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オリガミ様は神にあらず  作者: BPUG


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第38話 はじめまして



 地道な鬼ごっことかくれんぼを繰り返すこと、さらに一ヶ月。

 男性がカミオチしてしまうのではないかというオリトの焦りとは裏腹に、ジョシュアのやる気は燃え上がっていく。


「今日こそとっ捕まえます!」

「いや、暴力的な態度はだめだからね」

「穏便にとっ捕まえます!」


 塩コショウを揉みこんで乾燥させた豚肉がゴロゴロ入ったバゲットと、ドライフルーツとキャラメル風味のナッツが練りこまれた食パンを抱えて歩く。


 視界の端っこに、硬く握られたジョシュアの拳が映る。

 最近では兵士たちと一緒になって、残されたわずかな足跡から犯人を追跡する研究などを始めたらしい。

 犯罪者検挙に繋がるなら領地にとってはいいことだ、と思うことにした。


 これまでと同様、裏路地の箱の上にパンを置き、オリトの折ってきた折り紙を差し込む。

 今日はネズミと猫の二体。

 いい加減この追いかけっこも終わらせたいものだ。


 そしてその願いが届いたのか、その日、男はいつもと違う行動を取った。


「あ……」


 影から用心深くあらわれた男は、すっと姿勢を正し、明らかにオリトたちがいる方向を向いて立つ。


「おおん?」


 ジョシュアがガラの悪い輩のような声を出す。

 オリトは彼の動きを手で制し、暗闇の奥にいる男と視線を合わせた。

 男の目はオリトの場所からは見えないはずなのに、なんとなく目が合ったと悟る。


「ついて来いってことかな?」

「ええええ……」

「なんで落胆するの。ほら、行くよ」


 オリトが立ち上がりジョシュアと歩き出すと、黒い影もゆっくりと進みだした。

 影を追い、路地裏を曲がった先、いつもならば姿が見えなくなっているはずの男が視界に入る。


「くそー、勝ち逃げか」

「勝負じゃないし」


 変なところにこだわりを見せるジョシュアの数歩後ろをついて歩く。

 万一、相手に悪意があってこの先で待ち伏せされていた時のためだ。


 この二月ほど護衛される立場になって、学ぶことは多い。

 護衛目線で教えてもらう護衛対象が取るべき行動とか、護衛が注意を払う周囲の変化とか。

 父や兄ならばいざ知らず、オリトの人生に役に立つ気がしないのは非常に残念である。


「あっちだ」


 足音を潜め、ジョシュアが男の後を追う。

 ところどころにトラップともつかないぬかるみや大きな音の出る木の板などがある。

 それを避けて安全に通れる道を、男はしなやかで確実な足取りで進んでいく。

 その度にジョシュアが悔しそうな表情になるのが面白い。


「あ……あそこが家みたいだね」


 顔を上げると、町の外苑の建物を背にするように崩れそうな小屋が見える。

 男はそこで立ち止まり、オリトたちがついて来ているのを確かめてから扉を開いた。

 追いついたジョシュアがまずは扉を叩く。


「アシュヴェル家の者だ」

「入りな」


 短いやり取りの後、ジョシュアがオリトを下がらせてゆっくりと扉を押しあける。

 キィィッという微かな軋み音。

 暗い家の中はオリトのいる場所からは何も見えない。


「失礼する」


 硬い声でジョシュアは告げて中に入り、丁度中央当たりで足を止める。

 そしてくるりと中を見回す視線が一点で止まった。


「ジョシュア?」

「……オリト様も、どうぞ」


 顔をそちらに向けたまま呼ばれ、オリトも小屋の中へと足を踏み入れる。

 むき出しの地面、壊れかけの家具、壁に立てかけられた剣、木製のカップが二つ。

 巡らせた視線をオリトはジョシュアと同じ方へ向ける。

 窓辺に置かれた小さなベッドと、窓枠に並んだ折り紙たち。

 オリトは緩く目を細めて口を開いた。


「初めまして、お嬢さん」

「怪しすぎる挨拶ですね」

「そうかな?」


 遠慮のないツッコミをするジョシュアの横を通り過ぎ、オリトはカミオチ前の男性とベッドに横たわる子供のそばに寄る。

 痩せて、明らかに病気と分かる肌質。

 歳は五歳ほどに見えるが病気のせいで判断しにくい。


 一方、男性の風貌は初めて見た時から変化はない。

 ぼさぼさに伸びた黒い髪、グレーと透明の瞳、伸びた爪。

 目だけで男性を確認し、一つ頷く。

 相手は気に入らなさそうにふんと鼻を鳴らした。


「用は何だ」


 低い、しゃがれた声が届く。

 元々の彼の声というより、人と喋っていないせいのように感じる。

 オリトは彼の問いに答えようとする直前、視界に入った折り紙に一旦口を閉じる。

 それから目を細めて口の端を皮肉気に上げた。


「僕らに用があるのは、あなたの方では?」


 大きな黒い体が不意打ちを食らったかのように揺れる。

 明らかに図星だ。


 オリトはここに来るまで考えていた。

 なぜ、この男性がいきなりオリトたちを自分の領域に招こうとしているのかを。

 そしてこの場所に来て悟った。

 オリトに会いたがっているのは男性ではない。恐らく、この子供だ。


「……レネーが、この紙の動物を作った人に会ってみたいと」


 やはり、オリトの勘は正しかった。

 さらに折り紙がこの場へと導いてくれたのだと知って、オリトの心はふわふわと躍る。

 では話し合いの場を設けるきっかけをくれた少女に挨拶を、とオリトは彼女の横たわるベッドのわきに膝をついた。

 戸惑うような空気が男から伝わる。

 それはオリトが少女に近づくことに動揺したのか、それとも貴族であるオリトがむき出しの地面に膝をついたからか。

 少なくともオリトを止める気配はないのを確かめ、オリトは少女へと声をかけた。


「レネーさん?」




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