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異世界の獄窓から ―其の弐―

 


 突然だが君は異世界とやらに憧れているか?


 少なからず俺は興味や憧れを持っていたよ。


 この異世界・・・・・・・・に来るまでは――




 俺こと大河普之タイガヒロユキは未だ最初の村に入る事も出来ず迷走中である。


 だが、今回の俺は今までとは一味違う。何故ならば今の俺にはこの光り輝く小枝がある、とうとう俺もチートを授かった訳だ、さぁ矢でも鉄砲でも撃って来やがれ。


 そうこう妄想に浸っている内に町の近くまで来た、幸い守衛からは死角になる位置に身を隠せる程の岩があり俺はそこから様子を伺っている。

 ちなみテンションが上がっておかしく見えるのは決して気が触れた訳でも断じて元々こういう性格だからでは無い、理由は光る小枝とは別にある。


 そう、今の俺には着衣があるのだ! ここに来る途中に畑の柵に掛けてあったワラで出来たミノの様な物を羽織っている。遂に念願の着衣も手に入れる事に成功したのだ! フハハハッ!

 念の為に言っておくがこのミノは決して盗んだ訳ではない、一時的に拝借しただけだ。


 さて、勢いだけで正門近くの岩影に身を潜めたのは良いがこれからどうしたものかと俺は考えていた。


 袖口が無く膝上までしか丈がないミノ、下半身がスースーするがこの際に贅沢は言ってられない、ついさっきまで全身で風を感じていた俺にしてみれば些細な事だ。

 両脇から突然生えたような色白な腕が目立つが中にしまってしまえば違和感も差ほど無くなるに違いない、試しにやってみた。


 うん、とてもミノムシです。


 これで愛くるしい動きも相まれば今流行りの地方マスコット総選挙に出馬出来ると俺は思う。


 俺的には8割がたセーフな格好なのだが独断と偏見で行動した結果、酷い目にあった数々の主人公を俺は知っている、これも何かの本で見た。

 ここは慎重に相手の好みも考慮しなければならない、王道系なのかキモカワ系なのか……果たしてあの守衛カレの好みは如何なる物か。


 守衛カレに無理強いするつもりはないが今の俺は王道である可愛い系マスコットだ、これは譲れない。仮に意にそぐわなかったとしても俺の愛くるしい動きで虜にしてみせる自信はあった。


 意を決して戦略的特攻を掛けようとした寸前、俺の隠れている岩影の反対で子供達の声が聞こえた。



「上手に取れないなー」

「お兄ちゃん、もう帰ろうよ。日が暮れると危ないって言われてるし」

「ああ、もう! 邪魔するなよ」

「シスターが心配するよぉ」



 俺はこっそりと覗きこむ、会話からすると兄妹キョウダイのようだが……何やってんだ?



「あ! お前が焦らせるから折れちゃったじゃないか! 代わりになる物探して来いよな」

「グスグス……もう帰りたいよ、暗くなると怖い魔物モンスターに食べられちゃうって」

「そんなもん俺が倒してやるよ、だから泣くなって」



 あれは蟻塚か? あんな物をほじくり返して本当に何やってんだ。それに妹を泣かせるとは大いにけしからん。俺が説教を――……いや待てよ、あいつらはあの町の子供だよな? ここは友好的にお近づきになってだ、子供達の保護をした善良な紳士として堂々と門を通れるんじゃないか?


 何と言う絶妙なタイミング、我ながら冴えているじゃないか、思わず笑みがこぼれる。


 そうと決まれば――


 俺は岩影から身を乗り出し怪しまれないよう満面の笑みで子供達に声を掛けた。


「やぁ、君達。こんな時間にお外で遊んでいたら危ないじゃ――」


「「ぎゃあああぁーッ!」」


「ちょ、おい!? いきなり大きな声だ「「ミノムシの化け物が出たあぁーッ!」」」


「だ、誰が化け物だよ!? お兄さんは怪しい者じゃ、って! おい、兄貴こらっ! 妹を見捨てて一人で逃げるんじゃない! さっきの格好良い台詞セリフはどこいった!? ええい! くそっ!」


