第7章:悪巧みの二人-1
ナターシャがアリストたちと親睦を深めている頃、王都にある王宮の敷地内にある礼拝堂には、聖女たちが集っていた。
外観も内装もすべてが純白に覆われた建造物。玄関となる扉を入ると、だだっ広い空間があり、中央に波紋のように何重にもなった、丸い模様が刻まれている。
直径二メートルはあろうか、その上に立った三人の聖女は、円を作るように内側を向いて拝む姿勢を取っていた。
やがてそのうちの一人が目を開けると、胸の前で組み合わせていた手を解く。すると、他の二人もそれに習った。
「では、本日の修練はこれで終わりにいたしましょう」
「さすがですね、セシリア、魔力も安定していますし、なにがあっても国を守れそうね」
四十代と五十代の聖女……マーラとリタにそう言われたセシリアは、ニッコリと微笑んでみせる。
「ありがとうございます、ですがお二人にはまだまだ及びませんので、今後も努力いたします」
銀色のゆるふわセミロングヘアーに、サファイアのような瞳を持った美女……前回の魔力テスト後、大聖女に任命されたセシリアである。
「本当にセシリアは謙虚だこと、過去最大の大聖女だと言われているのに」
「私たちは年老いてしまったけれど、セシリアがいれば安心して後を任せられるわ」
「まあ、そんなことおっしゃらないで、お二人ともまだまだお若いですもの、これからもご指導願います」
大きな瞳をうるうるさせて、マーラとリタに懇願するセシリア。
すると二人は「あらあら……」と言って顔を見合わせ、困ったように、だが愛おしそうに微笑んだ。
ここだけ見ていれば、とても和やかで清らかなやり取りだが……。
マーラとリタが軽く頭を下げ、二階に上がっていくと、状況は一変する。
広間に一人になったセシリアは、中央の丸い紋様から離れ、扉とは逆方向に歩いていく。
礼拝堂の一番奥には、羽が生えた聖女のレリーフがあり、その下に祈りを捧げる教壇がある。
セシリアはそこに辿り着くと、あろうことか教壇の上に乗り上げ、ドカッと腰を据えたのだ。
「はぁー、つっかれたーぁ、なんでいちいち立ってやらなきゃいけないの、椅子の一つくらい用意しろっての」
肩にかかった銀髪を煩わしそうに片手で掻き上げると、不機嫌極まりない顔で独り言を口にするセシリア。
数秒前とはまったく違う、同一人物だとは思えない変わりようだ。
前世、セシルだった頃の二重人格ぶりを、今世でも見事に引き継いだセシリア。
彼女は大聖女になったものの、不満な日々を過ごしていた。
王宮付きの大聖女になれば、もっといい暮らしができると思っていたのに、実際はそうではなかったからだ。
殺生の観点から食肉は一切禁止、修道院でも似たようなものだったが、魚が食べられただけまだマシだった。
ここでは魚肉もダメなので、毎日毎日野菜と穀物ばかりで食の楽しみがない。
礼拝堂の中にある小さな部屋に住まわされたのも予想外だった。宮廷魔術師のように、王宮の一角を与えられるに違いないと思っていたのに。
来る日も来る日も魔力のコントロールや、魔法技術を磨く修練に励む。勝手に町に出ることも許されず、礼拝堂と王宮を往復するだけの日々に、セシリアは早くも嫌気がさしていた。




