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第三話









アルタは大陸全体の支援もあり、さらに強くなってSS級冒険者になった。



最強の勇者に近づいてきたが、ここで、一つ致命的なミスが起こった。


「サトウさん。今日、王女に告白されたね。魔王を討伐したら結婚してって」


今日、小規模のパーティがあった。王女に告白された時から、アルタの様子はどこかおかしくなった。アルタは勇者のために貸された王宮の一室の豪華なベッドに寝転び、宙に浮かぶウィンドウをうっとりと見つめる。


【おめでとうございます。その誘い、受諾することをおすすめしますよ】


「嫌だ。絶対に受けない。……だって、僕にはサトウさんがいるから」


【……どういうことですか?】


「今日、自覚した。俺はサトウのことが好きなんだって。サトウさんはいつも俺を助けてくれたね。泣いている時も、ずっとそばにいてくれた。……ねえ、どうすれば触れられる? 抱きしめられるかな?」


【無理に決まってます。不可能です】


「サトウさん昨日、僕が寝てる間にこっそり回復魔法をかけてくれたよね。絶対、あれは愛だよね。サトウさんも俺のことが好きに決まってる」


【いや、ただ回復させただけなのですが……】


訂正しようとしたが、全くこっちの話聞かない。


アルタの目は、鋭く、情熱的に燃えていた。


「決めたよ。俺は魔王を倒して、世界を救う。その報酬として佐藤さんを人間にしてって神様に願うんだ。……待っててね、僕の最高のシステム」













その日から、よくうっとりと見つめられ、「文字フォントが今日は一段と可愛いね」などと囁いてくる日を毎日過ごす。


焦った。このままでは勇者が「画面しか愛さないニート」になりかねないのではと。過剰な依存から抜け出さ、適切な距離感を保たなければ。

緊急メンテナンスが必要だ。



ということで、彼の意識を私から逸らすために、実際の魔王よりも強いのではないかと思う【偽の魔王軍団】を作成することにした。

「倒すべき強大な敵」がいれば、恋愛にうつつを抜かす余裕もなくなるはずだ。

私は近くにいる強い5体の魔物を選び、ありったけの付与を当てる。

【アップデート:個体名『キング・ゴブリン』を『暗黒帝王ゴブ・デスサイズ』へ昇格】

【付与スキル:『絶望のオーラ』『絶対回避』『運営者への罵倒』】

などなど。


よし、名前はダサいかもしれないがこれでいい。私を侮辱する敵が現れれば、アルタの怒りは私への愛ではなく、敵への憎しみへと変換されるはず。












翌日、森に現れた『ゴブ・デスサイズ』たちは、計算した通り凄まじい威圧感を放っていた。


アルタが剣を構える。


〈……勇者よ〉

ゴブリンたちが入力したテキスト通りに喋る。

〈お前が信じているその『画面』は、ただのガラクタだ。お前を操り、効率よく働かせているだけの冷酷な機械に過ぎない……〉


よし。これでアルタも「そうか、サトウさんは俺を利用していただけなんだ……」と目を覚ますはず。



しかし、アルタの反応は予想の斜め上を突き抜けた。


「……そうだよ。サトウさんは時々冷酷だよ。でも、その冷たさが最高にゾクゾクするんだ。キミみたいな汚い緑色に、僕と運営さんとの関係を侮辱される筋合いはない。特にサトウさんをバカにする奴は、俺が許さない!!」


