オルゴール殺人事件──名刑事・パーシーの華麗なる捜査記録
「……分からないかい? モロー君。被害者が手にしたオルゴールが、何を意味するのか」
若手刑事・モローは、しばし考え込んだ末に首を振った。頼りない部下に、粋なトレンチコートに身を包んだ名刑事・パーシーは溜め息を零す。
「この青年に、ファンシーなオルゴールは似合わない。ならば、何故?」
被害者の部屋に集められた五名の容疑者は、不安げに名刑事を見守っている。彼はその視線を楽しむように、狭い居間を悠々と歩き回った。
「モロー君。このオルゴールに収録された曲の名は?」
「確か……『トロイメライ』です」
「それだ!」
グイッと部下に身を乗り出し、力強く頷くパーシー。モロー刑事は慌てて身を引き、上司に尋ねた。
「警部、何を……」
「ここまで言ってもまだ駄目か!」
呆れたように首を振り、パーシーは目を白黒させる部下に一息に告げた。
「このオルゴールは、死者からの遺言。彼は最後の力を振り絞って、この難事件にヒントを残した」
ざわつく容疑者たちをよそに、パーシーは力強い声で続ける。
「トロイメライ……『夢』。この中に一人だけ、人に『夢』を与えることを生業とする者がいる」
全員が息を飲む中、パーシー警部は言った。
「そう、犯人は、男たちに一時の夢を与える夜の店の店員――クララ嬢、君だ!」
名指しされた夜の蝶、クララは、ガクリと肩を落とした。
「――さすがね、パーシー警部」
身柄を連行されながら、クララ嬢はふとパーシーを振り返った。
「警部、一つだけ。……あのオルゴール、そんなメッセージじゃないと思うわ」
目を瞬かせる一同に、クララ嬢は暗い笑顔を浮かべた。
「これ、あいつが私の誕生日に寄越してきたの。……散々貢がせといて、私にはおもちゃよ? バカにすんなって、思わずやっちゃった。
そこの四人、犯人は私だって分かってたんでしょ? あいつ、『コスパの良い高級品ゲット法』って言ってたし。……あんた達もどうせ、同じことしてたんでしょ?」
気まずげな四人と絶句するモローをよそに、彼女は足早に去って行った。
ちらりと隣を伺えば、上司は満足気に頷いている。
「……帝都の平和は守られた。さすがは、帝都一の名刑事・自分だ」
(……大丈夫か、この街)
モローはひとり項垂れた。




