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オリガミ様は神にあらず  作者: BPUG


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第10話 姉フレーシャ



 両親との面談が終わり、オリトは迫る約束の時間に合わせて足早に屋敷内を移動する。

 オリトの一日は規則正しい。そして十歳らしく、この世界の基礎教育が日々の生活に組み込まれている。

 朝食、朝の授業、軽食、午後の授業、長めの自由時間、夕食、短い自由時間の後、入浴して就寝だ。

 自由時間だって完全に自由になる訳ではなく、当日や次の日の授業の宿題をやることも多い。

 つまりそこそこ忙しい日々を送っているのだ。


(前世の僕も学生の間はこんな感じだったみたいだし、変わらないな)


 貴族じゃなければもっと自由に過ごしていたかもしれないけれど、それだとかえって暇で何をしたらいいか分からない。

 オリトは積極的に友達をつくるような性格ではないから、家に引きこもって本を読むぐらいしかなっただろう。


「それでは、次回までに紙の神に関する資料を調べてきます」

「お手数をおかけしますが、よろしくお願いします」


 本日の授業を終え、挨拶をして去っていく教師を見送る。

 授業では読み書きや初歩の計算、歴史や政治、そして神学を学ぶ。

 神学とは神々の恩恵を学び、神々の力が合わさることでこの世界がどのように発展してきたかを知って感謝を示すというもの。言うなれば宗教学だ。

 神々が実在する世界だから、「あなたは神を信じますか?」なんて質問すら出てこない。


 オリトは選神を終えたので、今後の神学の授業は自身の神について集中的に勉強することになるのだが――


(昨日まで火の神のことが多かったけど、無駄になったな)


 案の定、オリトが紙の神から祝福を受けたと聞いて教師はひどく驚いていた。そして自分の不勉強を恥じていたけれど、紙の神はマイナーで、「紙を作ってくれる」くらいしか知られていないのだから仕方がない。

 火の神を信奉する貴族家に雇われているだけあって、火の神についての知識も豊富な一方、その他の神については一般常識程度しか持っていなかったのだ。

 言外に「クビにしないでくれ」という思いが見えたので、オリトは曖昧に頷いておいた。教師を決めるのは両親なのだから。


 生活には欠かせない紙ではあるものの、恩恵が地味で人気は高くない。というか、低い。

 学問が発展したのも、商業が発展したのも紙があるおかげなのに、人間とは案外薄情なものだ。

 教師は資料を探すと言っていたが、神殿での扱いもそう良くないことからも文献は多くないだろう。

 紙の神の信徒として生活する人を捕まえて話を聞いた方が、よっぽどためになるかもしれない。


(ま、それはおいおいってとこか。ジルスト兄上も父上も動いてくれているし、情報はそのうち集まってくるだろうな。僕は僕で、思い出せそうな折り紙を練習しつつ、神様と仲良くできるようにしておこう)


 授業で使ったノートを持ち、オリトはふと視線を廊下の窓の外へと向ける。

 小さく揺れる日傘。姉のフレーシャが散歩をしているのが見えた。

 ふと屋敷を見上げた彼女がオリトを見つけ、小さく手を振った後に「降りてきて」というようにジェスチャーをする。


(本、置いて、行く)


 オリトは手元に掲げた本を揺らし、部屋と階下を交互に指さす。

 朗らかに笑ったフレーシャは風車のようにクルリと日傘を回すのを見てから、オリトは自室へと戻る道をたどる。


(折り紙、というか正方形の紙をもっと簡単に用意できるようにしたい。A4用紙だと中途半端に紙が余るし、毎回切るのも面倒だし、ピッタリ正方形にならないこともあるし。神様に頼んだら好きなサイズで出してくれるかな……あ、でも巨大な正方形より、小さい正方形がいっぱいの方が折り紙としては使いやすい)


 無表情で足を進めるオリトの脳内がこんなにもおしゃべりだとは、きっと誰も知らないだろう。

 ――オリトに注目しているどこかの神様以外は。






「オリト! こっちよ!」

「お待たせしました」


 薄手の上着を羽織り、廊下から中庭に出る手前でオリトは髪の毛を耳に丁寧にかけなおす。

 そんなオリトに気づいた姉フレーシャは、まるで一週間ぶりに会ったかのように嬉しそうな顔をする。実際にはたったの六時間ぶりである。


「授業は楽しかった?」

「はい。歴史と地理が面白いです」

「そうなのね。オリトは勉強がちゃんとできて偉いわ」

「……いえ」


 ほぼ五歳近く離れているからか、フレーシャはオリトをまるで幼子のように扱う。

 戸惑いと気恥ずかしさ、照れくささを鉄仮面の後ろに隠して、オリトは小さく首を振る。

 柔らかな笑みを浮かべたフレーシャの優しく細い手に背中を押され、オリトは彼女と並んで庭を一緒に歩く。


 子爵家の庭は豪華ではないものの丁寧に整備されていて、ちょっとした気分転換には丁度良い。

 父親も兄も言葉が多い方ではなく、母親も貴族らしい節度を持って子供を育てている。

 無表情鉄仮面なオリトをそこに加えると、フレーシャの表情の豊かさはどこから来たのかと尋ねたくなるくらいだ。

 ゆらゆらと優雅に揺れるフレーシャの日傘が、花壇に植わる色とりどりの花の上に複雑な影を落とす。


(ミツバチとか、テントウムシも可愛いから神様も喜ぶかな。チョウチョとかトンボも。青虫は……神様の反応を見てからで。蟻と、カマキリと、クワガタにカブトムシも格好いいし。いっぱい折るものが浮かんで来た)


 自然界の生き物であれば、大抵のものは折り紙で表現できる。

 足の構造の折り方は似ているので、基本の造詣をアレンジしていけば「なんとなく、それっぽく見える」形になるのだ。


「オリトは、落ち込んだりしなかった?」

「何にですか?」


 フレーシャの問いに、同じように問で返してから、選神の儀のことだと気づく。

 思わず足を止めそうになったオリトに、フレーシャは微笑んだまま首を傾げて答えを促す。


「どの神の祝福を受けても、祝福に感謝して仕えるだけですから」



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