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Rivers Life  作者: 夏野 狗
3/3

第三

 月曜日、いつも通り教室に向かっていると教室より三十メートルほど離れた距離に担任が立っていた。

 なぜあんなところに? という疑問はあったが、服装か荷物検査でもしているのだろうと気軽に通ろうとすると、俺に気づいた教師が凍り付いた笑顔を見せた。

「よぉ、相川。一昨日君はいったい何をしていたんだい?」

「はぁ? いきなりなんですか? 一昨日って……」

 一昨日は家に帰って普通に風呂入って普通にテレビ見て普通に深夜一時頃眠りに就いたはずだが。何か担任に冷気吹きすさぶ笑顔をさせるようなことをしただろうか。いやまて、家に帰って……? 一昨日は土曜日。休日に俺がどこかに出かけるなど……。

 そこまで考えてようやく気付いた。そういえば一昨日は草むしりを……。

「……いやだな先生、呆けちゃったんですか? 一昨日なら俺草むしりをして……」

「草むしりがなんだって? 適当に半径十五メートルくらいの地面の草をむしって放り投げてその後何をした様子もなく、俺が様子を見に行った頃人っ子一人いなかった中庭がなんだって?」

 背後に鬼が見える。漫画なら明らかに背景にゴゴゴゴゴという効果音が書かれているはずだ。

「い、いやだなぁ先生……校庭のほうならちゃんとやりましたよ……」

「そうかそうか。俺が相川に頼んだのは校庭『と』中庭なんだがなぁ?」

「わ、わかりました! 潔く認めますからその背後に鬼が佇んだような笑顔を止めて下さい!」

 平身低頭お願いしてみたが、先生は笑顔のままついに壊れてしまったのか口元が小さく動き何かを言っている。

まさか呪詛の類だろうか。それとも悪魔召喚でもするのだろうか。

「俺はなぁ、相川。お前が補習は嫌だというから慈悲で、慈、悲、で、草むしりにしてやったんだがなぁ」

「……分かっています。でも聞いて下さい先生。俺が帰ってしまったのは已むに已まれぬ事情があってですね……」

「ほう? いいだろう、聞いてやる。しかしその事情とやらが草むしりを放棄するにあたると判断できない場合、相川に与えるはずだった補習の量を二倍……いやいっそ三倍くらいに」

 そこまで先生が言ったところで俺はもう土下座だった。床ペロでも靴ペロでもなんでもする所存である。


 かくして、廊下での俺のカイジも真っ青の恥ずかしい土下座のおかげで補習はなんとか免れた。もちろん条件はある。今週土曜日までに必ず中庭の草むしりを終え、本来美化清掃委員の仕事であるはずの花の苗を植えるということを条件に鬼の笑顔は終わった。

 クソ、あいつのせいでとんだ目に遭った。次会ったらやっぱり一発くらい殴るか蹴りいれよう。決めた。

 はぁー、マジで腹立つ。確かに帰った俺が悪いけど、あまりにも頭にきて草むしりのことなど宇宙の彼方にすっ飛んでいってしまったのだからあいつが悪い。諸悪の根源はあいつだ。

 まずはあいつを特定することから始めよう。最早顔がぼんやりとしか思い出せないが、ぼんやりとしか思い出せないということは特徴のある顔立ちではなかったということだ。いや、あまりにも腹立たしすぎて早急に記憶から消しただけかもしれん。しかし特に思い当たる人物がいないということは少なくともクラスメイトではないはずだ。いくらあまり接点がないと言えど、さすがにクラスメイトの顔は覚えている。……はず。

 となると、違うクラスの人間か、あるいは上級生という可能性もあるが……上級生はなさそうだな。なんというか上級生特有の偉そうなオーラが一切なかったし、うんうん。

 さながら想い人のことを考えるように色々考察しているが、決してそうではないし、草むしりをすることへの嫌気から現実逃避が多分に含まれている。

 土曜日、先週と同じく無用な熱を延々と放つ無慈悲な太陽に背中を焼かれながらも、今回は真面目に草むしりをしていた。さすがに今回やらないと、あの先生なら冗談ではなく補習の量を倍にもその更に倍にもする恐れがあるからやらないという選択肢はない。

 先週は確か暑さのあまり頭がぼーっとしてきたあたりで水音が聞こえ――

『バシャーン』

 不意に耳に届いた水音は、確かにプールの方角から聞こえた。

 立ち上がると手で庇を作り、プールの方角を確認し、さてどうするかなと考えた。


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