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オリガミ様は神にあらず  作者: BPUG


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第49話 破綻


 剣と剣がぶつかり、ギャリリッと耳障りな音が響く。

 はっと息を飲む間に、二人の男の体が離れ、再びぶつかる。


 半分カミオチしているランドルの力は強い。

 彼との訓練を開始した当初、ジョシュアは同じように力で対抗するように剣を振るっていた。

 それが最近では持久力をつけ、受け流す剣技に変わってきている。

 相手に合わせてスタイルを変化させる柔軟性を、ジョシュアは身に着けてきている。


(ランドルもジョシュアも、良い指導者になれそう)


 力任せに横なぎに振られたランドルの剣から、ジョシュアは距離を取って重心を落とす。

 チッという舌打ちが聞こえる。

 ランドルの全身からにじみ出る苛立ち。

 荒々しい動作、いつもより隙の目立つ剣。

 対戦しているジョシュアは冷静に繰り出される剣を一つ一つ、確実にいなしていく。

 それがさらにランドルを苛立たせているようだ。


 窓の外に見える訓練中の二人から、オリトは視線をレネーへと移す。

 ゆっくりとか細い息が聞こえる。艶のない髪が荒い木綿のシーツの上に散らばる。

 レネーの体調が目に見えて悪化した。

 ランドルの苛立ちはそのせいだ。


 迫っているレネーの死期。

 終わりが見え始めた生活。

 終止符を打たなければいけない己の人生。


 どうにもできない苛立ちが膨れ上がり、磨き続けて洗練された剣技が荒くなっている。

 それをただ黙って受け続けているジョシュアはすごいとしか言いようがない。

 彼が受け止めているのは剣だけではなく、ランドルの感情もだ。


(すごいなぁ)


 ジョシュアの成長は目覚ましい。フィジカルだけじゃなく、メンタルも強くなった。

 それがランドルとの出会いを通してならば、嬉しいと同時に申し訳なくもなる。

 でも本人が最後まで立ち会うと決めたからには、オリトはもう何も言うことはない。


「……に、ちゃ?」

「うん、ここにいるよ」

「まだ、いてね」

「うん、ここにいる」


 せっかく来てくれたのに起きていられなくてごめん、でも帰ってしまわないで。

 そんな思いが伝わってきて、オリトはベッドの上に投げ出された細いレネーの手を握る。


(あと、ちょっとだけ待って。もう少しだけ)


