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第三十話 旧都にて

 市街地に出てきたが、炎上による影響は深刻だった。

 崩れ落ちるほどの被害が出ているのは王宮に限られていたが、飛び火した炎によるものか、あるいは別の要因かは分からないが、街もかなり荒れた様子だったのだ。まるで砂嵐によって破壊されたような跡まである。

 しかも時刻は夜なのだ。見通しが利かず、生き物がいるかどうかを確認するのは困難だった。

 王宮を燃やしている炎を光源にして探しているため、影の濃い部分については闇同然。一人で歩いていたら、あっという間に道を失っていただろう。

「最初、爆音が聞こえたからな。おそらくその時だ」

 瓦礫を見ながら、ポツリとファルは言った。

 どうやら彼は『お祖母様を説得にいく』といって飛び出して、用事を終えて帰るところで炎上騒ぎが起きたらしい。

 静かな表情を浮かべた彼の胸の内で、どれほどの感情が渦巻いているのかはうかがい知れない。

 私はと言えば、旧都に対する思い入れがないせいか、薄情なくらい冷静だった。

 エランは砂漠の街だ。その昔から砂嵐によって都市が滅んだ例はいくつもある。西の大帝国などがその一番大規模な例だろう。先ほど見たあの砂嵐の様子を見れば、人間が何かしたところで抗えるものではなかったことは分かる。

 逃げるしかない。その逃げることでさえ、『魔法の絨毯』ではできなかった。

「見えませんね」

 そういって、私は街を囲んでいるはずの外壁の方へと目を向けた。

「砂嵐か?確かに、アラムから聞いたほどの規模ならば、見えてもおかしくはないが……」 

 首をひねったファルは、「止んでくれていれば、それに越したことはない」と言葉を続けた。

 生存者探しは難航した。時折声を上げて生存者がいないかどうか確認して回ったが、どこからも返答は返ってこない。声も出せないような状態であれば、探すすべはなかった。

 瓦礫に埋もれて逃げられなかった人の姿は何回か見かけた。

 すでに助からないと一目で分かる姿に顔が歪んだが、ファルは彼らを連れていこうとは言わなかった。一人二人であったとしても、連れて街中で人探しを続けるのは不可能だったからだ。男か女か、子供か大人かを確認して、その場を去る。

「荒れているだろう」

 ファルがポツリと呟いた。

「国王陛下がこの都を放棄してから、都の維持にかける金額が減った。20年も経つとこのありさまだ」

「どうして放棄したんです?オアシスの水量が減ったようにも思えませんし、交通の要衝ではないとはいえ、エランで畑を作れるような場所を放棄するなんて……」

 勿体無い。そう言外に尋ねると、ファルは静かに答えた。

「ここが都だったからだろう」

「……?そういえば、ファルは旧都ではなく都と呼ぶんですね?」

「……お祖母様が気になさるからな」

 苦笑いを浮かべた後、ファルは続けた。

「日干し煉瓦は雨に弱い。エランは雨が少ないからさほどでもないが、劣化したものを修繕しないでいれば壊れていくのは当たり前だ。

 王宮は美しさを維持していたが、その足元までは手が回っていなかったみたいだ」

「しかし、それはファルが責任を感じることではありませんよ」

「……オレが希望すれば、もっとこの街を訪れることはできたはずだ。だがオレは望まなかった」

 ファルの動きは計画的だった。

 旧都を9つのブロックに分け、その一つ一つを漏らさず確認していこうとしているのが分かる。

 一度見て回ったところを二度見るのは効率が悪いからだろう。

 報告を受けているため、各ブロックで行方が知れなくなっている人数は把握しているらしかった。「ここで12人」「……うち、3名の死亡を確認」とポツリと呟く声からそれが分かる。

「……お祖母様はおとぎ話に詳しくて、その話を聞くのは楽しかったんだ。だけど、……現実的ではないと国王陛下は嫌がる。国王陛下がこの街を訪れるのは、お祖母様の部下たちを減らすため。遠からずこの都を完全に放棄したいと考えているのだろうとオレは思っていた」

