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オリガミ様は神にあらず  作者: BPUG


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第27話 二つの神様


 ちゃぽんっと桶に入れた水が揺れる。

 案内に聞いた順に回廊を曲がり、オリトは一つ一つ像の前に添えられた札を確認して歩く。


 ところどころ手入れされて磨かれた像がある。

 オリトと同じようにここを訪れた信者が手入れをしているのだろう。

 もちろん、手入れされていない像の信者に信仰心や感謝の念が足りないなどとは思わない。

 この伯爵領やオリトの住む子爵領に信者がいないだけかもしれない。

 あるいは、来たくても来れない事情があるのかもしれない。

 きっとオリトと同じく日々神様に感謝は伝えているはずだ。


「えーっと、書の神、書の神はっと」


 小さく呟いて、オリトは一つの像の前で立ち止まる。

 そう、今日オリトは加護をもらった書の神にも会いに来たのだ。

 周囲の像に比べてやや綺麗。でも積もった埃は数ヶ月は信者の訪れがなかったと推測できる。


「失礼します」


 紙の神の時と同じように乾いた布で埃を取り、水拭きして仕上げる。

 もしかしたら書の神の信徒であるシュークラも、フェーベ商会での仕事がない時にここに来て同じように像の手入れをしたのかも。

 見えないけれど確かな人のつながりを感じ、オリトはご機嫌な鼻息を飛ばした。

 ぱんぱんっと手を払い、軽く洗って綺麗にした後、カバンの中からそっと緑色の紙でできた作品を取り出す。


(書の神様、加護をありがとうございます。こちら加護をいただいた際の紙で作ったカエルです。カエルって色々折り方があるんですけど、その中で最高難易度の折り方です。関節が多すぎて紙の神様が入るには難しいみたいです)


 相変わらず、紙の神様は一番シンプルなカエルで動き回るのが好きだ。ぴょこぴょこと机やオリトの手元を跳んでいる姿が可愛らしい。

 しかし今回はせっかく綺麗な緑色なので、超絶難易度のカエルを折ってみた。背中の丸みや手足の先にできた吸盤まで再現している。

 リアルすぎて、兄ジルストと姉フレーシャに引かれてしまったほどだ。


(書の神様のおかげで、苦手な記憶教科も覚えやすくなりました。でもこれに胡坐をかかずに自分でも努力しますね。あと、綺麗に文字が書けるようになって嬉しいです。ありがとうございます)


 最後に両手を組んで目を閉じる。

 もう一度心の中で感謝をして目を開ける。

 その瞬間、緑色のカエルが高く――オリトの目線まで高く跳ねてくるりと回って消えた。


「ははっ」


 書の神様は案外お茶目なのかもしれない。

 オリトは手を伸ばし、つるりとした像を一撫でして立ち上がった。




□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□




 旧殿の回廊はまだ続く。

 新しく水を入れ替えた桶を片手に持ち、オリトは陽の光が照らす廊下を前に立ち止まる。

 込み上げてくる陰鬱なため息を飲み込み、顔を上げる。

 向かうのは最後の目的地。


「……あった」


 つらつらと札に書かれた文字を追っていた目が、探していた神の像を捉える。

 器の神。

 信徒の纏う色は、あの日、オリトが見た青みがかった紫。 

 オリトは足元に桶を下し、像から数メートル離れた場所で像に向き直る。


 何を言えば、何を祈ればいいのか。

 オリトがここに来たのは何のためなのか。

 何がしたかったのか。

 全て、終わってしまったことなのに。


 気づかぬうちに下がってしまった視線。

 サラリと髪が流れて視界に影が落ちる。

 闇を払うように一度ギュッと強く両目を瞑り、息を吐きながら正面を見つめる。


(器の神様、初めまして。紙の神様の信徒、オリト・アシュヴァルと申します。今綺麗にするので、少しだけ、待ってくださいね)


 挨拶だけ先に済ませ、オリトは布を手に像に近づく。

 出来る限り心を無にして、手を動かす。

 紙の神様と書の神様の像を掃除していた間、オリトははた目には鉄仮面無表情でも心の中では煩く神様に語り掛けていた。


 でも今は違う。

 言葉は心の奥底に沈んで、拾い上げようとしても指の間から零れ落ちていく。

 どんな言葉を選んでも不正解で、正しいものなど一つもないような気になる。


 皮肉なことに無心で像を磨いたおかげで、あっという間に像は綺麗になってしまった。

 桶に布を落とし、手を綺麗にする。

 鞄を開け、取り出したものを両手に持つ。

 カサリと揺れるのは白いユリの花束。

 オリトが折り紙で作った紙の花束だ。


「……失礼します」


 像の前に置いて、一歩離れる。

 片膝をつき、像を見つめる。


 器の神。

 木や石、陶器などに加護や祝福をもたらす。

 儀式用の器を生成することもでき、祝福のついた器は貴族であれば一式持っていて当たり前と言われる。


 一週間ほど前、父リュウストは約束通り、亡くなったカミオチに関する調査書をオリトに見せてくれた。

 器の神の信徒であった男は、アシュヴァル子爵領とは別の町に食器を扱う店を持っていた。

 いや、店を持つ準備をしていたというのが正しい。

 結婚し子供をもうけた後、男は務めていた店の店長の許可を得て新しく店を持つことになった。

 その準備をし、ようやく店が開く頃、最初の悲劇が起きた。

 男の妻子が、店のある町に引っ越しす道中で事故にあったのだ。


 事故により子供は亡くなり、妻は大きな怪我を負った。

 妻の元に行けたら良かったのだろう。だが男は店があった。

 開店目前にして、全てを投げ出して妻の元に駆け付けることはできなかった。


 そして次の悲劇が起こる。

 開店前日、店に泥棒が入った。

 翌日の新店舗オープンに並ぶはずだった商品は、ほとんどが奪われ、残りは壊されてしまった。

『器の神の祝福を受けているはずの食器が壊された』

 それは男の祝福が強くないことの表れだと、誰かが噂した。

 実際はそうではない。祝福が付与された高価な器だけが盗まれ、祝福が付与されていない安価な器が壊されただけだった。

 しかし広まってしまった噂を気にかけている余裕は男には無かった。

 店舗を立て直し、療養中の妻を労るので精一杯だったのだ。


 そして、そんな彼をとどめのような悲劇が襲う。

 妻の自殺。

 子を失い、希望を失った妻が自ら命を絶った。


 そして、男は信仰を捨てた。

 男は、カミオチとなった。




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― 新着の感想 ―
神は加護はするも救いはせず、なのね。
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