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Rivers Life  作者: 夏野 狗
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プロローグ

 あの、どうしようもなく暑い日。

 蝉が忙しなく鳴いて、空は冷めたい色をしていて、額にはたくさんの汗や水滴が伝っていた。

『――僕は一生、君を許さない』

 暑さからなのか、こいつが何を言っているのかまったく理解できなかった。

 ――なんで俺が、許されないと言われてるんだ? 俺はむしろ……。

 ブラウスとズボンにたっぷりと染みこんでいる水が、ぽたぽたと地面を濡らす。じりじりと暑苦しい太陽は背後から照らし続け、灼熱のコンクリートを作り上げていく。

「……は?」

「は? じゃない。僕は一生、君を許さないと言ったんだ」

「……は?」

「君は馬鹿なのか? 日本語が分からないとか」

「……は?」

「……だから、君はにほ――」

「なんで俺がお前にそんなこと言われなきゃ何ねえんだよぉおおおおおおおおおぉぉおおおおお!!」

 そうだ。

 なんで俺がこいつにこんなことを言われなくちゃならない。

 まず第一にこいつから僕に発せられるべき言葉は『ありがとうございます』だろうが。

 それが何でいきなり嫌味言われてるの? なんで許さないとか言われてるの? ほんとぶっ殺してやろうかな……。



 事の次第は、ほんの数十分前――。

「あっつ……夏休みに借り出されて何するのかと思ったら……」

 草むしりだよ、草むしり。ありえないですよこのご時勢に。

 家に担任から電話が掛かってきて、補習でもさせられるのかと思ったらこれだよ。

『補習させられるよりいいだろ』

 じゃねえよ……。こんなガンガン日照りのときに草むしるくらいなら、多少でも陽を避け、多少なりとも涼を取れる教室で勉強しているほうが遥かにマシだわ。

 そうは言いつつ、一人だけで黙々と草をむしってる自分をぜひとも神様に称えてほしいね。

 ちなみに一人なのは、クラスで――むしろ学年でトップの馬鹿さ加減をほこり、わりと有名な進学校で毎回赤点を取っている阿呆が俺一人だけだからだ。

 ……まあそんな僕を、退学にせず、色々と面倒を見てくれる担任教師には頭が上がらないわけで。

 そんなわけで、一人でこの馬鹿でかい校庭及び、中庭の草むしりである。校庭は隅にちょこっと生えてるだけなので、そんな大変でもないのだが……中庭がもうなんか悲惨だ。草花がいくつか植えられているのだが、この時期のせいで成長が早いのか、もとより無視を決め込んでいるのか、雑草がもう半端なかった。

 これを一人でやれと言うのか、先生よ……。

 帽子一つ被らず、汗をダラダラ流しながらやっていたが、さすがにそろそろ限界になってきた頃、『バシャーン』という、水が大きく跳ねる音が聞こえた。

「水泳部か……? いいな、俺も水浴びしたい……」

 もういつ熱中症で倒れてもおかしくない。

 先生、これって体罰じゃないでしょうか?

 なんてことを思いながら、無意味に水着姿の女の子を想像しながら、ほとんど無意識に音が聞こえたプールの方に向かう。

 プールは中庭を突っ切ったところにあり、フェンスで区切られてるだけで結構容易に入れる構造になってたりする。

 なので、もういっそ侵入してやろうかとプールを覗くと、誰かが水面に浮かんでいた。泳いでいるとはではなく、浮かんでいた。――さながら、死んでいるかのように。

「えっ……ええっ!?」

 ちょ、死体発見とか勘弁ですよ!?

 慌ててフェンスに掴まり、そのままプール内になんなく侵入し、……し、死体……? に近づく。

 同じ学校の男子用の制服を着ており、うつ伏せの状態でぷかぷかと浮かんでいる。

 え……? これ、死んでないよね……?

「お、おいっ、生きてるか?」

 ――応答はない。

 さすがに洒落になんなくなってきた。

 焦って制服を着たまま、プールへダイブする。水面が大きく揺れたが、浮かんでいる者の反応はない。

 パシャパシャと、決して達者ではない泳ぎで近付き、なんとか水面から顔を上げさせてみたが、目を閉じており、顔も青白く息をしている様子がない。

 自分の肩に手を回させ、プールサイドに担ぎ上げたが、変わらず息をしていない。人工呼吸の方法は学校で習ったが、いい加減に聞いていたし、なにより実戦したことがないのでやり方が曖昧過ぎる。

 ――それでも、やるしかない。

 男相手だけど、致し方あるまい。

 確かまずは、胸のあたりを両手で圧迫して……、

「――ッ、ゲホッ、ゲホッ……!」

 奇跡的にも、胸のあたりを圧迫しただけで水を吐き出してくれたおかげで、なんとかマウストゥマウスは避けられた。

 苦しそうに息をしながら、うっすらと男子生徒の目が開かれた。

「おっ、よかった。目覚めたか。大丈夫か? ちょっと待ってろ、今先生呼んで来るから」

 立ち上がろうとしたとき、微かに耳に声が届く。

「……しょう……ない……っ」

「え?」

 太陽によって熱々に熱されているコンクリートの地面に、力強く手を付き、起き上がる。目には、なぜだか両親の仇を目の前にしたかのような、鋭い光が灯っている。



「――僕は一生、君を許さない」

 

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