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異世界の獄窓から ―其の壱―

 



 俺の名前は大河普之タイガヒロユキ、妄想癖のある自称魔法少女の妹によって異世界に飛ばされた、現在妹は元の世界に帰る方法を思索中である為にこちらからの呼び出しに答えない。


 俺は今どこにいるかと言うと鉄製の柵に囲まれた薄暗い部屋に身を置いているのであった。


 どうやらここは"牢屋"と言う場所らしい、俺の元いた世界じゃ聞いた事も無い言葉だ。


 仮にだが万が一に故意ではなく良からぬ事態により過失的に耳に入ったとしてもだ、俺には無縁な場所である事は間違い無い。


 そして何故に相も変わらずパンツ一丁スタイリッシュ正座をしているかと言うと、誠意を持った態度で接すれば善意者として清らかな心の持ち主だと主張アプローチしつつ相手の深層心理を揺さぶると言った完璧な二重作戦を決行中なのである、これは何かの本で読んだ。


 このまま主張アプローチし続ければきっと分かってくれるだろう、ここに入れられてから一度も様子を見に来ないとなるときっと俺の釈放について上層部と掛け合っていて忙しいのだ。


 そう、俺の誠意の篭ったパンツ一丁スタイリッシュ正座を一度も見ないで。




 ――どれだけ時間が経過したであろう、とっくに深夜は回っていると思うが……そもそも正座ってこっちの世界で意味はあるのか?



 ――誰も来ない、まさか寝ていないだろうな? いやいや、警察24時って言葉もある位だし既に誰もいないって訳はないだろう。



 ――少々奇抜な格好をしているが俺程の身分にもなれば上層部も頑なに拘留するのは難しいと思うのだが、中々どうして部下の意見を取り入れるのも尊敬される上司として必要だと俺は思うぞ。




 ――ならば良かろう、頑として対応するのなら俺にも考えはある。














「だだ、だ、誰か! 誰かここから出してくれェェ!! 俺は魔法少女のコスプレをしたヤツに騙されただけなんだァ! 俺は潔白だァァァ! 無実なんだァァァ!!」




 どうしてこうなった? 思い返せば数時間前の出来事、話は少し長くなるが俺はこの異世界に来たばかりだった筈――




 ◇◆◇◆◇




 「なぁ、雨音? そっちはどんな感じた?」


 《んー、今ね色々な所を探してるんだけど……"ガサガサ"……中々良いネタが無いなって》


「ちょっと待て、何を探してるんだ?」


 《何って? お兄ちゃんの恥ずかしいコレクション》


「ちょ、バカ! 止めろって!? そんな物有るわけ無いだろ!? いや、仮にだぞ? 万が一にあったとしてもだな――って探してるって帰れる方法じゃないんかい!」


 《何を慌てふためいているお兄様、女子が男子の部屋に入ったらやる事は決まってるじゃない》


「いや、だから色々と影響されすぎたから! それに女子が男子の部屋を漁るとか根本的に間違ってるぞ!?」


 《大丈夫、心配しないで。幸い本人もいなくなった事だし、案外こういう所に帰れる方法があったり》


「絶対に無いから! しかも然り気無く俺を亡き者見たいに言うなよ! まだ生きてるから!」


 《むぅ……やはり定番ではあるがこのベットの下が怪しい》


「そ、そこは! まて、待ってくれ。れ、冷静に話合おうじゃないか、な? 今ならまだ間に合うから早まるなよ?」 


 《"ガサガサゴソゴソ"》


「雨音ちゃん!? この貞操帯パンツに誓って本当にそこには何もないから! 嘘だったらお兄ちゃん貞操帯パンツ脱ぐから! そうすればどちらに転んでも美味しい……じゃなくて、あぁもう!」


(ええい、どうすれば良いんだ! 俺の人生類を見ない未曾有の危機ピンチじゃないか)


「分かった、俺が全て悪かった! そこを見られたら俺はもうお兄ちゃんじゃいられ無くなっちゃう! アァ――!」


 《"ガサガサ"……本当?》


「え? そ、そうなんだよ。 そこにはある物は後生大切にしてあってだな、墓場まで持って行くと決めた数々の男の勲章が眠っているんだ、だからいくら愛する妹であっても今は見せる事が出来ないのだよ」


 《お兄ちゃんにそんな大切な物があったんだね、知らなかった。――ちょっと羨ましいな》


 ……理由は分からないがどうにか人生最大の危機ピンチからは脱したようだ、雨音の言い方には少し引っ掛かるが今は良しとして大切な男の勲章コレクションと兄としての尊厳を守り通した事に祝福をしようじゃないか。


