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オリガミ様は神にあらず  作者: BPUG


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第31話 末っ子


 オリトは内心、「おお、もしやこれは」と変な期待を抱く。


 オリトの選神(せんじん)以降、ちょこちょここんな感じの反応は見てきた。

 ほとんどの人は弱小とは言えど子爵家であるアシュヴァル家に配慮し、口に出さないし、態度にも出してこない。

 社会生活に適応した大人たちであった。


 だが今オリトの目の前にいる神官はちょっとだけ、考えが違うようだ。

 蝋人形のような笑顔を浮かべるホルーセス神官を見て、オリトの無表情鉄仮面の中でだた一つ生気のある瞳から感情が抜ける。


「オリト様はどちらの神から加護を受けられたのでしょう?」


 歪んだ三日月の両目がオリトを見下ろす。

 オリトはことさら平たんに「紙の神様より加護を頂きました」と答えた。

 三日月が、満月に変わる。

 爛々と光を放ち、他の星を押さえつけて我が物顔で空に君臨するかのように。


「それはそれは、誠に残念なこと。火の神ほどではなくとも、力の強い風の神や水の神の祝福であればまだ良かったものを」


 チラチラとオリトに向けられる視線。

 薄く開いた唇が奇妙なほどに神官の頬を高く持ち上げる。


(ザ、作り笑いって感じ。すみませんね、紙の神の信徒で。僕はそれで充分満足っていうか、喜んでいるんだからほっといてくださいよ)


 文句をつらつらと並べて嘆息する。

 神々に優劣などないと言われてはいても、こうやって他の神を見下すものはいる。

 神官という神への信仰を重きとしている者でさえ、主要素を司る以外の神を侮るのだ。

 それはあらゆる神の信徒と接する神官だからこそかもしれない。物事に順位をつけないと進まないこともある。


 でも忘れてはならない。

 空にある星々は、月に邪魔されたとしてもそこから消えてなくなったわけではないことを。

 オリトにだって矜持はある。

 首を傾げる仕草で斜め上、母親の表情を伺う。

 貴族然とした笑みの奥に隠された情を探す。

 一瞬交わした視線。

 オリトの錯覚かもしれないが、母親の瞳の中に火の神の化身のような炎が見えた。


「力が強い神様ってお忙しいんです?」

「え?」

「あ、僕が言うべきじゃないとは思うんですけど、ほら、力が強い神様って信徒がいっぱいいるからお話を聞くのが大変そうだなと」

「まさか。力が強い神であれば、何人信徒を抱えたとしてもその声を聞いてくださいます」

「そうですよね。っていうことは、今の神官様の発言も聞いてらっしゃるってことですよね」

「え、ええ、まあ、そうですね」


 自分の発言に正当性があって自信もあるのであれば、そんな反応をする必要などないのに。

 考えながらオリトはどこか意味深な仕草で、先ほどまで座っていたベンチを見る。

 そして驚きに目元をピクリとさせた。


(一列、前にでてきてる……)


 座っていた列よりも一つ前のベンチに赤い鶴がいる。オリトのところからは見えないが、恐らく白いカエルも一緒だろう。


「……大も小もなく、神様はすべての信徒を見ていらっしゃいますよね」


 視線をずらしたまま呟くオリトに、ホルーセス神官は怪訝な顔になる。

 隣に立っていた両親も訝し気に視線をずらし、ピクリと体を揺らした。


 神官は気づいていない。

 だが両親は知っている。

 オリトが一番よく作る鶴の折り紙のことを。

 そして書の神の加護の証だと言って見せられた緑色の折り紙のことも。

 そして二人の目に映るのは、ベンチの背もたれで堂々と翼を広げる赤い鶴。


「オリト、あとで話がある」


 聞いていないぞ、とばかりに父リュウストが低い声でオリトを呼ぶ。

 その意味を正しく受け取ったオリトとは対照的に、ホルーセス神官はオリトが子爵に怒られると思ったのか、勝ち誇った表情になった。

 怒られるというのはある意味正しいが、内容は神官が期待しているものではない。


「それと、ホルーセス神官」

「はい」


 神官は視線をオリトから外して子爵へと向き直る。

 隠しきれないニヤついた口元が、子供のオリト目線では見える。


「今度から、神殿からは君以外の神官を派遣するようにする」

「……は、い?」

「以上だ。今日の儀式は終わったので帰りたまえ」

「え? 子爵様?」


 情況を把握できない神官があたふたと周囲を見回す。

 儀式が終わり撤収し始めた使用人と、冷めた目で神官を見るアシュヴァル一家。

 判断を間違えたと悟るのは早かった。

 火の神を信奉する一族の中で、紙の神という人気のない神から加護を受けた末っ子。

 強面で火のように激しい性格をしている子爵ならば、彼を冷遇すると思ったのに。


「そ、それでは、失礼いたします」


 踵を返した神官のスカーフが揺れる。

 もう会うこともないだろうが、あの神官が今の立場以上に行ける可能性はなくなった。少なくとも、この子爵領内の神殿にいる間は。


「オリト、大丈夫?」

「何の心配も要りませんよ、姉上」

「まったく失礼な神官が我が領にいたものだ。抗議の手紙を私からも送っておこう」

「兄上、そんな大ごとにしなくとも……」


 フレーシャとジルストがオリトの両隣に来て、口々にオリトを気遣う言葉をかけてくる。

 ジルストは報復する気満々で、オリトはへしょりと眉を下げる――少なくとも、本人は下げたつもりだったが、見た目的には何も変わっていない。

 オリトとしては神官と同じような意見を持つ人は大勢いるし、今後も会うだろうから気にする必要もないと思っている。

 それに神殿は領地経営から独立した機関であり、領主と言えどそこに介入することは不敬とまではいかなくとも、遠慮すべきなのだ。

 しかしオリト以外はそう思っていないらしい。


「オリト、貴族としてあのような態度を許すわけにはいきません。あなたの神をないがしろにするということは、ひいては子爵家を侮っているということ。あなた自身が何でもないという態度を取れば、周囲があなたやあなたの神を軽く扱うようになるでしょう。毅然とした態度を保ちなさい」

「はい。分かりました、母上」


 背筋を伸ばし、貴族のお手本のような姿勢で母はオリトを諭す。

 オリトも反論することはやめ、素直に頷いた。

 そしてオリトは下を向いて緩みそうになる口を隠したのだった。




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