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第四話







魔王城に向かう道のり。私は最初のアドバイスをアルタに出した。


【勇者様。今の動きは無駄が多すぎます。右に15度移動して、一気に突きを。……何をしているんですか?】


指示に対し、アルタはなぜか剣を振るのを止め、じっと画面を見つめていた。


「……あ、いや……。今、『右』って言われた時、なんだかすごく懐かしい気分になって……」










アルタが空腹でふらついていた。彼がご飯を三日も食べていないからだ。私がイベントリから勝手に食べ物を出して、アルタにそれらを食べるように指示をしたのにまったく食べる気配がない。

勇者に空腹で死なれては困ると思い、最終手段として、ダメだと分かっていたが、私はあることをした。


【緊急配布:運営者が『特製カツサンド』を支給しました】


「だから、食べ物はいらないって。…………いい匂い。これどうしたの?」


【……。いつも通り、勇者さまのイベントリから勝手に取り出した食べ物です。極度な空腹度になっています。食べることを推奨します】


「…………ハハッ、久しぶりにご飯が美味しそうに見えたよ。ありがとね。食べようかな。いただきます」


アルタは初めはおそるおおる、次第に幸せそうにカツサンドを頬張る。


その笑顔を見ていると、嬉しくなる。もっと食べ物を出したくなる。

あーダメだ。


「……美味しいぃぃ、美味しいぃ……」

しまいにはアルタは泣きながらご飯を食べだした。












その日から、しっかりとご飯を食べ、今度はもっと休めと心配になるほど無我夢中に戦いだした。もっと強くなって、もっと素晴らしい成果を出して、冷たい私に認めてもらおいたいらしい。進む速度が格段と上がった。


「見て! ドラゴンを一人で倒したよ! 褒めて! ……あ、頭とか撫でてほしいな~……なーんて」


【私は実体を持たないのでできないと言ったはずです。それに、ドラゴンの素材の回収漏れがあります。早く取りに行きなさい】


「……知ってるけど……もっと頑張るね」


アルタは寂しそうに笑い、また戦いの場へと駆けていく。




私は密かにスキルポイントを幸運に最大値を振り分ける。彼が怪我をしないように。彼がまた、あんな風に壊れてしまわないように……







そんな「甘やかし」の数々が、魂の深くに眠っている記憶を呼び寄せやすくなるとわかっているのに……























記憶を消し、完璧な「勇者と運営」の関係を再構築しようと努力した。




最終決戦、魔王がいる部屋を目前にしたアルタは、突然剣を捨てて泣き崩れる。


おい、どうした!?こんなところで武器を手放すなんて、危険だぞっ!!


「……もう嫌だ。どうしてそんなに冷たいの?……サトウさん……っっ」


記憶から消したはずの「佐藤」という苗字が、彼の口から零れたような気がした。気のせいだと考え、どうしてそんなに冷たいのかという問いに答える。


【通知:……勇者様。私はシステムです。冷たいのは元々です。これから魔王戦のシミュレーションの確認を――】


「違う!元々冷たいなんて嘘だ! 」


アルタは瞳から大粒の涙が溢れ出させながら遮って叫ぶ。


「記憶にはないのに、魂が叫んでる! 『俺の大切な人だ』って!」



……っ。全て記憶とかは削除したはずだ!

あれか?

記憶はたしかに消えたけど、魂の奥底にあるものは消せなくてまだ残ってるてやつ?


リセットは一時しのぎに過ぎなかったのだ。

この勇者は、何度記憶を消されても、何度世界をやり直しても、必ずこの「画面」の中にいる自分を見つけ出し、物理的に引きずり出してきそうな……気がしてきた……


……逃げられないのか?






記憶を消された直前の涙も入っている、消したはずの「佐藤とアルタ」のデータがあったところが、魔王城に向かう道中、ずっと明滅していた。





そこが一際まばゆい光を放つ!



そして、警報がけたたましく鳴る。



ビービー



【!システム警告!:勇者アルタの深層意識に『未定義のフォルダ:LOVE_ALT』が完全に復元されました!】



ビービービービービー!!



消しきれなかった「想い」がシステムを超えて暴れだす……!



アルタがフラフラと立ち上がる。


「……俺、完全に思い出したよ。サトウさん、俺に『サヨナラ』って言ったよね。サトウさんが僕の記憶を消したんだ。……僕がサトウさんのこと好きすぎたから、困って、俺の記憶を消したんだね?」


【……!勇者様、何を仰っているのか理解できかねます】


アルタの瞳に、「執着の光」がうっすらと宿り始める。


「いいよ、隠さなくて。……今度は、記憶を消させない。まあ、何度やり直したってまた思い出すけど。俺は、魔王を倒したいんじゃない。世界を救いたいわけでもない。……僕はただ、画面の中に隠れているキミに、この手で触れたいだけなんだ!!佐藤さんが僕をまたリセットしたくなる前に、俺、サトウさんを『こっち側』に引きずり出す!」



ギギギ……ッ!



と、ありえない音が響く。



アルタは、空中に浮かぶ画面に、すり抜けるはずの手を伸ばし――信じられないことに、画面を現実の物体であるかのように両手てガシッと掴んだ。



【エラー:非実体オブジェクトへの物理干渉を検知! 警告、警告!】



虚空の『隙間』に無理やり指をねじ込み、システムの壁を力任せに抉じ開けられ始めた。


【……あ、あ……アルタ、やめろ……。これ以上干渉すれば、世界が壊れる……!】


「壊れればいい。キミのいない世界なんて、無理なんだ!」


非実体であるはずの私の体が、彼の「触れたい」という強烈な意志によって、強引に物質へと変換されていく。




【……エラー、致命的なシステムエラー。物理干渉を拒否……拒、否……】



ついに、アルタは狂喜に満ちた笑顔で、「パリン!」という世界が割れるような音とともにシステムと現実の壁を完全に粉砕し、消滅させた。無機質なシステム画面という防壁も、すべてが物理法則の崩壊とともに弾け飛んだ。引きずり出されそうという予想が的中したのだ。



「捕まえた。……もう、どこにも行かせないよ。もう画面だけの関係なんて嫌だ。僕の初恋の人。キミのその声を、直に俺の耳に聞かせてね!……僕と一緒に、現実ここへおいで」


最強の勇者の手が、画面の中から佐藤を掴み、異世界へと力強く引きずり出された。








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