妬してるんだ。


震える手をギュッと結んで、カフェに入った。

店員の声が聞こえて、連れて行かれて、微妙にアンナさんたちが見える席に座った。


「えへへ・・・でしょう?おかしくて笑いが止まらなかったの!」


学校であったことについて話しているようだ。

俺は立ち上がって話に割り込みたい衝動を押さえ込んで、コーヒーを飲んだ。

カップは震えて、それをもつ手はかなりの力が入っている。


そうだ。男が誰なのか見ないと。

俺はゆっくり体を反らして、男の顔を確かめようとした。

そして、見えたのはものすごく予想外のものだった。


「・・・あいつ・・・!!!」



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