 雪のように解けてしまわないで。

 ここにいて。

 でもオリトの勝手なわがままで苦しめたくない。

 オリトでさえもこんなにぐちゃぐちゃな感情を抱えているならば、ランドルが抱える思いの重さはいかほどだろう。

 荒れるのも無理はない、と思って顔を上げたオリトの視界を、左から右に黒い影が横切った。

 なんだ、と思う前に、今度は右から左へ。


「くっそ!」


 聞こえたのはジョシュアの荒げた声。

 何が起こったのかと確かめる前に気付く。

 黒い影は、ランドルだ。

 剣を投げ出し、生身のまま、鋭く尖った爪を武器として戦っている。


「え、これ、不味い状況じゃ」


 窓とレネーを交互に見る。

 迷いは一瞬だった。

 音を立てないように立ち上がり、扉を押し開けて外に出る。


 途端、耳に届いたズザザザッと地面を擦る音。

 鼻腔を通る空気に土の香りが混ざる。

 視線のまっすぐ先には剣を構えるジョシュアの姿。


 ランドルを探そうとしたオリトの視界を、影が横切る。

 直後響く、剣と何かがぶつかり合う音。

 ぶつかり、そして離れる。


 刹那交わった剣と爪は、次の瞬間にはまた別の空間を切り裂いてぶつかる。

 オリトの目では追いきれない二人の動き。


「ぐっ」


 低い呻きは、地面に転がって攻撃を避けたジョシュアのもの。

 土にまみれ、服にはところどころ草や葉がついている。

 これは、明らかに訓練の域を超えている。


「ジョシュ」

「来るな!」


 鋭い声の直後、再び始まる――戦い。

 そう、これは訓練ではなく、命がかかっている戦いだ。

 風のごとく駆け抜ける黒いランドルの体。

 木の幹をまるで平らな地面かのように走り、勢いと体重を乗せてジョシュアへと飛びかかる。


「っづぁああ!」


 衝撃を流しきれず、ジョシュアの体が跳ね飛ばされる。

 地面を転がってなお、剣を強く握りしめたままで。


 立ち上がろうとする彼を待つことなく、ランドルが襲い掛かる。

 あわやジョシュアの顔を引き裂くかと思われた鋭い爪は、ギリギリのところでジョシュアが両手で水平に掲げた剣に押しとどめられた。


「ランドル! やめろ! やめるんだ!」


 たまらずオリトは大声を張り上げる。

 だが理性を失ったランドルの耳には届かない。


(カミオチしかけている。精神が不安定な状態で剣を持ったから?)


 家の中で鬱々と弱っていくレネーを見るより、体を動かした方がすっきりするかと思った。

 その判断は間違っていた。

 本来のランドルであれば、それで良かったのかもしれない。

 だが今の彼は半分カミオチした状態。

 もっと慎重になるべきだった。

 

 後悔しても遅い。

 ジョシュアの喉元をランドルの爪がかする。

 薄く皮が裂かれ、血がにじむ。

 止めなくては。

 ジョシュアは攻撃を受け止めるのに精いっぱいだ。

 ランドルを止められるのは、オリトだけ。

 

 どうすべきか。

 悩んでオリトはそこから駆け出す。

 掘っ立て小屋の中に駆け込み、息を殺しながらレネーの寝るベッドに近寄る。

 手を伸ばし、戦う二人が見える窓に手を伸ばした。


(神様、どうかお願いです。今じゃないんです。ランドルを止めて。最後まで向き合うと言ったけど、でも最後は今じゃないんです)


 心の中で神様に縋る。

 ここは神様のいる世界だから。

 神様は、人に加護を与え祝福をしてくれる存在だから。

 そう信じている。


(紙の神様、祝福をください。火の神様、加護を与えてください。それから……ランドルを見守っている風の神様、力を貸してください。お願いです。ランドルを、正気に戻して!!)


 折り紙を握りしめ、オリトは再び二人がいる場所へと転がるように駆け戻る。

 ジョシュアには明らかに切り傷が増え、動きが鈍くなっていた。

 時間がない。


「ランドル!!」


 止まれという言葉は声にならなかった。

 ジョシュアが足をもつれさせ、地面に倒れこむ。

 そして彼に襲い掛かろうとするランドルの影。


 オリトは唇を噛みしめ、手にしたものを振りかぶった。

 腕をしならせ、全身を使って前へと飛ばす。

 オリトの手から放たれた物――それは紙でできた手裏剣。

 十歳の子供の腕の力では、数メートルも飛ばないはずのまがい物の武器。


「神様!」


 呼びかけたのはどの神なのか。

 オリトも分からないまま、叫んだ。


 そして神は――応えた。


 手裏剣の回転が速くなる。

 後押しするように強い風が吹いた。

 ぐんぐんとスピードを増し、空気を切り裂いて手裏剣が進む。

 ランドルの腕が高く上がり、今にもジョシュアの胸元へと振り下ろされそうになったその時――手裏剣がランドルの眼前で爆ぜた。


「ぐあっ!?」


 突然の衝撃にランドルは上体を大きく逸らせ、顔を守るように太い腕を前に突き出す。

 そこに再び手裏剣が襲った。

 それは今度は爆ぜることなく、ランドルの手に当たって燃え上がる。


 高く上がる炎。

 それは一気に燃え上がり、一瞬で消滅する。

 だがその時間で十分だった。






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