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第一話

多分五話くらいで終わります







「ひっ、ひぃい……! 助けて、誰か助けてぇ!」


それが、私が異世界で初めて聞いた5年後に勇者の称号を受け取る予定の者の声だった。


私は今世は、彼の視界の右隅に浮かぶ「ステータス画面」として生きることになるらしい。勇者を育てる任務を受けたのだ。前世はスマホアプリのカスタマーサポートをしていた。クレーム対応で培った鋼のメンタルが、異世界転生という異常事態でも支えてくれている。


泣き叫んでいる子の名前はアルタ。 2年前に両親を亡くした。


この場所は湿っぽい「始まりの洞窟」だ。

アルタの目の前には、体長30センチほどの、プルプルと震える青いスライムがいる。アルタは、その前で腰を抜かして情けなく後ずさる。


 私は、彼の視界の右隅でウィンドウをポップアップさせた。


【通知:魔物『スライム』に遭遇しました。生存確率を上げるため、速やかに武器を構えてください】


「うわあああ!? 急に文字がでてきた!?喋ったぁぁ!」


【うるさいです。騒ぐとスライムの警戒心が強まります。黙って剣を握ってください】


「無理ー!」と、まだピーピー泣き叫んでいるアルタに呆れながら、勝手に操作を開始した。


【スキル付与:『必殺の勘』を一時的に有効化しました】

【ナビゲーション:スライムの核が赤く光る瞬間に、右斜め45度から杖を振り下ろしてください】


「でき、できないよぉ! 怖い!」


【いいから振れや。……振ってください】


アルタがパニックでめちゃくちゃに振り回した杖。それが私の計算通りの軌道を通った瞬間、スライムは弾け飛んだ。


「え……? 倒しちゃった……?」


【レベルが上がりました。腕力+1、精神力+0.1】

【報酬:スライムの核(小)。売却すればパンが買えます。……おめでとうございます】


アルタは涙と鼻水でぐちゃぐちゃの顔のまま、虚空に浮かぶ私の文字を食い入るように見つめた。


「あ……ありがとう! 君が助けてくれたんだね……! 君は、僕の神様なの?」


【いえ、私はただの運営です。それと、馴れ馴れしく『君』と呼ぶのは控えてください。不快です】


「運営さん……! 助けてくれてありがとう!」


【はあ、まずは家に帰りますよ。暗いの怖いと思いますので明かりつけます。ほら】


アルタは帰る途中にパンを買って、おなかを膨らませた。











 次の日、私はアルタをせかして、昨日倒したのより強い魔物と戦わせる。


【アルタ様、落ち着いてください。それは、昨日よりちょっと強いだけのただのスライムです】


弱気な少年・アルタが震える手で錆びた剣を構える。


「だって、運営さん! 急に目の前に『死亡率:80%』っていう赤い文字が出たら怖いに決まってるよぉ!」


はー ずっとピーピー泣いてて大丈夫か、この将来の勇者サマよぉ...


