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第二十九話 王母と王子

 見上げた先に星空が見える。水と薔薇の香りが鼻に届いた。

 気絶していたらしい、と理解した私は、ぼんやりとした視界の中で瞬く星の姿にホッと息を吐いた。

 見えるのが砂ではないというだけで、これほど安心できるとは驚きだ。

 ギシギシときしんでいる身体を起こし、周囲を見回すと、そこはオアシスの一角のようだった。旧都を覆う日干し煉瓦の内側にあたる。

 この旧都は、中央にオアシスがあり、それに寄り添うように王宮がある。さらにそれを囲むように街が作られ、一番外側に日干し煉瓦でつくられた高い壁があるのだ。

 オアシスの規模は大きく、外壁の内側に畑などもある。人々の生活はオアシスによって賄われている。

 砂嵐に巻きこまれたのは、まだ旧都にたどり着く前だったのだから、私はずいぶんと長いこと気絶していたことになる。

 池を囲む緑は砂まみれだが、水の気配が伝わってくる。恐ろしい暴れ方をしていた砂嵐のことを思えば、嘘のように静かな光景だった。

 エランは砂漠の国だから、砂嵐自体は珍しくない。だがあれほどの規模の砂嵐は、街の近くでは滅多に起きない。より正確に言えば、あんな砂嵐が直撃したら、ひとたまりもなく街が消え去るということだ。

 視界の中にはオアシスの緑に隠れるようにして人々がいるのが見える。着の身着のまま逃げてきたのだろう、あちこちに煤やら砂やらつけて、ボロボロの服装をしている人が多かった。お互いによりそうようにして不安そうに見つめるのは王宮の方向だった。


「起きたか、ラーダ」

 アラム先輩の声が聞こえ、私はあたりをきょろきょろと見回した。

「情けないぞ、まったく。それでも港湾課の調査官か」

 それについては返す言葉もないのだが、あんなに揺さぶられて意識がもつ方がタフすぎるのである。

「そういう先輩は……」

「俺も人のことは言えん」

 ようやくアラム先輩の姿を見つけた。少し離れたオアシスの土の上、空を見上げてぜえはあと息を乱している男の人がいる。

 絨毯の上にいるので汚れてはいないのだろうが、立ち上がることもできないほど疲労しているように見える。

「回数制限があるからってあまり使ってなかったからな……。かなり疲れた……」

「回数って……。魔法的な何かがあるんですか?ランプみたいに、3回だけとか」

「いや、さすがにもう少し大丈夫だろうけど」

 ぜえはあ、と荒い息を吐きながら、アラム先輩は起き上がった。

「ファルに会ったか」

「いえ、まだ。起きたばかりなので」

 そう、私が答えた時だった。ワッと人々の歓声のようなものが聞こえてきた。

 オアシスに集まった人が騒いでいる声らしい。まるで祭りのような熱気だが、避難民ばかりだと考えると、これはマイナス方向の叫び声であるのかもしれない。

「ここにいたのか、二人とも」

 やつれた様子の人々を従えて現れたのはファルだった。固い表情を浮かべたまま、彼は静かに口を開いた。


 ファルもまた、服の一部が焦げている。炎に巻かれたのか、それとも逃げている最中に負った傷か。

 だが貴族らしい金糸の縫い取りがされた衣装と、男性用の装飾品の数々は、そのまま王宮から出てきた王子様姿だった。

「報告ご苦労。街中に逃げ遅れた者がいないかどうか、できるかぎり目を配ってきてくれ。くれぐれも深入りして二次被害を引き起こさないよう気をつけるように」

「承知いたしました!」

 ファルの言葉に、周囲を取り囲んでいた人々が動き出した。

 規律のとれた動きではない。服装もバラバラだ。ってことは、たまたま集まっていた人々なんだろう。

「ファルザード様、我々はどうすれば……」

 別の集団が声をかけてくる。どうやら人々は5、6名くらいで一つの集団を作っているようだ。親しい者同士がまとまっているとかそういった風だった。

「オアシスに脱出してきた人々を、地域ごとに統制してもらえるか。お互いに、知っている者が不在であれば報告してくれ。行方不明の人間がどのくらいいるのか、具体的な数値で寄越して欲しい」

