未来予想図が見つからない
十字三丁目のドーナツカフェの天井――空にみたてた天蓋からは、作り物の月やら猫やら気球船がぶら下げられている。僕は玩具の猫の黄色い眼を睨み付けながら、盛大な溜息をついた。
まるで、世界中の不幸がここに吐き出されたみたい。
「まるで、この世が終わっちゃうみたいな溜息ね」
見上げると、赤い髪の背の高いウェイトレスが僕を見詰めて笑っていた。
「えっと、ゆりあさん?」
「残念。ゆりあはあっち」そう言って、彼女は楽しそうな顔をしながら、親指で後ろの方を指差した。
「あたしはまりあ」
違いがわからない。
もう何度目の間違いだろう。このカフェにウェイトレスは五人いるのだが、五人全員が同じ容姿なのだった。店主は顔を覚えるのが苦手らしく、同じ顔の五つ子のウェイトレスに大満足のようだ。
「どっち行ったらいいんだろう」
僕はまた溜息をついた。
「場所がわからないなら、交番いきなさいよ。店出て右側だから」
「違うんです。僕の正しい道はどこなんだろう、って。……明日進路相談なんです。僕はどこに行ったらいいでしょうか」
「なるほどね、でも、それはきいちゃダメよ。少年が正しいって思うことが正しいのよ」
「どういう意味、ですか?」
僕は眉をひそめた。
「確かに犯罪に手を染めちゃう人は正しいとは言えないわよ?でもね、そうじゃなかったら、正しい正しくない生き方なんてないの。自分が良いか悪いかじゃないかしら」
「そういうものなのかな」
「ところで、良い男の見分け方って知ってる?」まりあさんは腰を屈め、僕に耳打ちした。
何故ここで良い男の見分け方?
だいたい、僕にわかる訳ない。
「お金持ちとか、優しいとか……?」
「話して心地よい声かどうか、よ。いくらお金持ちでも、器量がよくても、一緒にいて安らがないなら、その人にとっては良い男とは言えない訳。いくら、回りが良い人って言ってもね」
「たしかに、そうかも……」
「少年の将来にしてもね、立派な肩書きのある職業につくのが正しいとも限らないのよ。自分で正しいと感じるものを選ぶしかないの。手助けは出来るけれどね」
まりあさんはにっこり笑った。
「さっき、僕の将来を占ってもらったんです。同じ学校の占い少女に」
僕は目の前のココアの入ったカップに触れながら言った。
「うん?アリエちゃんだっけ?」
「はい、あたしに聞くな、って怒られちゃいました」
「まぁ、ね。人間って誰かに決めてもらうと安心なのよね」
まりあさんは思い当たるふしがあるのか、ゆっくり頷いた。
「去り際、不機嫌そうに、“あなたは将来、必ず死にます”って言われました」
「確かにっ……」
まりあさんは思い切り笑いを堪えている。
「じゃあ、それまでになんとかしなきゃね」
僕は笑顔を作りながら頷いた。
三十分後、僕が席を離れ会計にカウンターの前に立った。お釣を僕の手に落としながらウェイトレスが僕に話しかけてきた。
「道案内はお姉さんの得意分野だけどね。目的地がなきゃ出来ないの」
「君が行きたいのは何処なのか。それがまず、問題」
――僕が行きたい場所。
僕にしかわからない素敵な場所。それを、探していかなきゃいけないんだ。
「そうですね」
僕は笑顔で大きく頷くと、軽い足取りで街中へかけていった。
(未来予想図が見つからない/了)