 苦笑いをするファルは、おそらく父親と祖母、双方に遠慮してきたんだろう。肉親のいない私には分からないけど、たぶん、ファルにとってはどちらも大事な存在だから、片方に肩入れなんてできなかったのだ。


 三つ目のブロックに差し掛かった時だった。動く人の気配がした。

「!ファル、今、誰か動きました!」

 瓦礫の方を指差して私が叫ぶと、ファルが黙ったまま駆け出した。

 瓦礫を崩さないよう気をつけながら声をかける。

「誰か!いるなら返事をしろ!私は王子ファルザード、救出にきた!」

 大声を上げて辺りを見回し、人の気配を追いかけて走る。だが、角を曲がったところで動く気配が分からなくなった。

「ラーダ、どのあたりで見たんだ?」

「こちらだったはずなんですが……」

 自信がなくなりつつそう答えた時である。

 瓦礫の向こうから姿を見せたのは、人に似ていたが人ではなかった。

 

 それは、砂の塊だった。

 限りなく人に似た姿だったが、素材は砂。顔も、身体も、手足も、すべて砂でできている。それでいて崩れたりはせず、こちらに歩み寄ってくる。瞳がないのが怖い。どうして動いているのか分からないのが恐ろしい。

 砂の塊は、手に武器を持っていた。一体が錆びた剣だとすれば、もう一体は木の棒、もう一体は割れた壺といった具合で不統一だったが、いずれも殺傷能力がある。

「『砂人形』……!?」

 ただし、以前見たものとは比べ物にならないほど、お粗末な造形である。

 かつて見たものは黒ずくめで、黒装束を身に着けた人間と区別がつかなかった。動き方も人間そのもので、明確な狙いを持って襲ってきた。

 だが目の前にいるのは砂の塊で、動き方もぎこちない。

「『砂人形』ということは、切れば崩れるな?」

 そう言うなり、ファルは目の前のそれに蹴りつけた。衝撃が加わるなり、ぐずぐずと崩れ去るのを確認すると、手に持っていた錆びた剣を拾い上げ、今度はそれで別の一体を斬りつける。瞬く間に周囲に砂が舞い散っていく。

 驚くほど迷いのない行動に、私の方が驚いてしまう。

「仕方ないですね!」

 私もまた、腰飾りを引き抜いて、ぐるぐると振り回すと、手近な『砂人形』に向かってそれをぶつけた。

 