「はいッ!」

「それと、王宮から脱出した人間は見かけていないか?」

「いえ、今のところ……」

「そうか」

 表情を陰らせながら、ファルは未だに赤々と燃え上がる王宮へと視線を向ける。

「なんとか建物からだけでも脱出できているといいんだが……」

「ファル。薔薇園は?」

「何?」

 突然口を挟んだ私に、ファルが驚いた顔をする。ファルと話していた人物も、王子に対するあまりに不作法な言い草にか、ギョッとした顔をした。

「水に紛れて薔薇の香りがする。王宮には薔薇園があったでしょう。そこに脱出していれば、あるいは無事なんじゃない?」

「……よく知っているな」

「昔、一度だけ来たことがあるから」

「?そうか」

 ファルは不思議そうな表情を浮かべたが、それ以上追究してこようとはしなかった。

「ラーダ、アラム。二人で薔薇園に向かってくれ。王宮内で働いていた者たちが逃げ延びていたら、オアシスの方まで脱出するようにと」

「あー。いいけど、旧都にいる王族ったら、王母様とそれにお仕えする方々だろう?俺たちの話なんて聞いてくれるもんか?」

「王子ファルザードの言葉だと伝えて、それでも従わないようなら、諦める」

 スッパリとしたファルの言葉に、アラム先輩は一瞬だけ目を見開いた。

「それと、この絨毯はこの場に残しておいてくれ」

「うん?構わないが、なんで……」

「これ以上ないものを運んできてくれた。感謝する」

 ファルの短い礼を聞いて、私とアラム先輩は顔を見合わせた。



 薔薇の香りを頼りに、王宮へと向かう。

 旧都が炎上したとの報告通り、舞い上がった炎は王宮を燃やし尽くす勢いだった。

 ただ、王宮は日干し煉瓦でできている。そのため燃え広がるというのではなく、燃え落ちるといった言葉の方が正しかった。ガラガラと崩れていく王宮を見つめながら、この中から生き残りの人を探すのは骨だと痛感する。建物の下敷きになった人々の生存は絶望的だろう。仮に、まだ生きていたとしても、救出するすべはない。

「先輩、こっちです」

 遠い記憶にある薔薇園。だが、遠い記憶の中でも迷った記憶しかなく、道を覚えているはずはない。頼りになるのは鼻だけだった。

 濃い炎の香りの中、薔薇園はあった。だが、そこはもう薔薇園ではなかった。

 王宮から逃れたと見える高貴な服装をした人々が、身を寄せ合いつつ不安げに辺りを見回している。もう少し勇気を出せば、薔薇園から外に出ることもできるだろうに、ここから先に避難することは思いつかなかったんだろうか。

「皆さーん!」

 大きな声を上げて注意を引き、出口を指差して叫ぶ。

「あちらに進んでください!ファルザード王子殿下が救出にいらしております!」

 おおおおお、と声が上がった。

 港湾課の制服を着ていたのが良かったと見えて、素直に従ってくれる人も多い。どこか逃げたら分からず泣き叫んでいた人たちを互いに励まし合い、出口へと向かって移動をはじめる。

 だが、移動してくれたのは一部だけで、残りの人々は動こうとしないある人物へと視線を集めていた。

 女性である。

 厚いヴェールを身に着けているが、高貴な身分であることは一目で分かった。身に着けている服に施された装飾が段違いであることはもちろん、佇まいも普通とは言い難い。なによりも、同じ場所にいる他の人々が近づくまいとしていることからそれが分かる。

「王母殿下におかれましても、どうぞ脱出をお願いいたします」

 サッと臣下の礼を示してみせたアラム先輩がそう口にする。私も慌てて真似をしたが、礼に適っているかどうかと言えば、否だろう。ナスタラーン姫にお会いするための礼儀も知らなかった私が、国王陛下の母親に対する正しい礼儀など知るはずがない。