「うむ、決してやましい物など無いからな」



 そんなやり取りを繰り返して結局何も進展が無いまま時間だけが空しく過ぎて行った。


 日も暮れ始めた。流石に今の格好では色々と不味い、何が不味いかって……そりゃ風邪を引いてしまうではないか。



「なぁなぁ、まだ時間掛かりそうだよな。あっちの方向に建物が見えるけど村とかあるわけ?」


 《あれはビキニーズって町だね、門の所に守衛がいるわ》


「それ何て理想郷だよ!? 色々と膨らむじゃないか……そ、それにしても良く町の名前なんて分かったな? それも魔法ってやつか」


 《これは魔法じゃなくて念力だね》


「魔法だったり念力だったり不確定過ぎじゃないか……それにしても守衛か、この格好で行くのは流石に不味いよな」



 俺はあの町に入る為に何か良い方法がないのか考えた。



 《方法って言うより手段はあるかな?》


「お? 何か便利な魔法とか念力でもあるのか?」


 《1、魔物モンスターに身包みを剥がされて逃げてきたと助けを求め堂々と町に入る。 2、紳士を貫き大手を振って堂々と町に入る。 3、守衛を倒して堂々と町に入る。》


「どれも堂々と入れねぇ! 全て無理があるだろ!?」


 《そうかな?》


「そうだよ! 先ず1何てそんな身包みだけ剥ぐ器用な魔物モンスターがいる分けないだろ? せめて盗賊とかだなぁ、もっとマシな言い訳があるだろうに」


 《この辺りは治安が良いから盗賊はいないね。でも身包みを剥がす魔物モンスターはいるよ? 粘菌系魔物モンスターのスライムと触手系魔物モンスターとの融合魔物モンスタースライムニートとか。あ、でもスライムニートが溶解液で服を溶かすのは若い女性限定だった筈、だからお兄ちゃんは無理か》


「スライムがいるって事だけでも驚くけど、更に違う魔物モンスター同士が融合するとか、しかもニートってなんだよ!? それじゃなくとも若い女性の衣服だけ溶かすって何て素敵な――じゃなくて、ニートの癖に女性の服を剥ぐとか何て役得なんだ! さ、更にだぞ? 触手が有るスライムなんぞ実にけしからん! 何て男の夢が詰まった魔物モンスターだ、あぁ実に羨ましい!」


 《違うよ、触手系魔物はモンスターニートデスって名前で粘菌性魔物モンスターとは同系種だから》


「結局ニートじゃないか!? ご丁寧にニートですって自己紹介しちゃってるし」


 《ニートデスは女性の天敵だからね、でも見た目は結構可愛いんだよ?》


 そう言えば雨音は昔からグロテスク系を見る度に可愛いとか言ってたよな……。

 小学生の時なんて学級でカタツムリを飼っていたのに1人だけナメクジを飼っていて母親が学校に呼び出されたんだっけな。好みはかなり偏っていた筈だ、可愛い基準がかなりおかしい。


「絶対に可愛い筈が無いだろ、まぁ、それは置いといてだな。次に2だな、これは完全にアウトだろ……パンツ一丁の男が白昼に堂々と大手を振りながら歩いていたら明らかに変質者だ、この世界は分からないが下手したら槍やら剣で刺されたり斬られたりしてその場でゲームオーバーって事も有り得る」


 《一番楽な方法だと思ったんだけどな》


「どんだけ危険デンジャラスな罰ゲームだよ、そして実行ヤレと言うお前は俺に何の恨みがあるんだ? ――あと最期の3だけどな」


 《お兄ちゃんの活躍する所見てみたいな》


「だが断る」


 《お兄ちゃん格好良い姿が見てみたいな》


「だが断る」


 《このいけず》


「一番最初の町に入るだけなのに武装した守衛にパンツ一丁の男が命を掛けるってどんな無理ゲーだよ!? まだ普通に戦って死ぬデスゲームの方がまともに見えるぞ!?」


(パンツ一丁の男って言うのも死んだら終わりのデスゲームって所も俺自身が置かれた状況なんだよな、自分で言っててかなりへこんで来た)



