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第九話  離宮の交遊

 ロクサーナは仕事の日だったので、離宮にやってきたのは私一人だ。

 当初は朝からという話だったのだけど、ナスタラーン姫は昨夜の宴の疲れがあるから昼過ぎにしろと上層部から指示が出たらしく、そうなってしまった。誰が言ったことかは知らない。いつ呼ばれるかと思い、朝からそわそわしてたっていうのに、なんてこった。


 いつもどおり港湾課の制服である。他に王族の前で見せられる服がないので!

 歓迎の宴を終えた離宮は、賑やかな光景から一転して、穏やかな場所だった。庭園も美しいし、静かだし、のんびりするのには向いている。昼を過ぎているので太陽の日差しもだいぶマシ。

「よく来てくれたわ!」

 諸手を上げて王女様に歓迎されるなんて日が来るとは思わなかったな。

 ナスタラーン姫とニキは、昨日の伝統衣装ではなく、もっとイマドキの衣装を身に着けていた。イメージとしては、バハール様の着ていらした形状に近い。色は鮮やかな青で、そこに金色の宝石のようなものがふんだんに縫い付けられている。室内だからか、ヴェールをしてないのだけど、華やかな顔立ちがよく見えて美しい。

「ご指名いただきましたので、参上しました」

 にこりと笑って畏まったつもりの礼をしたが、礼儀作法は知らないのでこのくらいに。

「昨日の宴はいかがでした?」

「それがねえ……」

 ナスタラーン姫は困ったように小首をかしげた。

「見事ではあったのよ。歓迎していただいているのはよく伝わってきたわ。お食事も美味しかったもの。特に果物がいいわね、ペテルセア帝国よりも味が良いんじゃないかしら。でも、歌は恋歌ばかりだし、演奏は聴いてばかりだと、少し残念ね。この国ではおとぎ話とか冒険活劇は伝わっていないの?」

 果物の味が良いのは、日差しが強いことと関係があるらしい。エラン王国の中部や南部にある農園で主に作られている。

「いえいえ、そんなことはありませんよ。ただ、子供っぽいと思って避けたのではないでしょうか。それに演奏については、滞在期間中に『良かったら一緒に』という話になれば演奏できると思います」

「それも、そうね。初対面で共演なんて言われたら。演奏が苦手だったら恥をかかせてしまうものね」

 うむ、その通りだ。私は誘われたくない。

「ちなみにラーダは演奏は?歌や踊りはどうかしら」

「すみません。演奏はからっきしです。歌は……好き勝手に歌うのは好きですけど。踊りは少しなら」

「まあ」

 ふふふとナスタラーン姫は笑った。

「正直者ね。ラーダのそういうところは好きだわ」

 それは光栄である。

「ニキもね、音楽は全然ダメなの。弓奏楽器を練習させてみようとしたら、いきなり弦を切っちゃうんだもの。その上、この弦なら仕込み武器にできる、なんて言って」

「事実でしたから」

「うふふふふ。楽しいでしょう?ニキのこういうところが、わたくし好きなのよ」

 にこにこと楽しげに言って、ナスタラーン姫は小首をかしげた。

「ファルザード王子とあまりお話ができなかったのは残念だわ。評判通り、見目の良い王子様だったし、演奏も見事だったから、滞在期間中にもう少し打ち解けておきたいわね。お人柄が分からないままでは困るもの」

 ナスタラーン姫の言葉に、私は少しばかり疑問を覚えた。

「お話されなかったんですか?」

「少しだけね。でも、サンジャル様とおっしゃったかしら、国王様の弟君。あの方がいらした時に、何か慌てた様子で中座されてしまって……。今日の夕方に、またいらしてくださるというお話だったから、お話してみたいと思っているわ」

