ショートストーリー
「ただいま」
僕が元気に挨拶すると、ママは笑顔で
「おかえり」
と言ってくれた。
学校から帰り、いつものように無邪気に夕飯を食べて、お風呂に入って寝る準備をした。
ここまでは昨日と同じ僕。
だけど、今日の僕は明日が来ることが怖くてたまらなかった。
でも、それを悟られないように、ママやパパの前ではいつものように、無邪気に笑ってみせた。
だからママもパパも心底、安心しているみたい。
だけど、本当は叫び出したくて逃げ出したいのを僕は必死に我慢していた。
明日なんてこなければいいのに。
そう何回、今日は呟いただろう。
だって明日は……
考えただけで寒気がした。
そう、明日は。
大嫌いな神崎が僕をいじめる日だ。
僕より頭がはるかによくて、体も大きいあいつは定期的に僕の目の前にやってくる。
逃げられないように椅子に座らせて、僕を見下すんだ。
その威圧的な目に、僕は何も言えなくなって俯いたまま指一つ動かせなくなる。
背中には嫌な汗がびっしょり。
そして、あいつの作戦に見事にはまるってわけだ。
そして、後に残るのは……
激しい屈辱感と忌ま忌ましい赤い色。
それを見られないように、ママとパパにしばらくは隠さなくちゃいけない。
見つかったら、きっと二人はすごく悲しむから。
これを解決するには、方法は一つだって分かってる。
そう。
立ち向かえばいいんだ。
勇気を持って、嫌がる自分を奮い立たせて。
あいつをぎゃふんと言わせてやればいい。
そう頭では分かっているのに。
悔しいことにそれが出来たことは一度もない。
やろうと思う程に自分の意識が遠くなっていき、それどころではなくなってしまう。
多分、僕には向いていないんだ。
だって、それを考えるだけでこんなにも胃がムカムカして、目も開けていられなくなるんだもの。
そうして、僕が立ち向かうことが出来ないうちに、やっぱり明日はやってくる。
そして、お決まりどうりに神崎は僕の目の前にやってきた。
何でもないような顔をして。
僕を絶望に突き落とす言葉を平然と言うんだ。
「じゃあ、今から数学のテストをはじめまーす」