 際限のない戦いだった。

 『砂人形』は一撃で砕かれるのだが、次々と瓦礫の影から現れるのだ。どうやら私たちが目的というわけでもないらしく、ただウロウロしているだけのものもいる。

 こうなると、ただ体力を削られるだけのようにも思え、私は脱出ルートを視認した瞬間、ファルに向かって叫んだ。

「逃げましょう、ファル!このブロックから離れた方がいいです!」

「……くそっ!」

 ファルもまた、生産性のなさに気づいていたんだろう。これが、誰かを救出するための戦いなら喜んでするが、『砂人形』の妨害をかいくぐった先に誰かいるとは限らないのだ。

「誰か!本当にいないか!?」

 最後にそう、大きな声で叫んでから、ファルはこのブロックを諦めて走り出した。


 四つ目のブロックに差し掛かったところで、『砂人形』の追及はようやく止んだ。

「はあぁっ!はぁっ!はぁっ!……はぁ。はぁ……」

「ふ、ふぁっ、はぁっ、あふぅ……」

 体力には自信があったのだが、今日はそもそも港湾課の仕事を終えた後、食事もせずに『魔法の絨毯』に載ったのだ。エネルギー切れもいいところだった。

「かといって、水も食料もないですしね……」

 チラリとファルを見やったが、彼だって水や食料を持っているようには見えない。

 なんということか、生き残りを探しているはずが、そもそも私たち二人が遭難するかどうかの瀬戸際だってことだ。

「食料か。……そうだな、水はオアシスに戻るまで我慢してくれ」

 そう言うなり、ファルは手近にあった建物の中に踏み入っていく。台所だった場所のようで、床に皿や壺が散乱していた。

「このあたりなら食べられるだろう」

 豆の入った壺を持ち上げ、一つかみ。王族というのが嘘のような慣れた動きだった。

「ファル、まさか生で食べる気ですか、この豆」

「食えないことはないと思うが」

「……こういう豆って保存が利く代わりに、生だとおなか壊しますよ?」

「そういうものか?だが、煮豆のようなものは残ってなさそうだからな」

 一つかみした豆を口に放り、もぐもぐもぐとファルは咀嚼した。アクがあって苦かったのだろうと思うのだが、無理やり飲みこんだ後、ファルは言った。

「即座に腹を壊すものではないらしい。毒見は済んだぞ」

「王子に毒見させたと知れたら、私、クビになりそうです」

 ははは、と乾いた笑みを浮かべた後、私も一つかみご馳走になることにした。

 本来は煮て、かなり増量する種類の豆であるからして。生の状態で食べるとかなりおなかにたまるようだ。正直なところ固いし味もついてないし、とても美味しいとは言えなかったのだが、これ以上贅沢言える立場でもない。飲みこんだ直後からキリキリとおなかが痛いような気がするのは……、ううう。なんとか我慢できない範囲ではなかった。

 ファルのおなか、丈夫すぎだ。王子っていいもの食べてるんじゃないのか?

 ファルは豆をご馳走になった台所で、使えそうなものを物色していた。ランプを拾い上げ、壺の底に残っていた油を使って火をつける。

 油の量が少なかったのであまり長くは持たなそうだが、移動する際の足元を照らすくらいには役立つだろう。

 完成したそれを、ファルは私に持たせた。ランプを持つのは私の役目ってことか。


「ラーダ」

 暗闇に浮かぶ灯りの中で、ファルが尋ねてくる。

「はい?」

「……アラムは、なぜ君を残した?」

「言っていたでしょう。ファルが無理をしないように、だそうですよ」

「『魔法の絨毯』は回数制限がある。もう一度こちらに戻ってくることはできないはずだ。なのに、なぜ残った」

 詰問するようなファルの視線に、私は困ったように問い返す。

「では、逆にお尋ねします。ファル、あなたはどうして残ったんです?王族の責任感ですか?旧都に”生きて”取り残された人々がいないと確認するまで、この場を離れられないなんて、こんな非常事態に追究してくる人はいないと思います。むしろ、砂嵐によって埋もれる前に脱出することこそ、王族に求められていることだったのではありませんか?」

「……」

 目を逸らしたファルに、私は言った。

「アラム先輩が私を残した理由は一つだけですよ」

 先輩はわざわざ口にしたりはしないだろう。だけど、これが理由のはずだ。

「ファルを死なせないためです」

 自分で言うのはどうかと思うが、ファルが私のことを特別視しているとするならば、私がいるのに安易に死ぬことはないだろう。死にもの狂いで生き延びるはずだとアラム先輩は考えたのだ。

 アラム先輩は王位継承者としてのファルに期待している。継承権を剥奪させないために、私をサンジャル様へのフォローに使ったくらいだ。

「……ずいぶんと信用されたものだ」

 困ったようにファルは笑った。

「ラーダ。今から言うことは、絶対に他には漏らさないでほしい」

「?……調査に関することでなければ」

 私が答えると、ファルは言った。

「君の指摘はある程度正しい。

 オレは、旧都に”生きて”取り残された人々がいないことを確認した、という事実が欲しい。そのため、夜が明ける前に全区回り切っておきたい」

「分かりました。急ぎましょう」

 だが、ファルの目論見は叶わなかった。

 恐れていたことが起きたのだ。

 日干し煉瓦の向こう――外壁の外側に発生した砂嵐が旧都に近づいていた。


 