 それでね、とナスタラーン姫は言った。

「ラーダ、昨日も思ったことなのだけど。あなたの服装が男物なのはどうして?」

「港湾課には女性用の制服がないからですよ」

 あっさりと答えると、ナスタラーン姫は拍子抜けした顔をした。

「不当な差別を受けているとかそういったわけではないのね?女性が男性の衣装を身に着けるよう強要されるのは、立派な差別なのよ」

「特にそういうことはないと思います……、いえ、もしかしたら差別かもしれませんが気になりません。そもそも、港湾課に女性が配属されたのがはじめてですし。港湾課は荒事が多いので、正直なところ、こちらの方が気が楽なんです。動きやすいですし。男装していると、向こうも女ではなく港湾課の人間として見ますから」

「そうなの?」

 目をきょとんと丸くした後、ナスタラーン姫は納得できかねるように首をかしげた。

「女性用の制服を作れば、あくまで港湾課の制服という認識はされると思うから、その方がよくはない?」

「そうですねー、そこは、たぶん、港湾課に女性が増えれば改善されていくと思います」

 私が言うと、彼女は満足そうな表情になった。

「それなら良いわ。現状に対して、きちんと考えてはいるのね。……女性の地位を向上させるためにはね、まず、女性自身が意識しないといけないのよ」

 ふふふふ、と彼女は笑い、続けた。

「わたくし、ぜひ女性の服装をしたあなたが見たいわ、ラーダ」


 きょとんと目を丸くしたのは当然だ。

「ええと、なぜです?」

「わたくしは、女の子を着飾るのが好きなの。もしこの国に嫁ぐことになったとすれば、この国の女性ファッションにいろいろてこ入れしたいとも思っているの。そもそも男性優位の国では女性の服装はバリエーションに乏しい。これは問題だわ」

 きっぱりと彼女は言った。

「男性優位の国では、女性は夜の相手や家事要員としての役割ばかりを任される。違うかしら?」

「……そ、う、かもしれません。後は、子供を育てる役割ですよね」

「そのため、服装については男の目を楽しませるもの、仕事の邪魔にならないものという側面が強くて、自分のためには着飾ることができないのよ。でも違うわ。女性は男性よりもファッションに興味があるものなの。他の誰でもなく、自分を楽しませるためにお金を使うことができるのよ。それは経済を盛り上げるためにも有効でしょう」

 カ、カッコイイ。目を輝かせて言い放つナスタラーン姫に声を失っていると、彼女は笑った。

「もちろん、男の目を楽しませるのもそれはそれで有効よ。ついでに自分も楽しもうということだもの。ラーダに着せてみたいのは、こちらの衣装ね」

 そう言って、彼女が持ち込んだ衣装箱の中から取り出したのは、どうにも働く女性の着る服には見えなかった。

「……姫様?」

「これはニキの衣装だけど、あなたは背が高いからたぶんサイズが合うと思うのよ。わたくし、最近、踊りに凝ってるのよね。昨日の宴で披露する機会がなかったから、残念で。ラーダは運動が得意そうだから、踊りに付き合ってちょうだい」

「……」

 困った表情を浮かべる私をよそに、ニキは黙々と衣装を着替えている。

 仕方がない。私は、今日は王女の遊び相手オモチャとなるべく来たんだし。

 着方が分からずニキの真似をしながら身に着けていく。ジャラジャラと金属の飾りのついた薄布で、港の酒場でさえ見ないような過激な露出度である。せめてもう一枚上に羽織ってはどうだろうか。

 衣装としては、胸元を覆う布にジャラジャラと金属飾りを下げたものと、同じ色の布で作ったズボン。こちらもジャラジャラと金属飾りをつけて、どうやら踊るたびに鳴るようになっているらしい。

「なぜ、こんなに肌を露出するんですか?」

「胸や腰の動きをよく見せるためだそうよ。わたくしが学んだのはあくまでダイエットのためだったけどね」

「姫様は一年ほど前は、かなりおふくよかでいらしたのです」

「ニキ、そこは教えなくてもよいところだわ」

 ふふふふふとナスタラーン姫は笑った。

「この一年、わたくしはいろいろと努力したわ。語学、経済、歴史、踊り、音楽、ファッションなどなど、趣味を増やした結果、新しもの好きとまで言われるほどにね。なぜだと思う?ラーダ」