 こちらを見向きもせず疾走する兄の方の背中を見送った俺は咄嗟に置き去りにされた妹の方を脇に抱えた。

 何故に妹の方を抱えたのかと言うと特に意味は無い、今が吉と言う本能に従っただけである。

 決してこの状況を利用して単に触りたかったとか匂いを嗅ぎたかったとか断じて無いので誤解しないで欲しい。



「うわ――……んッ!」


「ちょっとお前も落ち着けって!? あ、暴れるなって! 何もしないから!」


 そう、俺は何もしない。断じてしないぞ。


「ヒグッ……――グスグスッ」


 駄目だこりゃ……どうすれば良い、このままでは町から大人達がこぞってやって来るのも時間の問題じゃないのか。

 一層このままこの子を連れて逃げるとか? それは……いや、止めておこう。


「うわァァァーッ! レイチェを返せー!」


 妹の方に意識を集中しすぎて不意を突かれた俺は接近を許してしまった。

 もしかして俺はこんな子供ガキに嵌められたのか!? 妹の方に俺が食い付くと分かっていて一線を引いた振りで俺を油断させるとは、その年にして妹を囮に使う鬼畜ぶり恐れいったぞ!

 だが俺もこのまま引き下がる訳には行かないのだよ! 俺には目的があってお前等に近づいたんだからな。






 そう! この妹の方オンナは俺の物だああああァァ!!






 俺の脚に兄の方がしがみつく。


「かかってくるが良い幼き勇敢なる者よ! 我を倒して妹を救って――って!? いっ、痛ッ!? か、噛むな! 本気マジ痛い! 痛いからッ!」


 素肌を晒している俺の脚に噛みついた兄を俺は必死振りほどこうと力を込めた。


「お、大人を舐めんなよッ! このガキンチョがああああッ!」


 俺は何かを忘れていた。


「ぐぎゅぅぅ――……」


「ぁ…」


「……う、うわァァ! 人殺し!ッッ! 許さないぞ化け物ォォッ!!」


 首筋に綺麗に決まった俺のチョークスリーパーによって妹の方は完全に落ちていた。


「ま、まて! ひひ、ひ殺しって人聞きの悪い事言うなよ!? 今のはわざとじゃ、お前が噛みついてくるから力み過ぎて、ってもう噛みつくのは止めてェェ――!! もうこれ以上はお嫁に行けなくなるから! いッいやァァ――ッ!」