「なぜゆえに?」

 王母様は、美しい声でアラム先輩に問い返した。

「そもそもファルザードはすでにこの都を後にしていたはずです」

 フン、と見下したような視線が降ってくる。目を伏せて礼をしていても分かるのだから、相当な眼力だ。

「事態を重く見てお戻りになられたのです。現在はオアシスにいらっしゃいます」

 淡々とした調子でアラム先輩が返答した。どこか感情を抑えこんだような声は、冷え冷えとしているような気がする。

「ファルザードがいるというならば、ここまで迎えにくるのが道理でしょう。なぜゆえわたくしに足を運べというの?」

 王母様はそう言って、苛々した調子で出口の方へと視線をやった。そちらには、すでに脱出をはじめていた人々がいて、王母様の視線から逃げるように走り出していた。

「ファルザード王子殿下は、民の避難に尽力されております」

 アラム先輩の返答に、王母様は吐き捨てるような声で叫んだ。

「民?馬鹿なことを。あの子は優先順位が分かっていないのね。この都において、なぜ第一にわたくしの元へ来ない!?」

 金切り声とも聞こえる声に驚き、私はうっすらと視線を上げた。

 厚いヴェールを身に着けたその女性は、本当に王母様なのだろうか。ヒステリックに叫ぶ姿はとても国王陛下の母親なんていう、高貴な人物によるものには思えない。

「……では、こちらでお待ちいただけますか?火の鳥が王宮を燃やし尽くすまで。王母様に相応しい、美しい墓標となるかもしれません」

「!?」

 アラム先輩の口から出てきた言葉にギョッとする。

 焦って向けた視線の先、アラム先輩は苛々している表情を隠そうともせず、だが最後の礼儀として顔を上げずにいた。

「ファルザード王子殿下がこの都にいらしたのは偶然です。偶然ですが、王族としての役割を放棄せず、民草の避難のための指示を行っておいでです。

 ご存じでしょう、この都には駐留軍がほとんどおりません。一番身分が高い者も現場監督レベルです。分かりますかね、人々に指示ができる者はいないんですよ。俺は王子殿下にそこまで期待しておりませんでしたが、率先してそれを果たそうとされているのはご立派なものです。それを、足を引っ張るような真似をするなら、王母殿下といえ、救出対象ではないと判断します」

「ぶ、無礼なっ……!おまえ、どこの所属よ!即刻クビにしてやるわよ!?」

「どうぞ、ご自由に。つーか俺、左遷されて今にもクビにされるところなんで、今さら王母殿下にどうこう言われたって怖くないんでね」

 もはや敬語を使う気もなくなったらしいアラム先輩は、様子をうかがっている周囲に向かって声を上げた。

「そっちの連中、さっさと出口に向かえ!もたもたしているようなら、ここで一緒に燃え落ちて死ぬぞ!」

 ひいいいいいいいいいいいい、と叫び声を上げて人々は走りはじめた。出口に殺到していく人々を目で追って、私もまた、おそるおそるアラム先輩へと視線を向ける。

「ラーダ。この分からず屋のバアさんを連れていけ。俺はファルを手助けにいく」

「……了解です」

 そう言うなり、アラム先輩は本当に人々を連れて薔薇園を離れてしまった。

 残されたのは侮辱にフルフルと震える王母様と、私一人。


 会ったことのある顔だった。

 10年以上昔のことだ。私が旧都で暮らしていた時、なぜか王宮に連れてこられたことがあった。その時、古びたランプを手にしていた女の人。今、思い出せば、あれは『魔法のランプ』だったんだろうか?