「え……王子との婚約のため、でしょうか?」

「違うわ」

 彼女はあっさりと否定した。

「父上が『魔神のランプ』を手に入れるためよ」


 思わずフレーズを聞いて、私は目を丸くした。 

「……え?」

 にこりとナスタラーン姫は笑った。

「ふふふ、やあね、本気にした?おとぎ話よ、『魔神のランプ』だなんて。でもファルザード王子は、そういった、おとぎ話と歴史の関係性についてが好きなのでしょ?そういう情報だわ」

 目を細めて、彼女は笑みを深くした。



 ナスタラーン姫は、自分が伴奏を弾くつもりだったらしい。

 音を奏でるには彼女にあてがわれた部屋は手狭だからと、離宮内でも広い部屋に移動した。

 昨日宴が開かれていたという広間だが、今は誰もいない。中央に絨毯を敷き、召使いが通るための通路なのか、はたまた音を吸収させるためか、周囲は薄い布が天井から下がって仕切りにしてある。頼りない恰好だがこの場所ならさほど気にならなかった。

 姫が国から持ち込んだというカマンチェの音色に合わせ、ニキが踊る。私はそれを見よう見まねで真似をする。

 カマンチェの音を聴いていると、つい私も歌いたくなってくる。踊りながら替え歌を差しはさみながら、私たちは楽しい時間を過ごしていた。

 レイリー曰くデタラメおとぎ話は、ナスタラーン姫にもウケが良かった。もっともっととリクエストされて調子に乗った側面もある。

 部屋の隅に太鼓があった。昨日の音楽家たちに打楽器を使っている人はいなかったと思うので、もっと前から置いてあったんだろう。カマンチェよりも踊るのに向いていると思ったのか、ナスタラーン姫がそちらに変更すると、踊りはさらに激しく、とても歌を合わせることのできる速度じゃなくなった。


「はーぁっ、汗かきますね、この踊り!」

 私がへばっているというのに、ニキは涼しい顔をしている。

 こんなセクシーな衣装だっていうのに、そのクールな顔立ちのせいで、まったく色っぽく見えないのはどうしてだ。

「しかもものすごく痩せるのよ。わたくしは踊りはじめて三か月で、ほぼ今のスタイルになったわ」

 マジかい。

「少し水もらってきます」

 ふらふらと立ち上がり、戸口に向かおうと私を、ナスタラーン姫が止めた。

「あっ、お待ちなさい!いくら慣れたからってその恰好で部屋の外に出たら……」

 おわっと、危ない。

 ついでに言うと、ナスタラーン姫の停止は遅かった。

 布の仕切りの向こうには、いつからいたのか一人の人物がいて、ついでにカチコチに固まっていたのである。

 その人物の服装は、仕立ての良い、それでいて精緻な刺繍の施されたものだったが、ズボンに短い上着というシンプルなものである。身分の高い人はズルズルと長いローブや上着を重ねることが多いのだが、こちらの方が動きやすそうに見える。腰布に短剣を差しているのが少し場違いだったが、それも飾り用と思わせるほど美しい装飾に宝石を散りばめてあるものである。

