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オリガミ様は神にあらず  作者: BPUG


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第25話 見えた色


 全て話し終えたオリトは息をつく。

 するとジルストが手を伸ばして鶴を手のひらに置き、まじまじと観察を始めた。


「それにしてもとても素晴らしい技術だ。この前、フレーシャがオリトに紙で作った花をもらったと自慢していた時は、紙を花の形に切り取ったのかと思っていたがどうやら違うようだな」

「ええ。一枚の紙から切ることなく花を作りました」

「そうか。これだけの素晴らしいものが紙からできるのであれば、紙の神様がオリトに祝福を与えて信徒にしたのも納得がいく。是非私にも今度何か作ってくれ」

「もちろんです。あ、よろしければそちらも兄上に差し上げます」

「え、いいのか?」


 そう言いながらチラリとジルストは父リュウストに視線を流し、そっと鶴をテーブルに戻す。

 オリトは「ええ」と頷いて首を傾げる。

 なぜそこで父を気にするのか。


「オリト、それは、父上に差し上げたらどうだ? その、父上に信徒の証を受けた経緯を説明するために作ったのだろう?」

「まぁ、そうですが……こんな簡単なものでいいんでしょうか」


 鶴はとても魅力的な作品ではあるが、オリトとしては手遊び感覚で作れてしまう。

 正直、集中してなくても作れるので心がこもった贈り物とはいいがたい。

 案の定、ちらりと前髪の隙間から父親を伺うと、太い両腕を組んで不満そうな顔をしている。

 再び視線を兄ジルストへと向ける。

 だが、返ってきたのは微笑みと軽い「ほら、遠慮しないで」という言葉。

 全く遠慮などしていないのだが。


「えっと、その、父上。これを受け取ってもらえますか?」

「うむ。神が認めた技術の証だ。私が保管しておこう」

「よろしくお願いします」


 なるほど。紙の神の信徒となったオリトの技術を証明するために必要なのか。

 納得と共にオリトは父親へと頭を下げる。

 分厚い掌に白い鶴が乗る。自分の目線まで鶴を掲げ、リュウストは僅かに眼差しを緩めた。


「よく、できている」

「ありがとうございます」


 言葉すくなく会話する父親と末っ子。

 二人の様子を見守ていたジルストは堪えきれずに顔を伏せ、肩を震わせる。

 我が父親ながら非常に扱いにくい大人と、鈍すぎる上に自己肯定感の低すぎる子供。

 この二人だけで会話をさせるには心配で同席したが、自分の判断は正しかったとジルストは内心ため息を吐く。

 恐らくジルストが同席しなかったら母のマイヤがここにいただろう。


(ああ、あとでオリトには母上にも何かを作って渡すように忠言しておかなくては)


 母親も態度には出さないものの、自己主張の少ない末っ子を常に気遣っているのだ。

 笑いの波が引き、ジルストは姿勢を正して微妙な空気の親子を順番に眺めて口を開いた。


「父上、これでオリトと話したかったことは全て話せましたか?」

「ああ、そうだな。いや、もう一つあった。オリト、お前が十歳という若さで信徒となったことは喜ばしいが、大っぴらにして余計な耳目(じもく)を集めるのも好ましくない。屋敷から出るときはドーサに言って髪の毛を整えてもらうように」

「はい、分かりました」


 それは純粋に嬉しい提案だ。

 十五歳まで隠し通すのはどのみち無理だったろう。となると、家族の協力が得られたのは最高の流れだ。

 そして折り紙を見せたことで、今後オリトが折り紙に熱中してても嫌な顔はしないだろうと期待も持てる。

 十歳にして計算高いきもするが、オリトは現状に満足して鼻息を飛ばした。


「私からは以上だ。二人とも、戻っていい」

「はい」


 返事と共に立ち上がろうとするジルスト。

 だがオリトが目をさ迷わせて口を開閉するのに気づき、ジルストはまた腰を下ろす。


「どうした、オリト。まだ何かあるか?」

「すみません。一つ質問があって」


 発言の許可を求めるオリトの視線に、リュウストは重々しく頷いて続きを促す。


「アイリスのような青に近い紫色は、どの神様の色ですか?」

「青の……砂の神か?」

「岩の神や、鉄の神も紫だが赤が強いな」


 父も兄も記憶を探るように宙に視線をさ迷わせ、それぞれ思い浮かぶ神を上げる。だが明確な答えを得られなかったオリトは、落胆を堪えて別の手を探る。


「そう、ですか。神殿に聞いたら分かりますか?」

「どこかで会ったなら、本人に聞いたら早いだろう」

「でも……亡くなってしまったので」


 ちらりと兄を見る。

 ジルストは眉を寄せた後、「まさか、カミオチか?」と呟いた。


「はい。僕の気のせいかも知れないんですが、最後にあの……カミオチが人に戻る瞬間、毛が無くなる時に青っぽい紫が見えたきがして」

「色が?」


 あの場にいたジルストはそんなものが見えたかと記憶を探る。

 だが何度カミオチが倒れる瞬間を再生しても、そこにオリトの言う色は見えない。

 緩く頭を振るジルストにオリトは目を伏せる。

 あの直後にオリト自身も気を失ってしまって、見えた色が本当かどうか、本人も自信がないのだ。


「僕の気のせいかもしれません」

「いや、どのみちカミオチがでたら調査をしなければならない。数日中には加護を受けていた神の名前を含め、情報が集まってくるだろう」

「僕にも、それを見せてもらえますか?」

「……なぜだ?」


 眉を上げ、目を眇める父親に対して、オリトは信念のこもった目でまっすぐに向き合う。

 子供のオリトがこれ以上踏み込まなくてもいい。それは分かっている。

 それでも、悲しい最期を迎えたカミオチと、信徒を助けられなかったと悲しむ神に何かしたかった。

 たとえそれが自己満足であっても、人と同じ感情を抱くこの世界の神々であれば分かってくれると確信している。

 だからオリトは顔を上げる。

 今ここで怯んでしまっては、オリトの覚悟を父親が疑ってしまうと分かっているから。


「せめて、神殿で彼が仕えた神に祈りを捧げることくらいしたいです」

「……分かった。報告が届いたらお前にも知らせよう」

「ありがとうございます」


 どの神の信徒だったのかだけでなく、カミオチに関する調査結果全て教えてもらえる。

 そうすればあの紫の光がオリトの見間違いなのか、それとも別の意味があるのか判断できる。

 感謝を込めて、オリトは父と兄に向って再び頭を下げた。




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