日常 【月夜譚No.408】
掲載日:2026/06/28
神はいつも身近にいた。山、川、道端の大きな岩や木々に至るまで。昔の人間は、それ等に神が宿るとし、崇めてきた。
“神”というと、特別で人間を導く崇高な存在というイメージを持つ人が多いだろう。しかし古事記を繙けば解るように、意外と人間臭い一面も持ち合わせている。
「あそこのケーキ、美味しいよね。私、チーズケーキが一番好きかな」
清かな風が通り過ぎる神社の境内で、池の畔に腰かけたパーカー姿の少女が隣に座る制服姿の女子高生に軽い口調で話しかける。女子高生は相槌を打ちながら、商店街にあるケーキ店のショーウィンドウを思い出した。
確か、今は季節限定の味のチーズケーキが出ていたはずだ。今度来る時はそれを買ってこようと、密かに算段する。
「――あ、戻らないと。じゃあね」
参拝客の男性が一人鳥居を潜ると、少女は立ち上がって拝殿に向かって駆けていく。その姿がすうっと空気に溶けるように消えるのを見届けてから、女子高生も膝を伸ばして学生鞄を肩にかけた。
神は身近なもの――彼女にとってそれは真に実感することだった。
拝殿に歩いていく男性の姿を目の端に捉えながら、彼女は足取り軽く鳥居を抜けた。