 ・・・・・・・・・


 ・・・・・・・


 ・・・・・


 ・・・・


 ・・



「「――……ぜぇぜぇ、はぁはぁ」」


「な、なぁ? もう落ち着いただろ? ほら妹の方も気絶しただけだし」


 ぐったりと横になっている妹の方を尻目に俺は兄の方に話しかけた。


 幸い本当に気絶しているだけだ、細部まで触診したから間違いない。


 敢えてもう一度言おう、救命目的・・・・・・・で止むを得ず触診した訳で全くもって正当な理由である、訴えられる訳がない。


「……本当にレイチェは大丈夫なのか?」


「だから少しは大人の言葉を信用しろよな、大丈夫だって」


「だけど首以外にも胸とか足とか触って「アーッ! アーッ! 宜しいもう一戦交えようじゃないか」



 ・・・・・・・・・


 ・・・・・・・


 ・・・・・


 ・・・・


 ・・



「「ぜぇぜぇ、はぁはぁ……――」」


「ぜぇぜぇ……こ、今度こそお兄さんの事を信用してくれたかな?」


「はぁはぁ……し、信用出来る訳ないだろ魔物モンスターの言う事何か、俺達を食べるつもりか?」


 何時の時代も子供ってもう少し素直な方が可愛い気があるってもんだろ、異世界だからって人を信用しない子供は大人になってから色々と苦労するんだぞ、俺には分かる。


「食べねぇよ! それに何度も言ってるが魔物モンスターじゃないから!」


「どう見てもミノムシの魔物モンスターじゃないか」


「こんな愛くるしい魔物モンスターがいるわけないだろ……ったく、もういい。俺には時間が無いから話を進めるがさっき何やってたんだ?」




「そ、それは……って、レイチェ……が……それで……」


「男の子ならもっとはっきり言えよ、聞こえないぞ? 蟻でも食いたかったのか?」


「ち、違う! レイチェが大切にしてた物が無くなって、それで俺……」


「妹の方はレイチェって言うのか、それは可愛らしい名前じゃなくて、それでその大切な物が蟻塚にでも落ちたって訳でそれをお前が」


「レイチェは知らないけど俺とアイツは本当の兄妹じゃ……」


 そんな物が蟻塚に落ちるなんて偶然にも程があるぞ? この落ち込みようから察するに……成る程な、いわゆるアレってやつか。


「んで? その大切な物ってのは母親の形見とかしたり」


 兄の方の肩がビクリと動いた、ここまでは合ってようだな。


「実はレイチェの大切にしている母親の形見を蟻塚に隠したのは血の繋がりがない兄だったり?」


 更に肩を震わせ俯いたまま視線を合わせなくなったのを見て俺は確信した。




 さて、止めの一言。大人の俺が世間の厳しさってもんを教えてやろう、決して噛まれた仕返しに言葉責めをしている訳ではない、これも彼の将来の為なんだ。


「お前何でそんな事したんだよ? 血が繋がってないからとはいえ、妹の事が嫌いなのか?」


「……レイチェは蟻とか小さい虫が嫌いで」


 根本的に子供の嫌がらせだよな、この年頃の女の子はどこの世界に行っても嫌いな物が似たり寄ったりしてるって訳か。まぁ、うちの妹は例外だけど……。


「ペンダントにはレイチェのお母さんの写真が入っていて……」


「そうか、嫉妬したんだな。でも男が女を泣かせたら駄目だろ? まして兄なら守る側にいないと」


 この年にして複雑な環境なんだろうな、これ以上聞くのは酷ってもんだ。


「理由は分かった、お前はちゃんと妹を守ってたよな、さっきはナイスファイトだったぜ?」


 俺は親指を立てこれでもかと言う程はにかんで見せた。


 後退りしたように見えたが俺は気にしない。


「今日の味方は明日は敵だって良く言うだろ? こうして出会ったのも何かの縁だ、レイチェの大切なもん探すの手伝ってやるよ」





 未だ目を覚まさないレイチェを平坦な岩の上に寝かせ俺は羽織っていたミノを掛けてやった。(本当にただ寝てるだけだよな、念の為にもう一度触診するべきかもしれない)その際に邪な気持ちになったとか断じて無い。


 一張羅イッチョウラミノをレイチェに掛けた事によって俺はまたしてもパンツ一丁スタイリッシュになってしまった訳だが、それは仕方ない。 いくら俺が近くにいて・・・・・・・・・・・レイチェを見守っているとは言え無防備に横たわる幼女を見た獣が襲わないとは限らない、いや俺の事じゃないぞ?


 辺りも暗がりになって来たし急がなければならないな、パンツ一丁スタイリッシュで蟻塚を覗き込む姿は何と言うか太古の因子を刺激すると同時にいけない事をしている錯覚に見舞われる、少し興奮してきた。


 俺は高鳴る興奮を抑え蟻塚を覗きこんだが残念ながら期待していたような物は見えなかった、変わりに中は思ったより深くなっている事が分かったのだがそれはどうでも良い事だ、俺が見たかったのはこんな物じゃなかった筈だ。


「暗いな……流石に何も見えないし明かりになるような物あるか?」


「町に戻れば何かあると思うけど、取ってくるか?」


「いや、それは駄目だ。誰か近くで見ていないと俺のタガが外れるかもしれん」


「たががはずれる? どういう意味だ?」


「ゴホォンッ、ウォッホン! な、何でもない。あ、あれだ日が落ちて冷えて来たし、ほ、ほら咳してるだろ? 一刻も早く見つけないとレイチェが風邪を引いてしまう」


「そうだな、早くしないと心配した大人達が探しに来るし」


「え!? それはもっと不味い、非常に不味いぞ」


「何が不味いんだ?」


「え? あぁ、そ、それはだな大人に見つかったらお前が怒られるだろ? 俺はお前の事をいつも心配してるんだよ」


「気持ち悪い言い方するなよ……でも怒られるのは嫌だな」


「だ、だろ? ほ、ほら何か辺りを照らす方法とかせめて穴の中だけでも見える方法を考えようぜ? もちろん町に戻ったり大人を呼ぶのは無しだ」


 確かにこのままでは非常によろしくない、ペンダントが見つから無ければ心配した町の大人達が探しに来る。この状況を見られたら完全にアウトだ、兄の方が上手く説明をして……いや、期待出来ないな。

