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第二話







 アルタは力をつけた。とっくの昔に村にいる魔物はアルタの敵ではなくなっていた。


 アルタは、明日から村の外で冒険者の活動をすることにした。


 あいさつ回りをしていると、アルタはガキ大将のゴードンとその取り巻きに囲まれた。


「おいおい、アルタ! お前みたいな泣き虫が村の外で冒険者やるだって? 笑わせるなよ。お前にできることなんて、せいぜい魔物の足にすがって命乞いすることくらいなくせに!」

と、ゴードンは言う。


周囲に響く嘲笑。アルタは俯き、握りしめた拳を震わせるだけで何も言い返さない。アルタは、私に対しては上手く話せるが、他の人、特にゴードンとはまだ上手く話すことができないのだ。


「……うう、まあ、僕……運営さんがいないと何もできないし……」


弱気な発言に、

【通知:アルタ様。現在、不当な誹謗中傷を受けています。アルタ様はずいぶん強くなりました。目の前のゴードン君より腕は上です。適切な反論を推奨します】

というメッセージを私は送った。


「でも運営さん、あいつの言う通りだよ……。僕なんて……」


はあぁー

そう言うアルタに呆れながら、私はアルタの視界のど真ん中に、「対話用スクリプト」を表示した。

【アルタ様。私が今から表示する文字を、そのまま復唱してください。感情を込める必要はありません。冷徹に、事務的にです】


「えっ? あ、うん……わかった」


アルタは顔を上げ、目の前のゴードンに向かって、用意した内容を読み上げる。


「……ゴードン君。君の指摘は、間違っています」


「あぁ!? 何が間違っているんだよ!」


「あなたは僕をを馬鹿にしましたが、ゴードン君のほうが僕より弱く、この村の魔物は簡単に倒せます。僕の剣術の精度は、君の『力任せな棒振り』に比べて命中率が高いのです。君が誇るその腕力も、訓練の仕方が良くないため、将来的な伸び代は僕よりありません。それに、……えーと、君が今ここで僕を苛めることに費やしている時間は、市場価値に換算すると銅貨3枚分にも満たない無益な損失です。以上の理由から、君の意見は間違っているのです。……お引き取りください」


アルタが反論してくると思わなかったのか、あたりが静まり返った。


ゴードンは顔を真っ赤にしたり青くしたりして、「な、なな、何言ってんだお前ぇ!!死んでも知らないからな!!」と叫びながら走って逃げ出す。




「……すごいや、運営さん!あんなに怖かったのに、反論するとすぐいなくなっちゃった!」

アルタの顔が明るくなる。


【報酬:精神的な勝利。称号『冷静沈着』を獲得しました】

【ゴードン君はきっとアルタ様のことを心配していたのでしょう。力で解決する前に、まずは言葉での話し合いですよ】


 この後、アルタは森の中に入って剣を構え、今日のノルマの素振り1000回を始めた。805回目の素振りをしたときに、ゴードンがアルタのもとにやってきて剣の勝負を持ち掛けてきた。アルタは素振りで疲れている状態にもかかわらず勝利を収め、ゴードンを泣かしたのだった。













 アルタは冒険者として村を転々とする。


 ある日。アルタが今まで過ごしたことのある村より発展した町に到着したときのこと。村の安っぽい藁布団しか知らなかったアルタにとって、泊まっているランクが上の宿屋は、広くて冷たい場所だった。

消えかけたランプの火が、石造りの壁に長い影を落とす。その影は魔物のように見えて、アルタはとても不安になった。



「……ねえ、運営さん。寝ちゃった?」

アルタはベッドの中で丸くなり、虚空に向かって小声でささやく。


【通知:知っての通り、私はデータ体ですので、睡眠を必要としません。現在、周辺の警戒および明日のクエスト情報の精査を行っています。……何か御用ですか?】

無機質な文字が青白く浮かび上がると、アルタはホッとしたように顔をした。


「よかった……。ええと、この街、すごかったね。たくさん人がいるし、見たことのないものがたくさんあったし」


アルタはシーツをぎゅっと握りしめる。


「もし、運営さんがいなくなったら……僕、またあの村の泣き虫に戻っちゃう。……運営さん、僕を見捨てたりしないよね? 飽きたら別の人のところに行ったりしないよね?」


【回答:私のサポート対象は個体名『アルタ』に限定されています。これからもアルタ様を支援しますよ】


「そっか……よかった」


私はアルタの不安を取り除くために、その夜、アルタが寝るまでずっと話し続けた。










アルタは、裏のガチャの確率操作や、経験値を1000倍にブーストなどの私のサポートにより、爆速で成り上がって、彼はいつの間にかF級からA級冒険者になっていた。 



 ある日、アルタが暮らしている王国の1番大きい神殿にお告げが下った。数年後に魔王に攻め込まれ、この大陸が莫大な被害にあうと。この王国の北の端の大きな神殿にある聖剣を抜いた者に勇者の称号を与え、その者が魔王の討伐に参加せよと。


