Doubt!!
「ダウトッ」
君に出会ったときから、おれ達の運命は決まっていたんだ。
★★★
普通に過ごしていたけれど、君の何気ない言葉でおれは確信した。
君は、おれのことが好きだということ。
だけど素直になれなくて、君は嘘を突き通そうとして必死になっていたということ。
全部分かってしまったんだ。
だから、おれは君の嘘を暴こうか。
「ゲームしようか」
「ゲーム?」
「至極単純なね。おれ達、1週間話さないことにしよう。挨拶も駄目。どちらが先に音を上げるかゲームするの」
「なんだそれ。お前と話さない、それがゲーム? ……呼吸するより簡単じゃないか」
嘘つけ。でもまだ言ってはいけない。確証がないからだ。
「……それで? そのゲームには勝ち負けがあるんだろう? 罰ゲームはどうするんだ」
「…勝った人の言うことを聞く。それでいいでしょ」
「…ああ、分かった」
「じゃあ、ゲーム開始」
おれ達は互いに背を向けた。
さあ、はじまりだ。
☆☆☆
あいつから妙な提案をされて、僕たちは言葉を交わすどころか目さえ合わせなくなった。
最初はこんなの楽勝だと思っていた。でも、ゲームを始めてから3、4日経つと、あいつにしゃべりかけられないもどかしさを、嫌でも感じてしまう。
それにあいつは平然としているんだ。僕と一緒にいなくても平気だという顔をして、僕の脇を通り過ぎていく。そんなあいつを見ると、ますます切なくなってくる。
お前は、僕がいなくてもいいのか? 友達は他にもいるから僕は大して必要ではないのか?
……なぜこんなにあいつに対してくよくよ悩まなければならないのだろう。僕はあいつのことをどう思っているんだ?
ずっと、嫌いな存在だと思っていたのに。
★★★
ゲーム5日目。おれは普段通り学校に行く。
そこで待っていたのは、君の物欲しげな目だった。
しかもそれはおれに向けられたもの。
予想通りの反応に、おれは内心笑みを漏らした。そしてその目の前を知らぬ顔で通る。君が呼びかけようとして一瞬声を上げたのが聞こえた。
おれは振り返って君を見ようとした。
だけど、やめた。
目を合わせたらしゃべりたくなってしまう。
いい加減おれも、君と一緒にいられないことが辛く感じるようになってきた。
☆☆☆
あー、もう、僕は我慢できない。
あいつの声が聞きたい。
あいつの隣にいたい。
なぜここまで僕はあいつを求めているのだろうか?
ここのところ1日中あいつのことを考えている。
明日になればゲームが終わるから、最初は何を話そうか、とか早くあいつとつるみたいとか。
こんなこと考えているなんて、まるで恋人同士じゃないか……。
……恋人…?
あいつが?
まさかそんなはずはない。
それとも僕は本当にあいつに惚れていたのだろうか………。
★★★
夜中に電話が掛かってきた。
ケータイを開くと、君の名前が表示された。
「……はい、もしもし?」
決定ボタンを押して電話を耳に押しつけると、君が電話の向こうで泣いているのが分かった。
「……どうしたの??」
君がしゃくり上げているのだけが聞こえる。
しばらくすると、
「…会いたい…」
消えるような声で君は言った。
「お前の家の前にいるから……」
そこで電話が切れ、おれは不安になって外へ出た。
☆☆☆
玄関からあいつが出てきた。
立ち尽くす僕を見ると真っ先に駆けつけて、
「…どうしたの…?」
と言った。
……どうしたもこうしたもない。お前に1週間無視され続けたせいで、僕は落ち込んでいるというのに。
やつの呑気な口調に腹が立ってきた。
「……お前なんて、大っ嫌いだ! 僕はこの1週間どんな思いで……」
「…うん。それで?」
熱くなる僕にたいして、やつはひたすら冷静沈着だ。
「……何であんなゲームやろうって言いだしたんだよ。……馬鹿野郎! お前なんて大嫌いだ!」
「ダウト!」
やつは僕の顔の前で大声で叫び、にっこりと微笑んだ。
「勝負は、おれの勝ちだね。そして君は今、嘘をついた」
「え……」
「昔から嫌い嫌いと連呼してたけど、それならなぜこんなに泣いているの? 高々1週間やそこらおれと口をきかなかったくらいで君は何で苦しく感じるんだい? ホントに嫌いだったら、おれと仲違いしてしまった方がせいせいするんじゃないのか?」
「な…にを、言いたい……」
「それは君にも分かっているはずだ。……言ってごらん。君の本当の気持ちを。…それが罰ゲームだ」
「……僕の気持ち…」
分からないわけではない。分かってはいるが、認めたくないのだ。
だってこいつは、昔は本当に嫌いだった人物なんだ。
なのに最近になって好きになってしまって……あまりにも体裁が悪いじゃないか。
だから、この気持ちは嘘だって、何かの間違いだって、自分に言い聞かせていたんだ。
「……好き」
言ってしまった途端、涙が堰を切ったように溢れ出した。
「……好きなんだよお前のことが! 1週間お前と話せていなかったせいで、僕はもう身も心も破れそうで……」
僕は立っていることができなくなって、その場で崩れるようにへたり込んだ。
「……もうあんなゲームはしたくない。お前がいないと僕はきっと………駄目なんだ」
俯いていると、遠慮がちな手が僕の頭を撫でた。
「……ありがと。もうその辺でいいよ。君の気持ちは伝わったから。実はね」
やつもしゃがんで、僕と目の高さを同じにして言った。
「おれは昔から君のことが好きだったんだよ。だけど君は、初めはおれのことを本当に嫌っていただろう? だから自分の気持ちを打ち明けたことはなかったし、打ち明けようとも思わなかった。だけど最近、君の態度が変わってきて、おれに気があるって分かってから、いつ告白しようか時期を伺っていたんだ。でも、なかなか切り出せなかった。それはね、君はおれが好きなくせに、昔と変わらず嫌いなふりをしていたからなんだ。もっと自分に素直になってくれれば、おれも気を揉むことはなかったのに」
やつは苦笑いをした。こんなに近くでやつの顔を見るのは初めてだった。
「君はホントにガードが堅くて。嫌い嫌いと連呼するうちはおれも中に入っていけないからさ。で、何とかそのガードを壊そうとしたのがこのゲームなんだ。その結果、やっと君が素直になってくれた。だから、ちゃんと言わせて」
やつは両手で僕の頬を包み、慈しむ顔をして言った。
「……好きだよ。君が。だから嫌いだなんて言わないで」
やつは目を伏せて、僕に顔を近づけた。僕は拒むことなく、そのままやつを受け入れ、唇を重ねた。
口から漏れるやつの甘い吐息が何とも愛おしかった。
ゲームは終わったが、僕たちの関係はまだまだ続く。
誰よりも愛しいお前とともに、この道の向こうまで歩いていく。
夜空の下で、僕らはとろけるように抱き合った。