 もともと、空は暗かった。

 すでに日は落ち、空には星々が瞬いていた。砂嵐を抜けてきたためか、それをよく覚えていた。

 薄暗く砂色のヴェールが視界を包んでいく。空気中に漂う砂のにおいが濃さを増していく。空をみるみるうちに覆っていくのは、雲のような塊であり、それが砂であることを疑うことはできなかった。

「ファル――!」

 空を見上げて声を震わせた私に、彼はすぐに意図を理解した。

 目に留まった建物の中に飛びこみ、二人して空の様子をうかがう。

 すぐに砂が吹き荒れるというわけではないらしい。だが、砂嵐は壁の規模に膨れ上がり、ゆっくりと、だが確実に、人の歩みよりは早く近づいてきているようだった。

「オアシスまで戻るのは無理か」

 ここは四つ目のブロックだった。オアシスまで戻るには、どんなに急いでも一ブロック分を通り抜けなくてはいけない。

「……ですが、ここよりはマシかもしれません。移動しますか」

「……」

 ファルの目には迷いがあった。即断するにはあまりに大きな事柄だったから仕方ないとも言える。

 私も反省だ。ファルと会ってから、ずっと決断を迫ってばかりいる。アラム先輩は上司だからそれでいいけど、ファルは友人だというのに。

「私は、行くべきだと思います。到達までにたどり着く可能性はゼロじゃない」

「信じよう」

 ファルの言葉に笑って、私たちは走り出した。

 砂嵐の被害は、大きく分けて二つある。一つは砂をかぶってしまうこと。空に舞い上がった砂は隈なく降り注ぎ、辺りを砂で埋め尽くす。これによって砂に埋もれた都市は、その後何十年も見つかることはない。砂嵐がおさまった後に現場に戻ってきたとしても、埋もれているものを掘り起こすことはかなり困難だ。

 もう一つは、強風によって吹き飛ばされること。上空に舞い上がる砂は、回転しながら上昇している。そのため、巻きこまれた者は高速回転する風と砂によりズタズタに引き千切られ、跡形も残らないという。これについては推測でしかないが、砂嵐に直撃した者は二度と見つからないので、信憑性は高い。

 来た道を帰るだけだと思っていたが、私たちは失念していた。

 オアシスへ向かう直進ルートは、三つ目のブロックを通り抜ける必要があった。『砂人形』たちが待ち構えるブロックだ。

 再び瓦礫の端から姿を見せた『砂人形』たちは、砂嵐に怯える様子もなく、先ほどと同じようにのっそりと近づいてくる。

 まさかとは思うが、この『砂人形』ははじめから、退路を断つために配置されてたなんてことはないだろうな。

「く……、相手をしている時間はないぞ」

 ファルが錆びた剣を手にしながら呟くのを聞いて、私の頭に妙案が浮かぶ。

「直進しましょう!」

 ファルの手の上に片手を重ね、私は一つうなずいた。

 ファルの持っていた錆びた剣を前に突きだし、私とファルは駆けた。途中、ぶつかった『砂人形』たちが崩れていくのには目もくれず、確かに崩れたかどうかを確認もしない。崩れた『砂人形』の砂が目に入りそうになるのも無視して、とにかく通り抜ける。

 何体目かの『砂人形』を壊したところで錆びた剣が折れた後は、二人して拳で叩き壊しながら進んだ。

 

 ――――ズズズズズズズズ…………!!!