 王母様は美しい顔を私に向け、憎々しげに睨んでいたが、やがてハッと気付いたように目を見開いた。

 厚いヴェールの下で繰り広げられたその変化に、私はきゅっと唇を噛む。

「王母様でいらっしゃいますね。王子殿下が心配されています、どうぞオアシスの方へ――」

「魔神!」

 噛みつくような目が私を射抜く。制服をガシッと掴み、私を見上げる。

「魔神だわ。間違いない!ああ、あああ、ああああああ、やっと現れてくれた!」

 すがりつくような目が怖い。

 ごくりと息を呑んだ後、私は答えた。

「違います。私は魔神じゃありません」

「そんなはずはないわ!わたくしはずっと、『魔法のランプ』に願いをかけてきたのよ。ずっと、ずっと、ずっとよ!」

「そ、それはお気の毒ですが、私は違います。魔神はキルスと一緒です!」

「キルスですって!?」

 ギロッと噛みつく目で私を睨んだ王母様は、私の腕を握りつぶさん勢いで掴み上げ、ぜえはあと息を吐いた。

「あの子供……。ようやく陣で引き留めたというのに、逃げ出してしまったのよ。わたくしに魔神を譲り渡せと言っているのに……!」

「陣?」

「ええ、そうよ。ランプの魔法陣は魔神たちの動きを引き留める力がある。かつてランプの魔神をランプに封じた時のようにね。

 だというのに、……だというのに、そうよ、ファルザードが、止めて……」

 まくしたてていた王母様は、ふいに言葉が途切れたように周囲を見やった。

「ファルザードは、どこ?あの子は用が済んだといってこの街を出ていってしまったのに。どうして戻って来たの」

 するりと私の制服を掴んでいた手を離し、両手のひらを見下ろして呟く。

「ランプはどこへ行ったの……?」

 心細い子供のように呟いて、王母様の瞳が不安げに揺れた。

「……」

 私はただ、黙って首を横に振る。

「とにかくオアシスに向かいましょう。この王宮は、もう崩れますから」

「魔神……。そう、そうよね。ランプがなくても魔神がいるなら、わたくしの願いは……」

「……申し訳ありませんが、私は、魔神ではありません」

 言葉通り、王宮は崩れ落ちた。燃え上がっていた炎はそれからさらに一日の間燃え続け、王宮だった場所は瓦礫の山になったらしい。


 オアシスにたどり着いた私と王母様が見たのは、きちんと整列している人々だった。

 小さな子供を連れている母親もいれば、年配の方もいる。旧都の規模から考えると全員が逃げ出せたわけではないのだろう。それでも数えきれないような大勢の人々だ。

 彼らはなぜか絨毯の上にいた。赤い絨毯はどこかで見覚えのあるデザインだったが、問題は大きさである。

 その場に逃げ出している人々が”すべて”絨毯の上にいるのだ。これほど大きな絨毯でなかったことは言うまでもないというのに。さすがに『魔法の』とついているだけのことはある。規格外だ。

「よう、ラーダ」

 人々に指示を出しているのはファルとアラム先輩の二人だった。

 先に私に気づいたアラム先輩が声をかけてくると、王母様に気づいたファルが近づいてきて膝をつく。

「お祖母様もお乗りください」

「乗る?どういう意味なの、それは」

「これは王宮の宝物庫に所蔵されていた国宝の一つ、『魔法の絨毯』です。これほどの大人数を試したことはかつてありませんが、一度に運ぶことのできる限界が設定されているわけではないようですので。これで港街まで運びます」

 ファルの言葉が理解できたのかどうか。王母様は不機嫌そうに眉根を寄せた。ちなみに私には今ひとつピンと来ない。

「それは、わたくしに民草と同じ絨毯の上に乗れと言っているの?」

「はい」

 きっぱりとファルは認めた。

「この絨毯には回数制限が設定されています。ですが、それは”飛行回数”なのか、”飛行人数”なのか、分かっていません。これほどの大人数を乗せた場合、回数切れを行う可能性は非常に高い。ですから――一度きりの挑戦なのです」