 このままでは埒が明かない、こんな何がいるか分からない場所で一晩過ごす何て自殺行為だ。何としても日が落ちる前に町に入ってやる。

 それにしても星とか宇宙の概念が無い世界って言ってた割にはちゃんと太陽らしき物もあって日が沈めば夜になるようだな。



 《しょうがない、この方法は使いたくなかったのだけど。お兄ちゃん、その辺りにある適当な物を拾ってみて》


「なんだよ突然、良い方法が見つかったのか?」


 《うん、片手で持てる範囲で何か掴んで》


 雨音の言っている意味が分からなかったが取りあえず言う通りに足下に落ちていた小枝を拾ってみる。


 《じゃ、その小枝を上に掲げて。そうそう、体ごともう少し夕陽に向けて》


「あ、あぁ。これで良いか?」


 《うん、ではそのままの姿勢で"輝けウッドスティックよ、そして我に一時の天運を授けよ"ってあの夕陽に向かって大きな声で唱えて》


「そんな恥ずかしい事出来るかい! 何が悲しくて異世界に来てまでパンツ一丁で夕陽に向かって小枝なんぞ掲げているのも恥ずかしいのに、更にそんな中二臭い台詞セリフを叫ばないといけないとか、お前の羞恥行為プレイに付き合うのも限界があるぞ」


 《限界は超える為にあるのだよ》


「だから誰だよって……そんな恥ずかしい事俺はやらないぞ?」


 《誰も聞いて無いから良いじゃん、普段はもっと人に言えない恥ずかしい事してるくせに》


「お前が聞いてるだろ? それに普段からって聖人のように清く正しい心の持ち主である俺がそんな邪な事をする分けないだろ」


 《そんな事言うんだ? なら――"ガサガサ"》


「うおおおぉぉ! 俺の全身全霊を持って輝けウッドスティックゥ! そして俺に天運を授けてえええぇぇ! お願いキエエェェ!!」




 掲げていた木の枝がうっすらと輝き始めた。




「ぜぇぜぇ、はぁはぁ……ぉお!?」


 《やれば出来るじゃん。私、お兄ちゃんの事ちょっとは見直したかも》


「お、俺の全身全霊の叫びシャウトがちょっとって……はぁはぁ、こ、これいつまで光ってるんだ?」


 《大体3時間位かな? その間お兄ちゃんの運は最大値になっているから急いでね》


「何だよそれ!? 小枝凄すぎるだろ!?」


 《うん……ちょっと疲れちゃったから少し休むね》


「おい、どうしたんだ?」


 《お兄ちゃんをこっちの世界に戻す為に貯めていた魔力全部使い切っちゃった》


「そうか、それは無理をさせてすまなかっな……って、うおぉい!? 駄目だろそれ! 何でこんな小枝に全部使っちゃったの!?」


 《ん、お休みなさい》


「もっと有効活用があったんじゃない!? 例えばほら今は足りなくても帰れるように最後まで温存するとか、それじゃなくてもせめて無事に俺を町に送り届けるとか? って、おーい雨音ちゃん? 本当は聞いてるでしょ? いつも見たいにお兄ちゃんを苛めてる楽しんでるだけだよね? おーぃ――……」


 


 俺の叫びも虚しく雨音との交信は途絶えた、それにしても今回は俺の悪口は遠慮したのか自身で言わせようとか思わなかったんだろうな、流石の俺もそこまで自虐的になれない。




 ――それから俺は雨音の覚醒ネオキを待った。どれだけ時間が経過したのだろう、話相手もいなくなり俺は孤独を感じていた、パンツ一丁そして片手には光る小枝。

 変態度が増したようにしか思えないのだが果たして大丈夫なのだろうか? 雨音が言った事が本当なら今の俺は弾丸すら避けて通る程にツキまくってるって事だよな。

 今は取りあえずは雨音の言葉を信用しようじゃないか、この好機チャンスをみすみす逃す訳にはいかない。



 《あ、スライムニートに食べられないように気を付けてね、男性はグチャグチャに溶かされて消化されちゃうから》


「こ、怖い事言うなよ!? そんな凶悪な融合魔物モンスターが一番最初の町で出るとかどんだけハードモードだよ!? 起きてるならせめて町に入るまで責任持って見届けろよ? ねぇ、聞いてる? ――……おぃ」



 結局の所この小枝をどう使えば良いのか聞き出せなかった、効果時間3時間のうち雨音の完全覚醒ネオキ待ちで既に1時間は無駄にした気がするが今度こそ1秒たりとも無駄に出来ない状況である。

これ以上考えたってしょうがない。後悔後に役立つ・・・・・・・・・ってことわざも有る様に、後悔なんてやってしまってから考えれば今後の役に立つと良く言ったもんだ。

 


 そして俺はパンツ一丁スタイリッシュな格好のまま光る小枝を握り締めて町に向かった――




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