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迷子のハロウィンナイト

 三日月のその晩、ハロウィンのせいで街は仮装した子供たちであふれていた。この日、街の人は小さいいたずらっ子が家の扉をたたいて「トリック・オア・トリート?」と言ったら、お菓子をあげなきゃいけない。大人は仮想した子供がかわいいのか、にこにこしながらお菓子をくれる。

 僕はママにむりやり着せられた狼人間のかっこうをしてドーナツカフェに向かっていた。もこもこしたオオカミのきぐるみとオオカミの頭部を真似た毛皮の帽子は重くて歩きにくい。


************


 十字三丁目のドーナツカフェの前に着くと、お店の前で魔女の服装をした黒髪の女の子が店の中をじっと見つめていた。足元には黒猫が二匹もなついている。

「アリエちゃん?」

 そう僕が尋ねると女の子はこっくりうなずいた。

 アリエちゃんは同じ学校のクラスメイトだ。家は由緒ある占い師の血筋で、彼女のおばあちゃんはその世界ではとても有名人らしい。アリエちゃんはそのおばあちゃんよりも強い力を持っているらしく、雑誌で天才占い少女と書いてあるのを見た。

 占いってすごくエネルギーを使うのかよくわからないけど、アリエちゃんはいつも無気力で無表情、無口な女の子だ。アリエちゃんが感情的になったりしたところは見たことがない、例外を除いては。

「食べたい、」

「え?」

 アリエちゃんの視線の先を見ると、店の中のガラスケースにはハロウィン用のカボチャのケーキが並べられていた。加えて、店の中からはココアや甘いクリームの香りが店の中に入るように魔法をかける。アリエちゃんは無表情のまま鼻をくんくんさせながら、扉の方に流されていってしまった。そして、全体重を扉のノブにこめて開こうとするのだけれどびくともしない。一生懸命押したりひいたりしている。しばらくすると力を入れすぎたのか、その反動で勢いよく扉の前に尻もちをついてしまった。どうやら、小柄で気力体力共に平均以下のアリエちゃんの力では扉が開かないらしい。僕は扉を後ろから押して開けてあげる。

「ありがと」

 アリエちゃんはにっこり笑って僕を見上げた。そうして、店内に綱の切れた犬みたいに駆け込んでゆく。店内はハロウィンらしく天井からカボチャや魔女、幽霊のおもちゃがつり下げられていた。

「ふんふん、なるほど今年はオオカミ少年か」

 僕の背後からそんな声が聞こえた。

「パパ!」

 実はこのカフェは僕のパパが経営している。そんな訳で、僕はおなかがすくとここに駆け込んでいる。

「オオカミ少年っていうと、僕がまるで嘘つきみたいじゃないか」

 口を尖らせながらとっさに抗議するとパパはにやにやしながらあるテーブルを指差した。

「嘘つきじゃないか、あんな可愛いガールフレンドがいるのを黙っていた」

 その先を見ると、目の前にケーキの皿をずらーと並べていつになく目をキラキラさせて満足そうにしているアリエちゃんの姿があった。ケーキを前に生き生きしているアリエちゃんは確かに可愛い。

「パパには関係ないじゃないか、パパはお客さんの相手してなよぅ」

 僕は真っ赤になって意地を張ってしまった。

「はいはい、少年頑張れよ。魔女は手ごわいぞ」

 そう言って、パパは楽しそうに鼻歌を歌いながらカウンターの奥に消えていった。

 パパが完全に見えなくなるのを確認すると、僕はアリエちゃんのテーブルを見た。ケーキを一生懸命にほおばるアリエちゃんの笑顔は僕に優しい気持ちをくれる。けれど、それは僕と話しているときには絶対見せてくれない顔だ。パパの言うとおり、僕はすごく難しい女の子を好きになってしまったみたいだ。

 ケーキ好きな魔女のテリトリー内に入るにはどうしたらいいのだろう?

