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オリガミ様は神にあらず  作者: BPUG


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第46話 覚悟を決める


 迷いがあっても日々は進む。

 子爵家の次男として教育を受ける毎日も、ランドルの様子を確認しつつレネーに薬と体に良いものを届ける習慣も、時折フェーベ商会で職人たちの技術を学ぶ時間も。

 そして夜、折り紙を折るオリトの元に神様が訪れる奇跡も。


(紙の神様、今度フェーベ商会に行ったらやりたいことができたんです。レネーのために、できることがもう一つできたんです。僕は、二人を救えないのは分かっています。それでも、最後まで寄り添いたいんです)


 何もできないオリトができる唯一のことは、最後まで彼らを見捨てないこと。

 ジョシュアもオリトに付き合ってくれると言ってくれた――すべてを見届けると。


(きっと泣いちゃうと思います。もしかしたら、神様なんでって思うかもしれないです。でも僕を見捨てないでくださいね。お願いします。ちょっとだけ恨み言をこぼしちゃっても、仕方ないなって許してください)


 オリトの心は強くないから。

 大切な人たちが死んだら、神様を恨まないなんて言いきれない。

 だからちょっとだけフライングして、神様に目こぼしを願う。

 その時を思うとすでに瞑った両目の奥が熱を持つ。

 ため息とともに目を開けてせわしなく瞬きを繰り返して、こもった熱を散らした。


「さて! 紙の神様、折り紙ありがとうございます。今日は書の神様と火の神様もいらっしゃるのかな。それじゃさっそくカエルとカメと鶴を折ってから、他の折り紙を下りましょう!」


 わざとらしく声を上げて、オリトは最初に神様たちお気に入りの折り紙を折り始める。

 白いカエルと緑のカメと赤い鶴。前世の記憶と照らし合わせると、なんだかご利益でもありそうな色と生き物だ。

 ご利益どころか、本人たちが神様ではあるが。

 完成するとピョコピョコ、ヨタヨタ、フワフワと折り紙たちが動き始める。


(折り方のせいか、カエルが一番大きくて、その次がカメで、鶴ってなんか不思議。火の神様が本当は一番力が強い神様だからもっと大きい紙で折った方がいいのかな)


 ピクリ、と鶴の翼が揺れる。長い首がオリトを見上げて、「呼んだ?」とでもいうように首を傾げた。


(え? まさか、火の神様は僕の声が聞こえてる?)


 以前、紙の神様はここに顕現している間は、オリトの心の声は全く聞こえていないようだった。

 もしかしたら力を持っている神は違うのかもしれない。

 額にジワリと汗がにじむ。


(えーっと、火の神様は大きな力を持ってるから、紙の神様や書の神様より大きい折り紙で折って欲しいとか……あ、ないですか。そうですか)


 途中で羽をばたつかせた鶴を見て、オリトは言葉を切る。今の大きさが丁度良いらしい。

 気を取り直して、残りの紙に今日折ろうと思っていた物を書いていく。


(車、バイク、汽車、飛行機、スペースシャトルっと)


 なんとなく乗り物シリーズ。

 紙飛行機をジョシュアに教えたら、彼経由で兵士たちに折り紙が一気に広まった。

 格別によくできた紙飛行機は飛んでる途中で宙に消えてしまったと嘆いていた兵士がいたが、きっと犯人(?)は神様だから皆何も言えない。


 実際、この世界ではこんなことが良くあるのだ。

 職人が心を込め、端正を込めて作った作品が消えてしまうことが。

 泥棒が取ったのではとも思うのだが、大抵消えた作品を作った職人への神からの加護や祝福が強くなるから、神様が持って行ったのが分かるのだとか。

 飛行機を作った兵士のところには紙の神様の加護がいったのかと思ったら、全く別の、なんと鳥の神様の加護がついたらしい。

 近くにいる鳥が見ている景色がぼんやり分かるようになって、気づいたんだとか。


(鳥の神様、飛行機を鳥の仲間だと思ったのかな。でも他にも鳥の折り紙を作ってるのになんで飛行機なんだろ。鶴は火の神様が取っちゃった感じになってるから、他の鳥っぽいのが欲しかったとか? うーん、分かんない)


 そのあたりの神様事情ってやつは、人間のオリトがあーだこーだ考えてもどうにもならないのだ。


「よっし! 車! これは馬車と同じなんですけど、燃料を詰んで、それを燃焼させて進む乗り物です。それで、こっちがバイク。同じ燃料を使ってます。あ、こっちの世界にも自転車っぽいものがあったから、それに燃料を付けた感じですねー」


 出来上がった折り紙の乗り物を並べ、オリトはテンション高く適当な解説をしていく。尚、声だけ元気で、顔はいつも通りの無表情鉄仮面である。

 この世界に列車があるのは知っているので、科学技術が進めばそのうち自動車やバイクも作られるだろう。


「えーっと、飛行機はさらにでっかい燃料で空を飛びます。風を受けて海を渡ったりできます。スペースシャトルは、空をもっともっと高く飛んで、この星の外に飛び出す乗り物です。これに乗ったら神様のいるところまで行けちゃうのかな?」


 妄想を口にして、オリトは自分の空想に口元を緩めてふふっと笑う。

 スペースシャトルを手にして、空高く、星の果てまで行く姿を夢想する。

 レネーが空の果てに行ってしまったら、ランドルを乗せてスペースシャトルで会いに行く――そんな馬鹿な夢を。


「ふは、馬鹿じゃん、僕」


 ぱたりと腕を落とし、折り紙を机の上に転がす。

 はあっと長く吐いた息が、折り紙の作品たちを揺らす。ついでに紙の神様までひっくり返ってオリトは慌てて手を伸ばした。


「ごめんなさい、神様」


 ピョコピョコと跳ねるカエルの頭を撫で、オリトは今度は頭上に向けて大きく呼吸する。


 覚悟を、決めなければ。

 潔く、彼らを見送る覚悟を。

 勇気を持って、最後まで一緒にいる覚悟を。


 うんっと自分に言い聞かせるように頷いて、オリトは正面に顔を向ける。

 ピョッコン、モッタモタ、フワフワと揺れる折り紙を順番に見て、オリトはまた頷く。


「神様たちがいるって心強いです。見守っていてくれる存在がいるって、希望です。ありがとうございます」


 神の存在を信じていなかったけれど、すがり続けた過去を思う。

 あれは神がいて欲しかったんじゃない。

 誰か、自分のことを見守ってくれているのだと信じたかったんだ。


「僕が、レネーとランドルと一緒にいるって決意したことが、二人の救いになってくれたら、ちょっとは嬉しいな」


 彼らをこの地に留めることができなくても、少しでも悔いのない日々を。

 表情筋が仕事を放棄したオリトでは、最高の笑顔で見送るのは無理だけど、二人には笑顔よりも素敵な景色を見せてあげよう。

 オリトだから見せられる景色を、造りだそう。



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