 説明も何も俺の姿を見た瞬間に集団私刑フルボッコだろう、仮に説明が上手く行ったとしても結局は犯罪者扱いは変わらないような気がする……。


 この姿でレイチェに覆い被りでもしている所なんて見られたらそれこそ集団私刑フルボッコに留まらず完全に即終身刑ゲームオーバーだ。フラグを立ててる訳じゃない、本当にそう思う。


 その時俺の脳内に閃光が走った。俺は天才だ……間違いなくここで終わるような愚かな人間ではない、神成らざる閃きに俺の体は震えた。


「お、おい寒いのか? 震えてるぞ……?」


 これぞ神のお導きである、正当にして至高の行為。いやもしかしたら俺自身が神であったとか? いやいや、今は謙遜しておこう神様とかになっちゃうと好きな事とが我慢しないといけなさそうだから。

 兄の方の声は耳に入らない、俺は一心不乱にレイチェに向かって駆け出し覆い被さった。


「なっ!? お、おい!? レイチェに何するんだ!!」


 今の俺には兄の方ガキの声なんて耳に入らない、今から行う正当にして至高の行為、即ち正行為・・・・・を邪魔する者は誰だろうと許しはしない・・・・・・・・・・・! それが神であろうと魔王であろうと! あ、神は俺自身か、ならば我に敵無し! 何人も我が聖域を侵す事は出来ぬ、フハハハハハッッ!!

 さぁ、レイチェよ神である我が生贄となり先ずはその皮膜を晒せ――


「イッ、イヤアアアアアアアアァァ――ッ!!」


 これぞ阿鼻叫喚と言うものか、悲鳴とも絶叫とも呼べる叫びはこの世の終わりとでも言っておこう。

 白い軟肌にしっかりと食い込んだ物は肉を抉り未だ奥へ進もうと力を緩めずに鮮血を滴らせている。


 人間は痛みに弱い生き物である、最初は誰だって痛みを伴う、しかし同じ行為を繰り返す事によって人間は快楽エクスタシーを得る不思議な生き物だ。


 しかし、最初は誰だって痛い。もちろん二度目であっても三度目であっても痛いものは痛い。




 そう、痛いんだ。


「イッ、イヤアアアアアアアアァァ――ッ!!」


 ほら、痛いんだ。


「ほんっとにいいいいいィィッ痛てえええええェェ――ッ!!」




 叫び主はもちろん俺。


 俺の真っ白な柔肌に兄の方がガッツリクッキリと噛み付いていた。


「だあああァッ! に、肉がエグれるッ! 千切れちゃうッ! いっぎゃあああァァ――ッ!!」


 俺はまともな神経の持ち主だ、何回されても気持ち良くなんてなったりは、し、しないぞ。


「あ、でもちょっと良くっ――ってなわけ、痛ッ――ッ! 痛いいいッ! も、もう許して下さい・・・・・・・・・・ッ! ごめんなさい! ごめんなさい!!」


「ガルルゥゥ!」


「おおッ、お、お前は犬か!? 狂犬だな!? いや獣なのか!? 間違いないいいだあああァァ――痛いいいいいいいいいいイッイイィッ――ッ!!」 



「痛いいいいいいいいいいいいいいいいいッ――!!」




 異世界の中心で痛いと叫んだ獣に噛まれた俺の声は静かに見守る夕日へ溶け込んで行った。

 


 俺はやっとこの世界と一心同体となったんだ、大人になってまで恥ずかしくて言えなかったけど今なら言える。



 小学生の時に仕事に行くといって帰ってこなかった父にありがとう、俺が高校の時に好きな人が出来たと言って消えた母にさよなら、そして全ての読者達に――

 
































 ――fin




ここまで読んで頂き有難うございます、感情に任せて終わらせてしまいましたがまだ続きます。

宜しければ今後ともお付き合い下さいませ。

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