 そんなことを思いながら、僕は彼女がいるテーブルに腰かけた。

「ハルちゃん、おなかいっぱい」

 ハルというのは僕の名前だ。

 アリエちゃんは僕にそう言うと、にっこり笑った。アリエちゃんは甘いものでお腹いっぱいじゃないと無口だったり無気力だったりする。なので、アリエちゃんとお話したい時は甘いものが必需品だ。こうして、食べ終わったケーキのお皿を積み上げて満足そうににこにこしている様子を見ていると普通のかわいらしい女の子なんだけどなぁ。そんなことを思いながら、ココアを飲んでいるとひとつの視線を感じた。

 僕たちのテーブルの横で小さなカボチャ頭が左右に揺れている。身長から五、六歳くらいだろうか。手にはハローウィンの戦利品だろう、飴やチョコレートが入れられたバスケットをしっかり握っていた。僕に見られているのに気づいたのか、そのカボチャ頭は小さい手に飴をつかむと僕に差し出した。

「どれくらいあったらぼくのことうらなってくれる?おねえちゃんうらないしなんでしょ?」

 アリエちゃんは自分の話題だというのに、今度はビスケットをかじることに必死みたいだ。

「占う?」

「うん、ぼくみちにまよっちゃったんだ、とちゅうまでみんなといっしょだったのに…」

 みんなっていうのは、きっと友達のことなんだろう。そう言うと、その子はカボチャ頭の中で声を響かせながら「おうちにかえりたいよ」と泣きだしてしまった。

「おうちはどこなの?」

「おほしさまがいっぱいふってくるとこだよ。ぼく、おおきくなったらおおきいブランコでおそらをとぶんだ。さっきからいってるのに、…だれもしらないっていうんだ」

 そう言うと、その子は我慢の限界だったのか、大きい声で泣きはじめてしまった。

 そこでようやくアリエちゃんは迷子に気づいたらしく、ビスケットを食べる手を止め僕らをじっと見つめた。

「なにをうらなってほしいの?」

 それを聞くとカボチャ少年は明るい声で「おねえちゃん、ありがとう!」と言いながら、テーブルの上に持ってるだけの飴やチョコレートやお菓子を広げた。男の子はお礼のつもりらしいが、図らずもお菓子によってアリエちゃんの心を掴んでしまった。キラキラしたアリエちゃんの顔から、占いにかけるモチベーションは絶好調。男の子の迷子がハロウィンで本当によかったと僕は思った。

 でも、僕は万が一のアリエちゃんのエネルギー切れを考えて、店のメニューをこっそり取り出した。

 迷子のカボチャ少年はアリエちゃんの前に座ると、僕にも大きな星をかたどったチョコレートをくれた。それは銀紙でしっかり包まれていて赤いリボンで縛られている。

「ありがとう、」

「たべたらびっくりするしかけがあるんだ!ママがつくってくれたんだよ。はい、おねえちゃんにもあげる」

「へぇ、」

 アリエちゃんは目をキラキラさせて男の子からチョコレートを受け取った。僕がチョコレートに見入っていると、突然目の前にココアが置かれた。

「ハロウィン・スペシャル〜☆」

 覗き込むと、生クリームでゴーストのイラストが描かれていた。聞きなれたその声に顔をあげると、そこには羽飾りをつけた帽子と華やかな衣装の、まるでサーカス団員みたいな恰好をしたゆりあさんが立っていた。

「ゆりあさんも今日はハロウィン仕様ですね」

「そうなの、いたずらしちゃうぞーってね」

ゆりあさんはそう言うと、本当にいたずらっ子のような顔でにやにやしている。

「子供じゃなくてもお菓子くれました? それ以前に、<お菓子くれなきゃ>って最初に付け加えなきゃただの変質者ですよ」

「あたし、ここでバイトしてるけど、一応、学生さんなんだけどなぁ。しょっくー、まだ子供だと思ってたのに。それより変質者ってどうゆう意味よー!」

 そう言うと、ゆりあさんはぷりぷり怒りながら僕の髪の毛を手でくしゃくしゃにして「いたずらしちゃうんだからー」と遊び始めた。ここでゆりあさんの名誉のために言っておくと、ゆりあさんは経済を学ぶいたって真面目な大学生である。僕の家族とは親戚関係にあって、いとこにあたる。ちなみにゆりあさんは五つ子姉妹で五人全員が僕のパパのカフェでウエイトレスのバイトに駆り出されている。みんな性格が違うのだけれど、その中でゆりあさんと僕は一番仲が良い。