 ファルの言っている意味が、私にもようやく理解できた。

「壊れたとしても、ファルの指示だった、ってなれば俺は責任負わなくて済むからな」

 ぼそっとアラム先輩は耳打ちしてきたが、先輩の発案なのかファルの発案なのか、今はどうでもいいことだった。

「我らを救出にきた者によれば。都の外には砂嵐が吹き荒れていたということです」

「なんですって!?そんな中を飛び出そうと言うの!?」

「はい」

 またもやファルはきっぱりと言った。

「砂嵐が止むまで待つことはできません。救出にきた者によれば、砂嵐はこの都を囲むように移動していたとのこと。直撃した場合、オアシスごと砂に埋もれてしまいますから。

 私はこの場に残り、他に生き残りの者がいないかどうか確認してから参りますが、お祖母様は先に港街へと脱出をお願いします。

 先導はこちらのアラムが行います」

 そう言ってアラム先輩を紹介するファル。つい先ほど暴言を吐いた人物だったためか、王母様の顔が盛大に引きつる。

「こ、この無礼者が先導ですって……?ファルザード、あなたはどうするつもりなの。『魔法の絨毯』でもう一度迎えにくるの?」

「いえ……。私には馬がありますから」

「馬鹿なことを!砂嵐に馬なんて役に立つわけがないでしょう!」

「大丈夫です。とにかくお祖母様は絨毯にお乗りください。それと……あまり広くはないですが、他の方々と喧嘩されないよう気をつけてくださいね」

 少しだけ柔らかい声でファルが告げた。

 そういえばこの地に来てから、ファルが表情をやわらげたところを見た覚えがなかった。たった一人の王族として、軍不在の街の人々を助けるため、表情をあまり動かさない顔の裏でいろいろと葛藤していたのかもしれない。

「ラーダ、おまえも残れ」

 アラム先輩はそう言った。

「アラム!?何を言っている。ラーダもおまえと一緒に……」

「ファル一人だと無理するだろ。止めてやれ」

「分かりました」

 憮然とした顔のファルを残し、アラム先輩は絨毯の上へと戻っていった。王母様については勝手についてこいというスタンスらしく、道を促してあげたりはしない。代わりに、王宮での彼女のお付きだった風の人々が近づいてきて絨毯の上へと誘導する。

 アラム先輩は絨毯の上に上がると、人々に向かって座るように指示をした。

 不安げな者がほとんどだったが、そこについては気にする風でもない。

 唐突に『魔法の絨毯』は舞い上がった。

 

 風がうなる。ほんの一瞬瞬きする間に絨毯は見えなくなった。乗っている最中は分からなかったが、とんでもなく速い。あとは砂嵐がおさまっているといいけれど。あの小さな絨毯でさえ避けきれなかったのだ、街一つ分の人を乗せた巨大な絨毯が機敏に動けるとは思いにくい。

「あれが『魔法の絨毯』か……。可動するところは、はじめて見る」

「え、そうなんですか?てっきり性能を承知の上で言っているのかと思いました」

「性能自体は、文献に載っていたから知っていたが。回数制限のあるものを、そうそう使うわけにはいかないだろう?貸与中なのも知ってはいたが、貸与先がアラムなのも知らなかったしな」

 なるほど、と私はうなずいた。部下である私も初耳だったのだから、そういうこともあるかもしれない。

「ファルは、どうやってこの街に来たんです?ボルナーさんはまだ旧都についていないはず、という予想をしてましたけど」

 早馬でも一週間かかる、という情報だった。港街には通信鳥などの手段によって連絡が届いただろうけど、そもそもファルが『お祖母様を説得しにいく』といって飛び出してから一週間も経っていない。

「その件は、後にしよう。生き残りを探すが先だ」

「分かりました。

 でも……。どうするんです?王宮はもう絶望的だと思いますが、瓦礫の確認に戻りますか?」

「……」

 ファルは黙って首を横に振った。

「炎が上がっている場所は危険すぎる。その前に街の方を確認して回りたい。徹夜になってしまうかもしれないが大丈夫か?」

「港湾課の調査官に対して、愚問ですよ」

 私は笑うと、服についた砂を払った。

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