【それは私の計算による予測です。ちなみに、今あなたが逃げ出した場合の『転倒して後頭部を打つ確率』は95%に跳ね上がります。戦う方が合理的です】


私はシステム警告音を出し、勝手に彼のスキルポイントを操作した。


【操作完了:スキル『震える手』を『超振動剣術』に強制変換しました】


「えっ、何これ、剣が光って――うわあああ!」


アルタがパニックで振り回した剣が、スライムを分子レベルで粉砕した。


よし、今回もウインドウの役割をはたせた。彼が手に入れた貴重なポイントを、本人の意志を無視して「最短で最強」になれる項目に全振りしたぞ。











 帰り道。夕暮れの草原。お腹がすいたアルタがおかしな行動をとっていた。


「……運営さん。見て、この草、すごく瑞々しくて美味しそうだよ。魔物と戦うと、とってもお腹がすくんだね。きっとこれを食べれば、僕の空腹度、回復するよね…… 」


アルタは道端に生えていた、どう見ても毒々しい紫色のトゲがある草を手に取り、今にも口に運ぼうとしていたのだ。


【警告:その植物は『マヒシビレ草』です。摂取した場合、3時間の全身麻痺および継続ダメージが発生します。死ぬ気ですか?】


「でも、もう、お腹と背中がくっついちゃいそうなんだよ。運営さんは食べなくていいからいいよね……」


アルタの瞳に、ポロポロと涙が溜まる。


【……はぁ。これは『新規ユーザー登録キャンペーン』です。感謝して食べてください】

【操作実行:運営者専用ストレージより、アイテムを現実世界へドロップします】


「わわっ!? 空から箱が……!」


アルタの目の前に、ホカホカと湯気を立てる『テリヤキチキンピザ』と冷めた『コーラ』をドサリと落とした。

アルタの嗅いだことのない、場違いなジャンキーな香りが周囲を支配する。


「な、なにこれ……! すごくいい匂い……。これ何?何かが伸びてるよ、運営さん!」


【それは、『チーズ』です。それが入っている固形物のほうは『ピザ』で、液体のほうは『コーラ』といいます。喉を詰まらせないように黙って、脂質と糖分を摂取してください。】


アルタは震える手で一切れを口に運んだ。


「……っ!! お、おいしい……! こんなの、生まれて初めて食べた……! なにこれ、甘くて、しょっぱくて……幸せな味がするよぉ!」

ガツガツとピザを貪り、コーラを流し込みながら泣き笑いするアルタ。とっても美味しそうに食べる。


「運営さん……。僕、いつか運営さんと一緒に、このおいしい『ぴざ』を食べたいなあ」


【……私はデータ体なので、食事は不要です。次回からは魔物を倒すことによって食べることができますよ。 ......明日から走り込みをさせますから、覚悟してください】


「えええ!? でも、おいしいものを食べれるなら、僕、なんでも頑張れるかも!」


アルタはゴミを抱きしめ、空に浮かぶ文字に向かって、とても明るい笑顔を見せた。







「……はぁ、はぁ……っ。う、運営さん……もう、指一本動かないよ……。剣が、鉄の塊みたいに重いんだ……」


岩場の修行場。アルタはボロボロの稽古着で地面に突っ伏していた。「効率重視(という名のスパルタ)」な修行メニューに、毎日白目を剥いている。

ノルマには、「全力素振り500回」や「マラソン20キロ」などがある。


【通知:活動停止は許可されていません。あと20回のスクワットで本日の最低目標に達します。その後はランニング10キロ、素振り500回とまだまだあります】


「鬼だよ……運営さんの鬼! 悪魔! バケモノぉ!」


【罵倒はエネルギーの無駄です。……しかし、想定より5分早くメニューをこなしているのは事実。……分かりました。報酬系を刺激し、モチベーションの再起動を図ります】

【特別ボーナス:期間限定報酬『濃厚カスタードのダブルシュークリーム』をドロップします】

空から落ちてきた箱をアルタが開ける。

「……わっ、なにこれ! まん丸くて、ふわふわしてて……いい匂い……」

アルタの目の前に現れたのは、溢れんばかりのカスタードと生クリームが詰まったシュークリームだった。


【それは『シュークリーム』と言います。外側の柔らかな生地の中に、牛の乳と卵の精髄を煮詰めた黄金のクリームが封印されています。一口で、あなたの脳内の幸福物質を最大値まで引き上げます】


アルタは震える手で、その未知の物体をガブリと頬張った。


その瞬間。


「…………っ!!?!?!?!」


アルタの動きが止まった。

あまりの衝撃に、目からポロポロと涙がこぼれ落ちる。

「な、ななな……何これ!? なにこれぇぇ! 美味しー! こんなに甘くて幸せなもの、この世にあるの!? 運営さんすごーい!」


【……ただの製菓技術の結晶です。口の周りにクリームがついていますよ(笑)】


「運営さん……僕、一生ついていく! こんなにおいしいものをくれる運営さんのためなら、スクワット1000回だって、魔王の首を獲るのだってやってみせるよ!」


【アルタの精神状態が『極限状態』から『狂乱(歓喜)』に変化しました。トレーニング効率が400%上昇します】


アルタは口の周りをクリームだらけにしながら、再び剣を握りしめた。


その瞳には、先ほどまでの絶望ではなく、「訓練を頑張って、また美味しい食べ物の報酬をもらいたい」という、恐ろしいほどのハングリー精神が宿っていたのだった。










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