 ゆりあさんが面白がって僕の髪の毛をくしゃくしゃにしていると、たのしそうに見えたのか、カボチャ少年はきゃははと笑い始めた。さっき、不安で泣き出したところを見ていたので僕はすこしほっとした。

「で、今日はなになに? 未成年たちの話のテーマは?」

 僕らは円卓を三つの椅子で囲んでいたのだけれど、椅子が足りないせいで、ゆりあさんはぐいぐい僕の椅子に膝を掛けて仲間に入ろうとする。

「ゆりあさん、狭いですってー」

「ハルちゃん、レディーに座らせないってろくな男にならないわね」

 君はそういう男にはなっちゃだめよ、とカボチャ少年に言い聞かせている。少年はよくわからないながらもゆりあさんの押しに負けたのか怖かったのか、おもちゃ屋さんにある首ふり人形みたいに必死にうなずいている(うなずかされている)。

「僕、お客ですよー」

「お客が一番だなんて、世の中は持ちつ持たれつよ。お互いさまなんだから、どっちが偉いなんてないの!男は立ってなさい」

「わかりましたよぅ」

 ゆりあさんは今日はお祭りに乗じて少し酔っているに違いない、と思った。そして、僕はなぜかゆりあさんに椅子を譲ってその隣に立っていた。ゆりあさんは満足そうに、テーブルに乗った蜂蜜クッキーが山のように積み上がったお皿に手を伸ばしている。そんな僕らのよくわからない茶番劇を余所に、アリエちゃんはカボチャ少年からもらったチョコレートを手の中で転がしながら、タロットカードを一枚一枚ゆっくりと広げている。

「アリエちゃん、なにかわかった?」

 僕はアリエちゃんの占いの邪魔をしないように、小さな声で話しかけた。けれど、彼女が返してきたのは、予想外の答えだった。

「占えないの」

 その言葉に僕らはお互い顔を見合わせるしかなかった。


************


「占えないってどういうこと?」

「わからない」

 アリエちゃんは戸惑いを必死に隠しながら力なく左右に首を振った。その言葉にカボチャ少年は不安そうな声を出した。

「なになに? 何の話?」

 ゆりあさんは僕らの会話を聞いていなかったせいか、状況を飲み込めていないようだ。僕とアリエちゃんを交互に見てきょろきょろとしている。僕はカボチャ少年が迷子なことを伝えた。

「そっか。今日はハロウィンで仮装してるから、迷子大量発生の日ね。それで、アリエちゃんには占えなかったって訳?そういうことってよくあるの?私占いはよくわからないけど、」

 言いながら、ゆりあさんは僕のココアまで手をのばして飲み始めた。アリエちゃんは黙って首を振った。占い師が占えないなんて、ケーキ屋さんにケーキがない状態みたいなものだ。アリエちゃんにとっては相当ショックに違いない。

「今日ハロウィンだし、悪魔が邪魔してるのかもよ? そういうときもあるわよ。気にしない、気にしない!」

 ゆりあさんは片手でクッキーを齧りながら、まるで昼下がりにお茶をしながら談笑するご婦人のようなお気楽な空気がある。でも、彼女がいることでカボチャ少年に余計な不安を与えずに済んだのは良かったと思う。

「ん〜、他の方法考えよう!あたしがまたあったかいココア作ってきてあげるから。だいじょうぶよ、ちゃんと帰れるから」

 そうカボチャ少年の頭をなでながら言うと、ゆりあさんは席を立って店のカウンターへ消えていった。少年はうん、と安心しきったような声をあげた。僕はふぅ、と一息つくとさっきまでゆりあさんが座っていた椅子に腰かけた。

