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テレスの思惑を知る由もないジオバールは、書斎を出た後、王宮の廊下を歩いていた。
純白と黄金でできた建造物の、どこまでも続きそうな広く長い道。
時折、使用人や王族の関係者などが向かい側からやって来るが、すれ違う誰もがジオバールに頭を下げる。
それはジオバールがミカエリアス聖騎士団の長であり、国王陛下の側近ということもある。
しかしそれ以前に、ジオバール・ハルト・サンタクルスは公爵であった。それも国内随一と言われる歴史ある名門貴族。ゆえに王族とも古くから交流があり、縁深い関係にあった。
サンタクルス公爵家の嫡男である彼は、自身が持つコネクションを存分に利用している。
若くしてミカエリアス聖騎士団の長になり、国王の側近に抜擢されたのも、サンタクルス家の権力あってのことだった。
それは彼も理解している。だが、恥じだと思ったことはなかった。なぜなら、家柄も含めて自分の力だと勘違いしているからだ。
幼い頃から周囲にもてはやされ、なんの苦労も知らずに生きてきた。欲しいものはなんでも与えられたし、気に入らないものは一声で消し去ることができた。
結果、ジオバールは塀のように高い自尊心と、なにもかも自分の思い通りにならねば気が済まない、強欲な魔物のように成長した。
そして、その塀のようなプライドに傷をつけたのが……アリストである。
「チ……テレスの奴、普段は俺の機嫌を窺ってペコペコしていやがるくせに、あいつのこととなると食い下がってきやがる」
周りに誰もいないのをいいことに、ジオバールは苦々しい顔つきで吐き捨てるように独りごちた。
あいつ……アリストが優秀であることは、彼が魔術学校に在籍中からジオバールの耳に入っていた。
それでもたかが魔術師、昔ながらの剣士が優遇されるこの国では、大した影響はないだろうとたかをくくっていた。
それなのに、ジオバールが十六歳、アリストが十一歳の時だった。
王都から魔獣狩りの要請が入り、ジオバールは急いで現地に赴いた。当時、ジオバールはミカエリアス聖騎士団の長に就いたばかりで、功を上げて自分の実力を周りに見せつけようと意気込んでいた。
しかし、そうはいかなかった。
なぜなら、ジオバールが到着した頃には、すべて終わっていたからだ。
先に到着していたアリストが魔獣を片付けていた。SSランクの危険な魔獣をいとも簡単に。
ソリスティリア王国では、各地に配置した騎士団や魔術団、聖女が担当地域の問題を解決する。
だが、SSランク級の危険な魔獣が現れたり、大きな天災が訪れたりなど、配置した者たちで対応しきれないと判断された時は、他の地域の者たちに援護要請が入る。
それでジオバールも向かったわけだが……てんで無駄足となった。
アリスト……もといロッドベリルがいる地域には、助けなど不要だったのだ。