「い、いや、その……」

 彼は言い訳のように口ごもると、目をそらした。

「あら、王子殿下。夕方からいらっしゃるのというので、まだかと思っておりましたわ」

 太鼓を叩く手を止めてナスタラーン姫が声をかける。

 カチコチの人物は強張った動きでカタカタと口を開いて答えた。

「い、いや……その。楽を奏でているようだから、王子も合奏してきてはいかがかと、……言われて」

「でしたらこちらのカマンチェをどうぞ。わたくし、国から別の楽器も持ってきておりましてよ。ラーダは楽器が苦手なのでしょ?太鼓ならどうかしら」

 どうやら一番踊っていたニキには休憩の時間が来たらしい。静かに頭を下げて汗を拭く布を取りに行く様子を見やりながら、私は引きつった顔でナスタラーン姫に尋ねた。

「あの、私も着替えてきても良いでしょうか」

「あら、ダメよ」

 にこりと彼女は笑った。

「わたくしが殿方と二人きりになってしまうわけには、いかないでしょう?」

 彼女の言い分は、まったく正しかった。

 婚約関係でもない男女が二人きりで過ごすようなことは、王族の行動としては相応しからぬものだろう。


 部屋の仕切りの布を借りて、マント代わりにして座る。勧められるままに太鼓を担当するが、激しいリズムに合わせることなどできないので、トントンといい加減に鳴らすだけだ。

 ナスタラーン姫が国から持ち込んできたというのは、カマンチェの他に数種類あった。一人で合奏でもするつもりだったんだろうか。砂漠には持っていけないと思うのだが、調査団に加わる場合、この楽器をどうするつもりだったのかは謎だ。

 彼女はウードを取り上げると、調弦をしながらにこりと笑った。

 金色の飾りがふんだんに使われた青い衣装は、楽を奏ではじめると一段と幻想的だった。

 硬直状態から立ち直り、一つうなずいたファルがカマンチェで合わせはじめる。知っている音楽なのか、あるいは完全な即興なのかは知らないが、芸達者なことだ。カマンチェはゆるやかな曲の似合う楽器だからか、ナスタラーン姫のウードものびやかで幻想的な曲だった。さほど激しくはない。太鼓を合わせようと思ったが、余計な音が混じるとせっかくの合奏が台無しになりそうでためらわれる。

「ラーダ。ゆっくりでいいから一定のリズムで合わせてちょうだい」

「はい」

 ナスタラーン姫の合図に合わせて、トン、トンと小さな音を鳴らしていると、まるで音の波の中に私もいるかのような気になってくる。自分が演奏上手だったようないい気分だ。

 カマンチェを弾いていたファルは、時折フッと視線を上げ、またぎこちなく下すという繰り返しだった。視線を感じるんだけど、やっぱり下手だからかな。まあ、許してちょうだいな。

 一曲終える前にニキが戻ってきた。水を持ってきてくれたらしく、器を私の前に置いた。オレンジ色の衣装に着替えた彼女は、ナスタラーン姫のそばに控えるようにして立ち、さりげなく腰に短剣を差していることを示している。武装解除したはずなのに、どうやって持ち込んでいるのかは、私には分からなかった。

 一曲を終えたナスタラーン姫が微笑んだ。

「ご一緒に夕ご飯を召し上がっていきますでしょ?それまで、お話でもしましょうよ」

 ニキの視線を受けて、私は一つうなずき、今のうちに着替えに行くことにした。

 

 

 さて、困った。

 ファルザード王子とナスタラーン姫は婚約者候補同士。ニキは姫の護衛だ。その三人が夕ご飯を同席するのはさほどおかしくはないと思う。だけど、王女の遊び相手として呼ばれた私は、もうお役御免じゃないかと思うわけだ。

