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オリガミ様は神にあらず  作者: BPUG


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第58話 主従


 灰色の右目がまっすぐにオリトを見上げる。

 強すぎる眼差しから逃げるように、オリトはそばに佇むジョシュアを見た。

 だが彼の目も真剣で、これがランドルの気の迷いではないことを示している。

 ジョシュアは、ランドルがこれを言い出すことを知っていたのだろうか。


(いや、()()()()()んだろうな)


 オリトは自分で問いの答えを出す。

 そうなれば、オリトはきちんとランドルと向きあわねばならない。

 鼻から長々と息を吐き、視線をランドルへと戻す。

 長身のランドルが跪くと、十歳のオリトから顔が近い。

 何と答えようか、何を言えばいいのか迷って、オリトは一つ、ランドルにお願いをする。


「眼帯、取ってもらえる?」

「……はい」


 微かに眉根を寄せた後、ランドルは頭の後ろに手を当てて眼帯を外した。

 俯いた顔を上げ、再びオリトと目を合わせる。

 灰と、透明の瞳で。


「こっちは、見えてる?」

「はい。問題なく見えています」

「なるほど」


 ランドルの答えに、オリトはやはりと頷く。

 以前オリトが見たカミオチは、透明な両目で問題なく動いていた。盲目のようには見えなかった。

 だとすると、視力に問題がない目をランドルが隠す理由は一つだろう。

 透明な眼はカミオチの証だからだ。人に戻ったランドルに唯一残された、カミオチであった名残。

 これからランドルが人として生きていくためには、カミオチを示す瞳は隠さねばならない。


「なぜ、神はこれを残されたのかな?」


 つい、声に出してしまう。

 でも不思議なのだ。

 腕を覆っていた黒い毛や鋭い爪はなくなったのに、なぜ瞳だけ透明のままなのか。


「私の弱さを、私が忘れないためでしょう」

「弱さ……」


 オリトが繰り返すと、ランドルは瞼を一瞬だけ伏せて口元を緩める。


「私は幸運にもカミオチから人へと戻ることができました。ですが私は一度でも神を憎み、捨てた人間です。心は弱く、また同じことがあれば、心を病み、堕ちてしまうかもしれない」


 そうなるつもりはありませんが――そう言ってランドルは痛みと苦みを飲み込んだような笑みを浮かべる。

 それを見て、オリトは思ったことをそのまま舌に乗せる。


「僕は、ランドルは二度とカミオチしないと思う」


 ほんの僅かに、ランドルの顎が上がる。

 はくっと息を吸い、今度こそ痛みを我慢するように顔を歪める。

 それから全身から力を抜いて深く息を吐き、オリトを眩しげに見上げて両目を細めた。


「私も、そう思います。二度と、神を見失うことはないでしょう」


 オリトには、彼の表情の意味が理解できない。

 一瞬だけ浮かんで消え去った感情がなんだったのか。

 しかしランドルがそう言うのであれば、彼を信じよう。


「僕は……子爵家の次男で、いつまでも貴族でいられないかもしれない」

「分かっております」

「ランドルを雇う権力も財力もない」

「理解しております」

「ランドルの、騎士としての実力を発揮できるような場を作って上げれないかもしれない」

「お側にいられるだけで、十分です」


 灰色と透明な眼が真摯にオリトを見つめる。

 なんでオリトの騎士になりたいのだろう。

 理由が知りたい。聞いてもいいのだろうか。

 迷いつつも、オリトは尋ねてみることにした。

 聞いてみないことには、そしてそれに納得できない限りは、ランドルの願いを聞き入れることはできない気がしたから。


「どうして、そんなに僕の騎士になりたい?」


 するとランドルはその質問を待ち望んでいたかのように、柔らかく微笑んだ。


「私は騎士です。騎士になるために訓練され、育ち、そしてその道筋通りに騎士となりました。道を踏み外してはしまいましたが、私は騎士以外の道を知りません」


 ランドルは代々騎士の家に生まれたのだろうか。王都で騎士だったのならば、仕えていた主人は良い家柄、高位の貴族なはず。

 騎士家を持つほどの貴族......子爵家よりも遥かに高い地位にいるに違いない。

 もしかしたらランドル自身も、貴族だったのかもしれない。

 心の中にメモを取りつつ、オリトは彼の話に耳を傾ける。


「私は、以前は主人を選ぶことはできませんでした。幼い頃から”あの方がお前の主人となる”と言われ、そう信じて育ちました。詳しくは語りませんが、私は主人を失いました。今、騎士として再び生きることができるのなら、主人を選べるのなら、私は貴方に仕えたい。レネーに最後まで寄り添い、紙の神へと導いてくださった貴方に、お仕えしたい」


 これは、本当にランドルなのか。

 会いに行くたび、いつも不機嫌そうで、陰鬱で、口数は少なくて......死にたがっていた。

 こんなにも生き生きと、この先の人生について語るような人ではなかった。

 元々の本人の気質なのか、あるいは人に戻れた奇跡が彼を変えたのか。


(奇跡を起こしたのは、すべて紙の神様のおかげなのに、僕に忠誠を誓われても困るよなぁ)


 騎士だったころのランドルについては知らない。

 でもジョシュアとの訓練を見る限り、剣の実力は相当高い。

 オリトたちの尾行を撒いたり、人の気配を読んだりする技術にも長けていた。

 そんな人材ならば、どこに行っても受け入れられるはずなのだ。こんな子爵家次男、しかもまだ十歳の子供に仕えていいような人ではない。


「……騎士ってさ、普通、主人のほうから、信頼する相手に”騎士になるように”って任命するものじゃないの?」


 オリトの素朴な疑問に、ランドルは両目を大きく瞬かせる。

 それからクシャリと顔を崩して――笑った。


「本当は、そうしていただきたいのですが、私から言いださなければ、オリト様は恐らく一生自分の騎士を持たないような気がしましたし、それに……」


 そこでランドルは意味深にジョシュアへと視線を向け、どこか挑発的に笑って続けた。


「誰かに先を越されては困りますから」


 ジョシュアがなんだというのだろう。

 ジョシュアはどこかふてくされた顔をしている。

 本当に意味が分からない。

 大人だけに通じる会話をしないで欲しい、とオリトは子供っぽく頬を膨らませた。



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