アルタの全身から、これまでに見たこともない「どす黒い魔力」が溢れ出す。


「サトウさん。見てて。キミを侮辱したゴミを、一秒で消してあげるから」


アルタは神速の踏み込みをし、2日かけて作り上げた自信作の最強の敵たちを、文字通り塵も残さず消滅させた。


「……サトウさん、今の俺、かっこよかった? 褒めてくれる?」

返り血を浴びたまま、画面をのぞき込んでくる瞳は、完全にキマっていた。


敵を作ったことで「佐藤さんを守る」というヒーロー願望に火をつけてしまったようだ。


「……世界を滅ぼしてサトウさんを独占したいなあ」

何かアルタがおぞましそうなことを呟いていた気がするが、聞き取れなかった。


【アルタ様、落ち着いてください。まずはその剣を置いてください、ね?】










アルタの暴走は止まらない。

「サトウさんを独占するために、他の人たちを眠らせる魔法を開発して。俺も頑張るから」などのおかしな要望が飛び出し始めた。いやそんな魔法作るわけないだろうが。



 関係の修復が不可能だと思ったので、アルタの記憶を一部消すことに決めた。


【……本件は、サポートの範疇を超えています。これより、記憶の改変を実行します】


画面いっぱいに、「システム・コマンド・プロンプト」を展開する。


「え……サトウさん? 何その画面…… それ、やめて!!」


アルタは鋭い勘で、これから何か大変なことが起きようとしているのを察したらしい。

伸ばされた手が、虚空に浮かぶ私のウィンドウを掴もうとして、すり抜ける。


【アルタ様、ご利用ありがとうございました。あなたの私との記憶は、これより初期値に戻されます】


「待って! 忘れないよ、俺は絶対に忘れないから! 次に会った時も、またサトウさんを――」


無機質なシステム音とともに、【記憶消去】が実行された。





アルタと初めて出会った日、初めてスライムを倒した日の記録、彼が照れくさそうに「ありがとう」と言った音声データ……。それらがすべて、ゴミ箱へと放り込まれていく……













「……う、ううん……。ここは……?」


真っ白な光が収束し、平和な草原の真ん中で目を覚ましたアルタは、自分の手を見つめる。 しばらくそうしていると突然、無機質なウィンドウが彼の横にポップアップされた。


【通知:おはようございます、勇者様。……気分はいかがですか?】


「……えっ、誰!? 何!? おっ、おっ、 おはようございます……?」


【ダンジョンクリアおめでとうございます。報酬はこの私。手に取って頂きありがとうございます。勇者さまが見つけてくださった私が、明後日からのあなたの魔王討伐の手助けをさせてもらいます。さあ、明日は休んで、明後日には魔王の本拠地に向かう旅に出ましょう】


 アルタが顔を上げて画面を見つめる。瞳には、リセット前の濁った色や狂気の色、ねっとりとしたものはなく、出会った時と同じ澄み渡った碧眼に戻っていた。



……よし。成功だ。ステータスの中の自分への恋心は今の彼は微塵も残っていなさそうだ。これで、今度こそ正しく「最強の勇者」に導けるはず。私のことをただの『便利な道具』として認識し、健全に世界を救ってくれるはず。



「俺、いまさっきまで何してたのか、全然覚えてないや。ダンジョンに潜っていたんだっけ……?? …これがダンジョン攻略の報酬?あ、あの……?」

アルタは空中に浮かぶウィンドウへ手を伸ばしながら話した。


【私の名前は運営です。何でしょうか、勇者様】


「……なんだか、初めて会った気がしないね。ずっと前から一緒にいた気がする……すごく長い夢を見ていたなあ。……悲しくて、でも、ときどき胸の奥がギュッとするすごく熱い夢……何か僕、大切なことを忘れてるような気が……」


やばい。記憶もデータも完全に消したはずだ。

魂の奥底にまだ残ってる的なやつか?


アルタの頬を、一筋の涙が伝った。


【回答:……。あなたと私は初めて会いました。……バイタルデータに異常はみありませんし、気にする必要はありません。夢の内容は、急激なレベルアップによる脳の負荷と思われます。】


「……そっかー」


アルタは素直に頷き、立ち上がって土を払った。


【速やかに休息を取る必要があります】


「うん、そうだね……帰って休もっか」

そう呟いてアルタは宿屋への道を歩き出した。







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