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プロローグ

 



 今日もパチンコで負けた。

 家賃に光熱費その他諸々毎月の支払いが7万円少々―― 

 次の給料まで残り28日、バイト代が入ってから僅か3日後の出来事であった。


 電車代をケチった為に徒歩1時間をかけて家路に着く。

 何度目か財布を開けて中身を覗き思う。


「何度見ても硬貨だよな、紙幣は入ってないよな」


 財布を振りながら音を確認する。


「もしかして増えてないか? 361円……うん、増えてない」


 一人遊びにも飽きた頃に家に着いた。一見して外観は程々に綺麗な賃貸アパートで傍から見れば平均的な浪人生って所だろう。


 家に入るとまず確認しなければいけない。

 キュキュ、ジャ――、キュッ。

 よし水道はまだ生きてる、これで塩があれば何とか生き永らえる事が出来ると確信を持った。

 ガスと電気は3ヵ月払わないと有無を言わさず一方的に止められたが、さすが最後の砦ライフライン中々にしぶといじゃないか。


 因みに家電製品は揃っているが電気が止められては無用の産物、テレビのリモコン何てもう2カ月ほど見ていないなと思いながら横になった。


 それにしても眠い。そう言えばパチンコ屋に行く為に早起きしたんだっけな片道1時間も掛かるし、時計を見ればまだ正午を回ったばかりだ、世の中は不公平だ何か間違っている。

 3日前にバイト代を貰いその翌日から3連休だった、友達も彼女もいない俺は唯一のパチンコ屋(心のオアシス)に出向いた。


 しかしそこでバイト代を全て失う等と言う可能性は予感はしていたがまさか現実になるとは夢にも思わなかったのだ。


 本当にこの世の中はくだらない。頑張って稼いだ僅かなバイト代からは税金が徴収されこの国の糧になる、そんな俺達の税金で甘い汁をすする政治家共、こんな格差社会の世の中では低所得者が生き抜くには世知辛すぎるってもんだ。そもそも物を通貨で手に入れるなんて法律を誰が作ったんだ? 今こそ古き良き風習を見習うべきじゃないのか? そう、物々交換だよ。

 他人が作ったルール何てくそ食らえだ国家権力がなんだ俺はもう働かないぞ、今決めた。俺は俺の生き方を貫くぞ。




 だけど腹が減った……。 






 ――誰かお金下さい……。




 俺『大河普之タイガヒロユキ』は至って平凡な人生を歩んでいる、父も母もちょっとアレで仕送りはしてくれないが高校を卒業後してから社会に出て立派に独立して1人暮らしをしている、そして可愛い妹もいる俺はリア充ならぬリア中と自負している、決してアル中とか薬の中毒性がある意味じゃないのでお間違え無く。



 ドタドタと慌ただしい足音と供に勢い良くドアが開く。


「お兄ちゃん生きてる?」


 ほら、噂をすれば可愛いマイシスターが俺の窮地に駆けつけてきたじゃないか、だが素直に喜ぶ訳にはいかない、ここは毅然とした大人の対応をする。


「こら、廊下は静かにしろと何度も言ってるだろ? あと、呼び鈴チャイムを使ってだな、いきなり入って来るんじゃない、色々と取り込んでたらどうすんだ? 隠す暇もないじゃないか。それにだ何度も勝手に合鍵を作るんじゃない」


「私だって色々と忙しいのにお兄ちゃんにご飯買って来たんだよ?」


「偉いぞ雨音アマネ! お前は何も間違ってないぞ!」


大河雨音タイガアマネ』は6歳年下の妹である、そんな可愛い可愛いマイシスターがガサガサと袋を開け取り出したのは俺の大好きなインスタント食品であった。


「お兄ちゃんの大好きなガッツヌードル買ってきたよ」


 俺の好みを知り尽くしている所も可愛い奴だ、しかし疑問があるのだが……。


「ガスも止められたお兄ちゃんの為にちゃんとお湯を入れて来たのでした」


 さ、さすが我が愛する妹マイシスター、俺の疑いに対して有無も言わさせない……だが……。


「ちょっと待て、ここから一番近いコンビニでも徒歩30分はかかるぞ?」


「ふふん、そこはちゃんとお湯がこぼれるスレスレまで煎れてきたので大丈夫でした! あれ、もしかしてガッツヌードルより緑のさぬきの方が良かった?」


 おい、我が愛する妹マイシスターよ。何で偉そうに踏ん反り返っているんだ……? 弁当とかせめてオニギリとかあったのに、その嫌がらせチョイスはなんなんだよ……。




 無言で長寿饂飩ウドンいや、冷めて伸びきった汁無し拉麺をすする。




「ねぇ、お兄ちゃん。 もし生まれ変わったらどうしたい?」

「唐突になんだよ? そりゃ、金に不自由しなくて女にモテモテで――」

「真面目に答えてよ」


 いや、真面目に言っているつもりなんだが、雨音の顔が怖い……。


「えっと、あれだ。今より少しマシな生活をだな」

「私はいない方が良い?」


 本当いきなりどうしたんだ? そんな真剣な目で見つめられると……。


「も、もちろん。いるに決まってるだろ? 生活は今よりマシで変わらず雨音オマエもいてだな――」



 飯も食い終わり俺は相変わらず横に寝そべって世界情勢について考える。



「さてさて、それではお兄ちゃんの願いを叶えようと思います」

「これまた唐突に何を言い出すんだ、それにその格好は何だよ?」

「なにって魔法少女って言ったら魔法のステッキでしょ?」

「いやいや、格好って言ったんだよ! そもそもいつの間に着替えたんだ? それに着替えるときは事前にお兄ちゃんに伝えてくれないと困るって言ってるだろ? こっちも色々と準備とかあってだなぁ」


 昔から魔法やらなんやらにはまっていたのは知っている、度が行き過ぎない程度に趣味の範囲で楽しんでくれれば兄として何も言うつもりはないのだが、フリフリのスカートにシルクの袖口、そして―― 胸元と背中がえらく開いていないか? 他の男共の視線がそこに集中したらどうするんだ、何て不埒な実にけしからん! そして何より見えそうで見えないとは真に遺憾である! もちろん兄としての感想でだ。


 やる事も無い暇な俺は雨音の魔法少女ごっごに付き合ってやる事にした、たまには妹に構ってやると言うのも兄としての努めである、これもまた一興一興。






 そんな軽い乗りで付き合ったお遊びがまさかこんな事になるなんてその時の俺は夢にも思わなかった。




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