 

 形容しがたい音が近づいてきていた。

 旧都の半分、7、8、9ブロックはすでに高く立ち昇る砂の壁の中に呑まれていった。

 日干し煉瓦による防壁など物の数にもならなかったのだろう。巻き上がる砂壁の一部になってしまったのかもしれない。巻き上がる建物の欠片が、砂壁に取りこまれていくのが分かる。

 このまま旧都を通り抜ければ、文字通り跡形も残らない。旧都が消える。

 

 オアシスにたどり着いた時、砂壁はすでに4ブロックを呑みこんだ後だった。

 建物の下に避難したままであれば、今頃あの砂嵐の中に取りこまれていたはずだ。

 だが、オアシスとていつまでもつか分からなかった。池と緑があるとは言っても、砂壁はまったく見通しの利かないのだ。このまま取りこまれてしまったら池ごと緑ごと砂の下に埋もれてしまうだろうし、池ごと巻き上げられ、砂嵐の中に消えてもおかしくはない。


 ――ズズズズズズズ…………!!!


 オアシスの木の影に隠れ、様子をうかがう私の耳にファルの声がかかった。

 このまま木を命綱にして、根っこの力を頼るしかないだろう。砂嵐の中に巻きこまれさえしなければ、砂嵐はいつか通り抜ける。その時まで息が保ち、かつ、砂に埋もれきってしまわなければ助かる可能性が出てくる。

 すう、と大きく息を吸いこんだ時、ファルが口を開いた。

「ラーダ。こんな時に言うのは、どうかと思うんだが」

「?なんです」

「死ぬかもしれないと思う時に、君と一緒にいられて、喜んでいるオレがいる」

「え」

 冗談かと思って横を向くと、大真面目な顔でこちらを向いているファルの姿があった。

 スイッと持ち上げる彼の手に、私の手が添えられたままだ。そういや錆びた剣はもうないんだから、手をつないでいる必要はなかった。

「つないでいてもいいか?」

「いや、まあ、ダメではないですけど」

 何を暢気なことを、と非難したくなった私の目に、ファルが微笑む姿が映った。


 ――――ずずずずずずずずずず…………


 耳がおかしくなりそうだ。近づいてくる砂嵐の音が大きすぎて、ファルが何を言っているのかが聞こえない。

 降ってくる砂の量が多すぎて、視界がどんどん砂色に覆われていく。

 つないだ手のぬくもりだって、砂の乾いた感触の方が大きくて今にも離れてしまいそうだった。

 ラーダ、とファルの唇が動いた。

「なんですか!とにかく伏せて――」

 オアシスの土に伏せながら、木の幹に向かって手を伸ばした。


 アラム先輩と一緒に『魔法の絨毯』に乗っていた時は、無様に気絶してしまった。だが、今回ばかりはそういうわけにはいかない。

 まだ諦める気にはならないのだ。

 空を覆う砂色の壁が視界を覆っていく中、私はふと思い返していた。


 ――そうだ、『魔法の絨毯』に乗っていた私たちは、どうやって助かったんだ?



 


 

 答えはすぐそこにあった。


 ぴたりと風が止んだ。


 驚く間もなく、目の前にするすると降りてくる白い梯子。

 梯子にぶら下がっていた男が、私とファルをまとめて抱え上げ、再び上昇していく。

 風は吹いているのだが、それは砂嵐のような凶悪なものではなく、心地良く吹くものだった。

 砂嵐が、この周囲だけは避けているのだ。


 男が降り立ったのは甲板だった。

 白く美しい船が、まるでそよ風の中に帆を張っているような顔をして、そこに浮かんでいる。

 私とファルとを乗せたのを確認するなり、それはさらに上昇していく。


 視界の中には再び動き出した砂嵐が旧都を蹂躙していく光景が映っている。

 瞬く間に砂壁の中に取りこまれた旧都は、もはや、建物の影も形もなくなっていた。

 砂嵐が通り抜けるまでの時間は、せいぜい一時間くらいだっただろう。

 旧都だった場所にはこんもりとした砂の山があった。オアシスの跡と思われる場所に小さな木が一本だけ残っているのが見える。

 王宮も、薔薇園も、人々の生活を潤した池も、畑もなく。砂の外壁に覆われた都市はどこにも見えない。

 

『危機一髪だったね。あと一人でもいたら定員オーバーになるところだったよ』


 その船の名はシンドバッド。その船頭たる人物が、私とファルを出迎えた。

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