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オリガミ様は神にあらず  作者: BPUG


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第41話 連絡手段


 パンを抱えたオリトの後ろを、生活雑貨を詰めた袋を持ったジョシュアが続く。

 とりあえず危険はないということで、ジョシュアを容赦なく荷物持ちとして使うようになったオリトである。


「買い物ついでに、盗んだ店に金を渡して来いって、あいつ、なんなんすかね」

「まあ……盗んだものの金額を書きとめて、それだけのお金を用意しておいたのは律儀だし、真面目だよね」

「それを貴族のオリト様に頼むのが問題なんですって!」

「実際に返しに回ってくれたのは兵士のみんなだから、僕は全く何にも関係ないし」

「そりゃ、そんなことをオリト様にさせるわけがないからでしょうが!」


 声を荒げて憤慨するジョシュア。

 なんだかその怒りが、オリトを大切にしてくれている証に思えてこそばゆい。


 オリトたちが男の元へ行くのはこれで二回目となる。

 一回目に男の家を訪れた際、オリトはいくつか必要と思われる物資を携えて行った。

 男は感謝と共に相応に金をオリトに渡してきた。施しは受けたくないという意思の表れだった。

 カミオチしかけている男ではあるが、王都で働いていた頃の貯蓄は持ち出せたらしく、追加で買ってきて欲しい物も頼まれた。

 そして先ほどからジョシュアが憤慨している通り、これまで彼が窃盗してきた店への支払いと謝罪も頼まれたのである。


「信頼、してもらえてる気はするんだけどな」

「今のままじゃ、そのうち怒った市民に襲撃されるかもしれないとでも思ったのでしょう」

「その可能性は、あるね」


 パン屋のように、男から受けた恩で目こぼししている店もあった。

 だがそれも繰り返せば彼らにも限界が来る。

 いつか通報されていた可能性があっただろう。

 その前にオリトが手を差し伸べたことが、彼にとって救いとなっていると願いたい。


(精神的ストレスが少しでも減ったら、カミオチを少しでも先延ばしできるかな。今回頼まれた買い物には、レネーの体に良さそうなものも入ってるし……)


 オリトは楽観的ではない。

 レネーが奇跡的に回復して、普通の人間のように健康を取り戻して生きられるだなんて夢を思い描いたりしない。

 前の自分も、奇跡は起こらないと知っていた。


(それでも、神にすがっちゃうのが人間なんだろうなぁ)


 そして奇跡が起こらないと、勝手に失望するのだ。

 神様たちもさぞ迷惑な思いをしているだろう。


「おーい、来たぞー!」


 掘っ立て小屋が視界に入り、ジョシュアが大声で来訪を告げる。

 警戒心の強い相手なので人が来る気配を捉えているはずだから、こちらから正体を教えているのだとか。

 オリトとジョシュアがそのまま家に近づいていくと、扉がゆっくりと開く。

 中からは男が体半分だけのぞかせ、入れというようにくいっと顎をしゃくった。


「クッソ、態度でけえぞ、この野郎」


 横からぶちぶちと文句を垂れるジョシュアの声が聞こえる。

 大きな声で言わないのは相手を刺激させないためらしいけれど、なんとなく単純にジョシュアが男には力で負けるからだと思っている。

 相手の実力を見極めることができるのは良いことである。


「一週間ぶり。変わりはないかな?」

「特には」

「そうか」


 短い挨拶の後、簡単に確認を取る。

 男の全身を見回し、言葉の通り変化がないことを確かめる。


「お兄ちゃん」

「レネーも、一週間ぶりだね」


 ベッドに横たわったままの少女にも変化はない。

 生気がないのに、どんな花よりも鮮やかな笑顔をオリトに向けてくる。


(こんな風に笑えたら、どんなにいいか)


 胸の奥に沸き上がった見当違いの羨望を飲み込んで、オリトはパンを男の胸元に押し付けてレネーの元へと足を踏み出す。


「さて、今日は何を作ろうかな」


 前回、馬を折って来たオリトに、レネーは折り方を聞いてきた。

 簡単な作品だったのでその場で折り紙を出して作ったら、レネーが大層喜んだのだ。

 喜びすぎて興奮で体に影響が出ないかとオリトが心配するほどに。

 また折っているところが見たいと言われ、今日は最初からレネーに希望を聞くことにした。


「どんな動物がいい?」


 だがオリトの質問にレネーは瞳を陰らせて呟いた。


「レネー、あんまり動物知らないの」


 その言葉に、オリトは衝撃を受ける。

 なぜそれに思いあたらなかったのか。この少女の世界が狭いと知っていたはずなのに。

 この小屋には子供用の本など見当たらない。レネーは外の世界を知るすべすら持っていないのだ。


「そっか。だったら僕が好きな動物を作ろうかな」

「お兄ちゃんが?」

「そう。作りながら、どんな動物か教えてあげるよ」

「うわぁ、嬉しい」


 オリトとレネーが折り紙に集中し始める後ろで、ジョシュアは男に買ってきたものを見せて確認し始める。

 子供は子供で、大人は大人でやることがあるのだ。


「んで、これが余った金だ」

「いらん。持ってけ」

「こっちも要らねえよ。オリト様は貴族様だぞ。お駄賃なんて受け取らねえよ」


 こんな暮らしをしているカミオチ間近の男から金を受け取るなど、ジョシュアのプライドが許さない。

 オリトの護衛をするにあたり、危険手当として毎週驚くほどの追加報酬をもらっている。

 それが自分の命の値段だと思うと消化しきれない感情が腹の奥で腐っていきそうな気分になるため、ジョシュアは深く考えないようにした。


「んで、兵士で町の店を回って金を返した。多少の補填もしてある。領主のほうであんたのことは監視中って言ったら安心したみたいだ。町に顔を出す時には、まずはオリト様のところに連絡を」

「連絡? どうやって?」

「急ぐなって。これだ」


 領主の館に行って自分でオリトを呼び出せるはずがないと気色ばむ男に、ジョシュアは折りたたまれた紙を差し出す。

 それを反射的に受け取り、男は眉根を寄せた。

 片方が狭く、片方が広い。

 複雑に折りたたまれているのは分かるが、何を表しているのか見当もつかない。


「オリト様が言うには、カミヒコーキというらしい。遠くに飛ばすことができるんだとか」

「これが?」

「ああ。んで、一応練習用にってもらったのがあるから、外に出て飛ばしてみるか? 意外に面白いぞ」

「だが」


 ちらりとレネーを見る男に、ジョシュアは視線だけで外へ出ろと促す。

 一瞬の躊躇のあと、男はレネーに「少し外に出る」とだけ告げて玄関へと歩き出した。




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