流星博士と痩せる薬
このお話は「流星博士と満腹サプリ」の後日談です。
この話だけでも読めますが、よかったらご一緒にどうぞ。
先日の太った男(※流星博士と満腹サプリ参照)が、どうやら自分の勘違いに気づいたらしい。
今度は正式に流星博士に「痩せる薬」を発明してくれと依頼をしてきたのだった。
食事量を変えずに、飲むだけの薬がほしいということだった。
もちろん健康を害するようなものでは困るのだという。
「飲むだけで痩せる薬なんて、本当に作れるんでしょうか?」
助手は聞いた。
世の中のダイエット食品などは、だいたいは食事に置き換えたりするのが基本で、飲むだけで痩せるものなんて聞いたことがない。
食事の後に飲むサプリメントなどはドラッグストアでもよく売っているが、効果なんてたかが知れている。そんなものに絶大な効果があるのなら、今頃世界から肥満がなくなっているはずなのだから。
流星博士は、うーんとうなりながら、数日間研究室にこもってしまった。
数日後。博士は太った男に痩せる薬を発明したと報告した。
すぐさま太った男は、どすどす地響きを立てながら研究室にやってきた。
「できたって、本当ですか!」
「うむ。痩せる薬製造機の開発に成功したぞい」
「で、それはどこに・・・」
目と額の汗を輝かせながら、男はきょろきょろと辺りを見回した。が、なにもない。
「トラックに積んである。おぬしの家に設置するんじゃ。そっちのほうが話が早いじゃろう」
「なるほど、そうですね。じゃあ早速運びましょう」
研究所の横に止まっていた大型トラックに男を同乗させると、トラックはほどなくして出発した。
博士は道すがら、太った男に説明をした。
「痩せる薬製造機は、一回動かせば一個の薬を作ることができる。この薬を一日一個忘れずに飲めば、確実におぬしは痩せるじゃろうて」
「本当ですか!それは楽しみだ!」
喜ぶ男に、博士はマニュアルを差し出す。
「しかしのう、痩せる薬製造機はとても複雑な機構になっておるため、操作方法がちょっと難しいんじゃ。まずは機械の操作法を覚える必要があるのぅ・・・」
それから一年後、男が再び訪ねてきた。
見間違えるほどにすっきりと痩せ、スタイルの良くなった男に助手達もびっくりしている。
しかも、痩せただけでなく、精悍でたくましい体つきになっているのだ。以前の太った男など見る影もない。
「いやー、ありがとうございました!おかげさまですっかり痩せまして。今日はお礼にあがった次第です」
「そりゃよかったのう」
「今もあの体型に戻りたくないと思うと、毎日薬を飲まずにはいられないんですよ」
「そうかそうか、毎日飲むのは良いことじゃ」
しばらく歓談して男が去った後、助手が博士に聞いた。
「本当に痩せましたね・・・一体その薬、どんな成分になっているんですか?量産すればきっと爆発的に売れますよ!」
「そりゃ無理じゃ。・・・あれは単にうどん粉を丸めただけじゃからのう」
あっさりと言う博士。助手は不審な顔をしてこう聞く。
「うどん粉を丸めるのに、複雑な機構が必要なんですか?」
「身近な目的があったほうが、なにかとやりやすいじゃろう?」
博士はふぉふぉふぉ、と笑った。
家に帰った男は、もはや日課となった「痩せる薬」作りをはじめることにした。
「さて、やるか、まずは一番目の赤いボタン・・・」
男はマニュアルの順番にボタンやレバーを操作する。
はしごを上って青いボタン。遠い反対側の緑のボタンを押したら、大きなハンドルを二十回まわし、真上のレバーを両手で十回下に引き、真下のペダルを十回踏んでさらに階段を上がり・・・
・・・操作が終わってコロンと出てきた小さな白い錠剤を、男は満足そうに飲み込んで一言。
「ふー、これで苦労せずに痩せられる!」