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オリガミ様は神にあらず  作者: BPUG


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第12話 美しい思い出


 一日の程よい疲れを感じながら、オリトは机の前に座る。

 過去の記憶の中の自分が、「若いっていいな」だなんて爺臭く呟く。

 何歳まで生きたのか定かではないけれど、そこそこ年を食っていたようだ。


 気を取り直して姿勢を正し、引出しからペンと定規、ハサミを取り出して並べる。

 折り紙は基本的に道具はあまり使わない。しかしバリエーションを増やしたり、より良い作品にするためには道具を使うべき、とオリトは主張する。


(って誰に主張しても意味ないんだけど。ってことで、紙の神様、今日は僕のお願いを聞いてくれてありがとうございました。おかげで姉上に喜んでもらえたし……)


 ちょっとそこでオリトの心の声が止まる。

 バラを渡した時の姉のそれこそ大輪の花のような笑顔と、宝石のような輝く言葉の贈り物。

 心の奥がずっと温かくて、オリトは幸せって温かいんだだなんて思う。


(……あ、あとでちゃんと完成させたんです。紙の神様にも作りますね。赤い紙とかで作ったらもっとバラっぽくなったけど、あとで色を塗っても綺麗だと思います。えーっと、それで今日は庭を散歩していた時に思いついたものを作っていこうと思います。最初に作るのは、蝶です。動きやすいのがいいですよね)


 ここで再び止まるオリトの心の声。

 昨晩は神様の訪れがあったけれど、また今日もオリトのところに来るとは限らない。

 神様の顕現は当たり前のことではないのだ。

 すうっと息を吸い込んで、オリトは冷静になれと自分に言い聞かせる。


(えーっと、今日は六つ、作品を折る予定なので、昼間の紙と同じサイズの正方形を六枚くださると嬉しいです。お願いします!)


 最後、ほぼやけっぱちでお願いをする。

 気づかないうちに組んでいた両手の指に、ぐっと力がこもった。

 一秒、二秒待ち、そおっと右目だけを開ける。そこに紙が並んでいることに安堵し、左目も。


「ありがとうございます」


 思わず両手を拝むように合わせて一礼。

 そしてペンを取り、並べた紙の中央に折る予定の生物の名前を書き込んでいく。


(蝶、トンボ、蟻、バッタ、蝉、カマキリっと)


 これは記憶の中の自分がしていたことだ。

 記憶を失っていく母親が、自分のいない間に折り紙を広げてしまい、面会時に直してと頼まれるのを繰り返していた。

 簡単なものや紙に特徴があるものならすぐに直せる。でもなんだったか思い出せないこともあり、「直せないの?」と母親に泣かれてしまった。

 逆に「すぐに直せるよ」と伝えれば、朗らかに笑って「まぁ! 私の息子みたいね」だなんて言われた。

 その時に浮かんだ感情は何だったのか、記憶を第三者視点で客観的に見ても判断がつかないでいる。


 ペンを机に置き、蝶と書いた紙を手に取って折り始める。

 蝶は初歩的な折り方から、複雑な上級者向けまで様々だ。ハサミで触角を作ったり、立体的にパーツを組み合わせたりするものもある。


(もし、もし……神様が見に来てくれるなら、飛んでいる姿が綺麗なチョウがいい)


 長方形に折り、そこからさらに端を合わせて規則正しい四角い折り目を作る。

 紙を広げ直し、今度は三角に。

 途中までは”だまし船”という、初歩の折り紙と同じ折り方。


(ヨットの帆を持ってって言われて持ってたのに、いつの間にか船の部分を持ってるってやつ。子供の頃に母親が作ってくれて、だまされて……あれが折り紙にはまるきっかけになったのかもしれない)


 母親が忘れても、全く違う世界で人生を歩んでいても消えない記憶。

 懐かしい思いに喉を詰まらせながら、オリトは十歳の指で丁寧に蝶を折り進める。


 折り目を付けた場所を基準に、立体的に翅を作っていく。

 構造が複雑になってくると、紙に負荷をかけすぎてしまう。

 慎重に、でも手早く折っていくのが大事。


(ううううう……子供の手って動かしにくい)


 もっと簡単なものを選んだ方が良かったのか。

 でも作りたかった。

 庭に咲く色とりどりの花。揺れる日傘。差し出したバラと、帰って来た温かな言葉。

 今日の景色に似合うのは、蝶だとオリトは思ったのだ。


 蝶の翅の上部分を広げ、下の尾のような部分をしごいてしっかり形を整える。

 最後に中心に向けてギュッと力を入れれば完成だ。


「よし、できた」


 グルリと全方向を確認して、オリトは満足感と共に呟く。

 そして次に移ろうとしたところで、蝶の翅がゆらりと揺れて手を止めた。


「……神様?」


 自分でも驚くくらいの弱弱しい声が出る。

 その声に応えるように蝶の翅が震える。

 そして紙でできた蝶はオリトが想像していたようには浮き上がらず、羽の下にある尾のような部分で歩き出した。


 トコ、トコ、トコ。


 まるでリキシが突っ張りの稽古をしているかのように、蝶は前に進む。


「ぷっ、くぅ」


 こらえきれず、オリトの口から空気が漏れた。

 なぜ飛ばずに歩くのか。

 疑問に思い、神様の宿った蝶を見つめる。


(羽がくっつきすぎなのかな。それとも重いとか。うーん、昨日よりも構造が複雑だから、逆に動かしにくいとか? 単純な方がいいのかな)


 色々疑問を浮かべるが、トコトコ、ヨタヨタと動く蝶はなんとも表現しがたい可愛さがある。


「神様、動きにくいです? もし動きにくいなら、他のこれから折る作品の方に移ります?」


 オリトは並べた折り紙を指さし、そこに記した文字を読み上げていく。

 だが蝶はフルリと揺れ、トコトコとオリトの両手の間に納まった。

 オリトからは蝶の背面が見える。

 どうやら今日はそこに座って、オリトが折り紙を折るのを見ることにしたらしい。


(本人……本、神様? がいいならいっか。今度はもっと動きやすそうな形の折り紙を最初に作ろう)


 心のメモに書きとめて、オリトは今度こそ次の折り紙に手を伸ばした。



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