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オリガミ様は神にあらず  作者: BPUG


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第23話 神から堕ちたモノ


 朝食の前に折り紙で細かいパーツをニ十個ほど作り、少しは気分が晴れたオリト。

 今日中に同じパーツをあと三十個ぐらいは作ろうと気合を入れなおしていたら、朝食を持ってきた使用人から「朝食後に執務室に来るように」と父からの伝言をもらった。

 復活していた気分があっというまにしぼむ。


 誰の目も気にしなくて良い自室で、だらりと椅子の背に体を預けてことさらゆっくりと食事をとる。

 先延ばしにしてもしょうがない。

 嫌なことはさっさと片付けてしまえばいい。

 そう理解していても、理性と感情は別物である。


 オリトは一口を五十回以上数えて噛むという無駄な抵抗により、普段の倍以上の時間をかけて朝食を完食する。

 歯の一本一本を綺麗に磨き、髪の毛には丁寧にブラシを掛け、今更だと分かっていても横髪はしっかり耳にかける。

 シャツの上からベストを着て、鏡の前に立つ。

 無表情をした十歳の子供が、鏡の奥から睨み返してくる。


(まったく、少しは愛想よくしたら、もうちょっとは可愛げのある子どもになれそうなのに。頑張れ、表情筋)


 むにいっと両手で頬を引っ張り、パチンっと気合を入れるように叩く。

 僅かに赤らんだ頬になれば、オリトも年相応の少年にみえないこともない。


「よし、行こう」


 自分を鼓舞する言葉を投げ、オリトは部屋を出た。




 父親の待つ執務室には、同席しているだろうと思った母の姿はなく、代わりに兄のジルストがいた。


「座りなさい」


 執務机の前に座る短い父親の声に礼を取って、ソファにすでに座っている兄の対面に腰を下ろす。

 リュウストもすぐに上座にある一人席へと移動し、大きく息を吐いた。


「……体調はどうだ?」

「問題ありません。ご心配をおかけしました。兄上も、ご迷惑をおかけしてすみませんでした」


 そう告げてオリトは父と兄に向って順番に頭を下げる。

 どんな話が待っているにせよ、最初に謝っておくのは防御だ。

 そんなオリトの狡い作戦が功を奏したのかは分からないが、父親はどこか痛ましい表情でこめかみを揉む。


「お前をここに呼んだのは、カミオチについて正しい知識を与えるためだ」


 予想していた通りの話の前おきに、オリトは神妙な顔で頷く。


「カミオチについて子供に知識を与えないのは、余計な恐怖心を植え付けないため。それから、どんなに言葉で教えたとしても、初めて遭遇した時には人間にはどうすることもできないからだ」


 確かに、オリトは何もできなかった。

 ただ馬車の中で縮こまり、涙を流して見ていることしかできなかった。


「カミオチは、自分に祝福を授けた神だけでなく、他の神に対して背神はいしんした場合にも起きる。オリト、カミオチを見て、お前は何を思った?」

「……怖かったです。体の芯が凍るような感覚と、震えで全く動けませんでした」

「それは当然の反応だ。カミオチを初めて見た者はみな恐れから理性を失うものだ」


 つまり父や兄も同じ経験をしたのだろうか。

 そんな思いを乗せて二人を順番に見ると、父は威厳を保とうと苦い顔をし、兄は困ったように肩をすくめた。


「私がカミオチと出会ったのは、オリトよりも大きい十三歳の時だった。それでも我を失い、その場から慌てて逃げようとして怪我をした」

「兄上が?」

「そうだ。逃げる時に攻撃の邪魔をしてしまったのを覚えている」

「それで僕を馬車に?」

「ああ。商会の中に戻すことも考えたが、見えないままでいるのも恐怖心をあおる。だったら戦闘を含めて見える場所に置いておくのが、今後のためにも良いだろうと判断した」

「そうだったんですね。ありがとうございます」


 見えないままで恐怖心と向き合うのは、また別の意味で怖い。ならば最後の瞬間まで馬車からすべてを見届けられたのは幸いだった。

 子供によってはトラウマになってしまうだろう。実際、オリトもまだ心の折り合いをつけられているわけではない。

 それでも、向き合うことをオリトは選びたかった。


「カミオチと対峙した時に湧く感情は、人の中にある本能だけでなく、我々がいただいた神からの祝福が反応していると言われている」

「神の……」


 父親の言葉に、ある光景が思い起こされる。

 オリトだけでなく、カミオチと戦っていた男たち全員が涙で頬を濡らしていたことを。

 恐らくあの場でカミオチを初めて見たのはオリトだけだった。

 それにも関わらず大の大人たちまでが涙していたのは、それぞれの中にある祝福がそうさせていたのだ。


「神様は、悲しいんでしょうか。神として祝福を与えた人間が、神様を信じなくなってしまったことが」


 沸き上がる疑問を心のままに口から出す。

 あの時、悲しかった。

 悔しくて、寂しくて、不甲斐ないという怒りと少しの憐憫、そしてやっぱり――悲しかった。

 それは子供のオリトが抱くには、手に余るほどの感情が湧いてきたのだ。




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