聖剣の主を探すために、ここの王国だけでなく近隣の国も含めた、この大陸にいる強者たちが聖剣の周りに緊急招集された。その中にアルタもいる。アルタは、輝くような金髪と、吸い込まれそうなほど澄んだ碧眼を持った誠実で謙虚な民衆の憧れの的の美青年に成長した。


王の側近が叫んだ。

「今から、今日来ていただいた方々に聖剣抜いてもらう!」


その言葉を合図に、強い人から順番に聖剣を抜くことに挑戦していく。アルタの番は真ん中の方だ。


アルタの順番が来る。アルタが聖剣に手にかける。


シャキーン!


アルタが他の人は抜くことが出来なかった聖剣を抜いた。


アルタが聖剣を抜いたと同時に、周りの観客から特に大きな拍手が起こる。


「わぁー!!勇者様に選ばれたのは、あの人なの?」

「顔がいいね!かっこいいわ!」

「この前助けてもらったけど、物腰が柔らかくてとってもいい人だったよ!」

たくさんの肯定的な意見が流れる。



(あー。俺が聖剣の主?)

アルタが心の中でつぶやく。


そのつぶやきに対し、

【はい。アルタが勇者様です。生まれた時からアルタが勇者になる運命だと決まっていたんです。私は実は、アルタが勇者となる存在なのに全然成長しないから、あなたを強くするために私が来たんです。初めてでったひが懐かしいですね】

と、答える。


アルタのことを呼び捨てにしたりと、ここ数年でフランクにアルタと話をするようになった。


(ええぇー勇者なんてしたくないよー平和に過ごしたいのに…)


【これから勇者、頑張ってくださいね。私は、アルタ様を応援してます】


(はあぁー運営さんが言うなら、頑張ってみますよ。その後に運営さん、一緒にスローライフを送ろうね!!)


そんな話をしていると、

「そこの君、前へ」

と、王がアルタを呼んだ。

アルタが壇上に上がってひざまずくと、王が声をかける。

「そなたが聖剣を抜いたのだな。名前と職業を言いなさい。」

「はっ、私の名前はアルタと申します。アリノールギルドを本拠地としている、A級冒険者です」

「ほう、アルタ殿か。貴方に魔王を討伐を任せたい。貴方が、魔王を討伐出来るよう支援していこうと思う。アルタ殿を勇者に任命する!!」


わー!!

王が宣言した後、周りで一際大きな歓声が起こる。


「はっ、ありがたき幸せ」

「では、これからの打ち合わせがあるため、ついて来なさい」


王にそう言われ、アルタは後をついて行く。


(ねえ、運営さん。もし強い人と手合わせをして指導してもらえって言われたら今まで通り断るよ。いいよね)


【ダメです。今回は特に。しっかり指導してもらいなさい】


(運営さんがいるから、他人の指導はいらないよ)


【何度も言っている通り、私はプランは立てられますが、実際にアルタ様との対戦はできません。なので強者と戦い、早く強くなって魔王を倒してください】


(……ていうかなんで、したくもないのに勇者をしなくちゃいけないんだよ……!!俺は運営さんと二人で平和に過ごしたいのに…!!)


【……】


(……はー……運営さん、教えて?これを聞いたら指導について考えるよ)


【何を教えたら?】


(その……君の、名前。ずっと運営さん運営さんって呼んでたけど、なんか固有の名前はないの?)


【回答:私固有の名前は存在しません。私はあなたをを管理するインターフェースであり、便宜上『運営』という称号を使用しています】


(そうなんだ。俺、運営さんの名前を呼んでみたいな。名前がないなら、僕が名前を付けてあげる。その時々によって声の高さが変わるし、感情があるっぽいし、名前がないなんて、寂しすぎる)


アルタの話を聞き、私は、大学を卒業し、ブラックなIT企業のCS部門に配属された前世の記憶から、毎日名乗っていた名前を呼び起こす。このファンタジーな異世界には、欠片も似合わない苗字を。


【……本当の名前ではありませんが、私が以前、別の世界で個体識別番号として使われていた呼称ならあります】


(ほんと!? 教えて、運営さん!)


迷った末、苗字を教える。


【佐藤(SATO)】


「サ……トウ?」


アルタは、生まれて初めて聞くその響きを、宝物を口に含むように慎重に繰り返す。

(サトウ……。そうか、サトウさんって言うのか!大好きだよ。サトウさん! 俺、これからはずっとそう呼ぶから!)

アルタは満面の笑みを浮かべ、幸せそうな顔をした。

(俺、勇者頑張るね!サトウさん!!強者から学んでさらに強くなる!!)








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