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「そうですわ、アリストがいない間に、パトリックとガネットと海で魚釣りをしてきたんですのよ。それでガネットもたくさん魚を釣り上げたんですの、他にもカニや貝なんかも獲って、今パトリックが調理してくれていますわ」
「へ、へえ、そ、そうなんだ」
ねえ、ガネット? と言いたげにガネットの方を見てアイコンタクトをするナターシャ。
それに続きアリストもガネットを見ると、二人の注目を集めた彼女は嬉しくなって口を開く。
「あ、あのねっ、お姉様が魚釣りの竿を作ってくれたの! ちょうどいい木の枝を探して、それに服に使ってる糸をちょっと取って結んで、貝とか虫をくっつけたらたくさん釣れたんだよ!」
身振り手振りで跳ねるように話すガネットは、十歳の少女らしい元気が溢れている。
しかし、その中でアリストは、釣りのことよりも気になる文字を見つけた。
「お、お姉様……?」
その部分をボソッと口にするアリストに、ナターシャは少しだけ顔を近づけると、小さな声で伝える。
「そう呼びたいと言われましたので」
クスッと悪戯っぽく笑うナターシャに、心臓を鷲掴みにされたアリストは、どうにかその言葉の意味を脳内で処理する。
ガネットがナターシャに『お姉様』呼びを申し出たということは、かなり心を開いている証だ。
自分にも同じように『お兄様』呼びをお願いされた経験から、アリストはそう確信した。
魚釣りのおかげかなにかわからないが、とにかくナターシャとガネットの間に信頼関係が築かれたことが伝わる。
アリストにとってガネットは、同情に値する保護すべきか弱き存在。そしてナターシャは、自分を厳しくも優しく肯定してくれる、全能の女神。
そんな二人が親しくなってくれたら、アリストも嬉しいに決まっている。
「そ、そっか、な、仲良くなったみたいで、よ、よかった」
アリストはガネットに向き直ると、僅かに顔を綻ばせた。
「が、がんばったね、が、ガネット、あ、ありがとう」
穏やかな表情でガネットを見つめるアリストとナターシャは、まるで我が子の成長を見守る父と母のようだ。
そんな二人を合わせて見たガネットは、猫のような目をパチパチさせる。