 ふと、さっき少年からもらったチョコレートを僕は眺めた。よく見ていると赤いリボンに文字が書いてある。

「”三日月…サーカス”?ねぇ、このチョコレートお母さんが作ってくれたって言ったね。君のお家はサーカスなの?」

「うん、そうだよ。三日月がよく見える丘の上にあるからってパパが言ってた、今日も夜にショーがあるんだ」

「そういう大切なことは早く言わなきゃダメだよ!」

「ごめんなさい」

 少年は僕に怒られたと思って身体を小さくした。

「大きな声を出してごめんね、でもこれでおうちが見つけやすくなったよ」

「本当!」

 そんなやりとりとしていると、ゆりあさんがお土産を持って戻って来た。隣にはゆりあさんそっくりな五つ子の次女、まりあさんが明らかに迷惑そうな面持ちで立っていた。

「まりあ姉さま、出番です!」

 ゆりあさんはそう言いながら、まりあさんの背中をぐいぐい押している。

「ゆりあ、なんなの?私まだ仕事中なんだけど、」

「このカボチャくんがね、迷子なんだって。迷子の世話はまりあの十八番でしょ」

「私をお手軽な迷子預かり所みたいに言わないでくれる?」 

 けれど、まりあさんにかかればそこらへんの交番に駆け込むより迷子の救出率は高いと思う。彼女は地理好きという趣味が高じて、この町の地理はもちろんここ五十年前のことまで全て知り尽くしているのだ。

「まりあさん、三日月サーカスって知ってる?」

 僕はそのサーカスがわかれば迷子は一件落着、まりあさんなら当然知っていると期待していたので、すっかり安心しきっていた。 

「知っているわよ、でも、そのサーカスはたしか二年前に閉めてなくなったと思うけど、」  

 こうして、また迷子事件はぼくらの頭を抱えさせることとなるのであった。

 そのサーカスはカフェ近くの駅から十分くらいのところにあった。ぼくらはカフェにパパを残しカボチャ少年の家だというサーカスに向っていた。

「その三日月サーカスはね、」

 電車を降り改札を出るとまりあさんが話し始めた。

「昔は行列ができるほど大人気のサーカスだったの。でも、最近はあんまり名前を聞かなくなったわね……。たぶん、小さい頃、何回かハルちゃんのこと連れて行ってあげたことあると思うんだけどなぁ」

「えっ、そうなの?」

 でも、そんなに有名なサーカスだったのに、何があったんだろう。そんなことを考えながらしばらく歩いていると、カボチャ少年が急に走り始めた。

 そのとき、突如、目の前に煌々と明りがあふれたサーカステントが現れた。


 空には三日月。

 無数の星が舞い降りるように、電飾がキラキラと眩く光る。

 入り口ではピエロの格好をしたサーカス団員がチケットを配っていて、子供たちはいまから始まるショーが待ちきれない様子で楽しそうな声をあげていた。ピエロはぼくらを見ると、チケットを渡してくれた。

 三日月の形をしたそのチケットには、「ハロウィン限定★仮装をしたこどもは無料!」の文字が躍っていた。

 ぼくらがラッキーだね、と言うと、ピエロはにっこり笑って展望台の席へと案内してくれた。観客席から空を仰ぐと、徐々に空が開いてゆくように天井が透明なガラス窓へと変わっていった。