 他に予定があるわけでもなし、王女の機嫌次第で帰るという程度の軽い予定でいようと決めて広間に引き返そうとしたところ、見覚えのある顔によって足止めを食らった。

 30歳前後の美男にして、王弟たる存在。

「……サンジャル様?」

 不審に思いながら、深々と頭を下げ、一歩下がる。何か用事でもあるんだろうし邪魔をしないで通り過ぎるのを待とうと思ったのだ。

 だが彼はそのまま私を見やると、少々機嫌の悪そうな声で言った。

「先日、王子と食事をしていた港湾課の人間ですね」

「はい」

 どうやら私をご指名らしい。

 サンジャル様は機嫌の悪そうな声のまま、私に顔を上げるように告げる。私は指示に従って一瞬上げ、また下げた。

「名を聞きそびれておりました」

「エラン王国、国家治安維持部隊、港湾課のラーダと申します」

 名前を名乗ると、サンジャル様はしばらく沈黙した。私の名前はさほど多い名ではないが、聞いて驚くほど突飛な名ではないはずだが。

「……ナスタラーン姫の、ボディチェックを担当したというのは、あなたですね?」

「はい」

 私は、王弟というものが組織上でどこに位置する存在なのかを知らない。

 だけど、国王代理としてナスタラーン姫の出迎えにいたことや、ファルザード王子の後見をしていることを考えれば、組織上に書かれていなかったとしても国王権限に近いものを持っているのだろうってことは分かる。

 そんな人が、わざわざ何の用だ?

「では、例の薬についての詳細を知っているでしょう」

 媚薬のことか。わずかに眉を上げて真意を問いかける。

「姫様が帰国される際にお返しすることになるかと思います。我が国には持ち込み禁止とされておりますし」

 かといって王女の持ち物を廃棄もできないし。

「あれを、王女に使いなさい」

「……は?」

 何を言われているのか分からず、私は思わず顔を上げた。ファルにどこか似た顔は、表情を覆い隠した無表情だった。

「ボディチェックを担当する際に、あなたの経歴については報告を受けています。親も兄弟もいない天涯孤独で、女の身で港湾課に配属された努力家だそうですね」

「お、お褒めに預かりまして光栄です……?」

「国軍をクビになったとなれば、まともな再就職の見込みはないでしょうね」

「……っ!?」

 淡々と言われた言葉に青ざめる。

 私は今、『命令に従わなければクビにする』と、そう言われたのだ。

「どうしますか」

「な……」

「私は、王は女に溺れるべきではないと思っています。過去にいた偉大な王たちは、寵姫ができると判断が鈍った。女の我が侭を聞いて国を滅ぼす原因となった。王は、国と王自身のために存在すればいいのです」

 淡々と彼は口を開く。

「女は、男のためには父親を裏切る。新しい男のためには夫を裏切る。……ならばそのようなことができないよう、薬漬けにしておきましょう。既成事実が出来てしまえば都合がいい。自分で持ち込んだ薬なら、自業自得です。王子の立場を盤石にするためには、ペテルセア帝国の支持が欲しい」

 それ以上、聞いていたくなかった。

「サンジャル様っ!」

 ギッと睨み、極力声を抑えながら私は答えた。

「港湾課の調査官は、犯罪は行いません」

 息を吸いこみ、焦る胸音は聞かないふりをした。

「脅されたとしても、クビになったとしても、安易に犯罪に手を染めた者には務まらない仕事だと思っています。決して!」

「……」

 サンジャル様は冷めた目のまま、私を見やった。

「それが、国のためであってもですか」

「……ぅぐ」

 国のために、法を犯す。港湾課の調査官はそれができる。法律に従っては守れないものを守るためならやる。

 サンジャル様の狙いが本当に国のためであれば、私はやるはずだ。……だけど、それは今じゃないはず。 

「な、なぜ、そんなに焦るんですか?ファ……、王子に婚約を急いで欲しいなら、彼にそう伝えればいいでしょう?先ほどから楽を合わせていらっしゃいますが、仲のお悪い印象はございません。むしろ相性の良い方かもしれません。禁制の品を使うなんて、そんな真似……」

「下っ端の知ることではありません」

「……す、すみません」

 慌てて頭を下げた私に、ふっとやわらかい声が降ってきた。

「……安心しました」

「え」

 驚いて上げた先に、穏やかな顔があった。

「ファルザードは、王となるには今はまだ正義感が強すぎて、駆け引きができない。誠実で、正直で、砂漠の国の王としては物足りません。……ですが、それは間違いなく人間として必要なものです。彼には、それは美徳だと認めてくれる友人が欲しかった」

 その後に続いた言葉は、私にとっては嬉しくない言葉だった。

「あなたが女でさえなければ、良かったのに」

 彼は実に残念そうにそう言って、その場を去った。


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