「天空サーカスへようこそ!」

 急にサーカステントの中央に照明が落とされた。眼をやると、サーカス団長だろうか、恰幅の良い立派な髭の男性が現れた。

「パパだ!」

 突然、カボチャ少年が叫んだ。

 それを聞いて、ぼくはやっと安心することができた。やっぱり、カボチャ少年はサーカスの子だったんだ。

 サーカスが終わって少年を団長の所に連れて行ったら、この迷子騒動記もようやくおしまいか。

 ぼくはそんなことを思って安心してしまったせいか、だんだんと眠りの森へ迷い込んでいってしまった。

 確か、ぼくはあのハロウィンの夜も三日月サーカスにいたんだ。なにか大切なことを忘れている気がする。

「どうしよう、ふたりともどこにいるんだろう」

「どうしたの?みちにまよっちゃったの?ぼく、サーカスのことなんでもしってるよ」

 その晩、一緒に来たパパとまりあ姉ちゃんとはぐれてしまったぼくは人ごみの中で立ち尽くしていた。そんな時に、ハロウィンの仮装をしたカボチャ頭の少年と出会った。その子とぼくは同い年くらいだったせいか、すぐに仲良くなった。

 その子はサーカスに住んでいて、小さい頃からショーにでているらしい。

「ぼくずっとサーカスのなかにいたから、同い年のともだちがいないんだ。はじめての友達になってくれる?」

「もちろん、ぼくもサーカスに友達がいるなんてはじめてだ!」

 そう言ってぼくらはお互い笑った。

 その夜、少年が欠員した団員のかわりにサーカスにでるというので、ぼくはいつにも増して食い入るようにサーカスの舞台に見入っていた。動物の曲芸やピエロのおもしろおかしいショーのあと、その時はやってきた。

 それはガラス張りの天井を開いて、きらめく星空の中で空を舞うショー。

 空に向かってそびえたつ梯子の先には小さい男の子が華やかな衣装を着て立っている。

「お待たせいたしました。三日月サーカス目玉のショー、空中ブランコ。本日は三日月サーカスの一人息子がデビュー致します」

 サーカスの団長と思える男性が少年を紹介すると、観客席から拍手や歓声が飛んだ。ぼくは息をのんでショーを見守った。

 彼はブランコに手をかけると勢いよく空に飛び出した。けれど、ちょうど夜空に流れ星が見えた時だった。宙を舞い遠心力でバランスを崩したのか、ブランコから離れてしまった彼はまっさかさまに落ちていった。

「あ!」

 ぼくは思わず小さな叫び声をあげて顔を手で覆っていた。

「ハルちゃん、」

 目を覚ますとカボチャ少年がぼくの顔をじぃと見つめていた。周りを見渡すと、サーカスはいつの間にか消えていて、夜空のなか野ざらしの空き地に座っていた。

「ぼく、わすれてた。きみとはじめて会ったあの日にブランコから落ちて死んじゃったんだ。でも、はじめてともだちができたハロウィンの楽しかった夜のことだけ、どうしても忘れられなくて。きみを探しにまちにいったんだ。だけどぼく……、サーカスの外なんか行ったことないから、まよっちゃった」

 少年はうるんだ目を片手でごしごしとこすって、にっこり笑った。

「でも、また会えた」

 パパがハロウィンの夜はしんじゃった幽霊やご先祖さまが一年に一度戻ってくる日って言ってた。もしかして、ハロウィンになるたび、彼はぼくのことを探しに街のなかを歩きまわっていたのかな。そう思ったら、ぼくはきゅうっと胸が苦しくなった。あの日のことがあんまりショックで忘れてしまった自分は、なんて薄情なんだろうって悲しくなった。

「もうサーカスのともだちじゃなくなっちゃったけど、ユーレイでもともだちでいてくれる?」

「うん、ずっとともだちだよ、ユーレイになったって変わらないよ。ぼく、毎年たくさんお菓子用意してきみのこと待ってるから」

 ぼくらはゆびきりをして、抱きしめあった。


************


 こうしてハロウィンのふしぎな迷子騒動は幕を閉じた。

 アリエちゃんが占えなかったのは、彼が幽霊だったからなのか、ぼくに出会えてもう目的地にたどり着いていたからなのか、それは今でもよくわからない。

 来年のハロウィンは絶対一緒にお菓子やごちそうをたべてみんなの家をまわるんだ。


「トリック オア トリート!」 


(迷子のハロウィンナイト/了)

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