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館に着くと、三人は一階の食堂に向かい、パトリックが調理に入る。
時刻はすでに正午を過ぎており、朝食を抜いたナターシャたちのお腹はペコペコだ。
もうじき魔術の鍛錬に励んでいる団員たちも、昼食を摂るために食堂にやって来るに違いない。
「わたくしもなにかお手伝いいたしましょうか?」
「けっこうです、先に座っていてください」
キッチンを覗きながら声をかけてくるナターシャに、パトリックは手元から目を離さずに答えた。
若干手持ち無沙汰になったナターシャは、大人しくガネットと席に着くべくキッチンを離れる。
そしてテーブルに向かって歩いていると、突然目の前に銀色に光る亀裂のようなものが現れた。
一瞬、ビクッと驚くナターシャだったが、すぐになにが起きているのか理解すると、肩の力が抜ける。
銀色の亀裂はグニャグニャと柔らかな波紋のように広がると、内側の黒い宇宙のような空間からとある気配が訪れる。
スッと足が伸びてくるとともに、フードから零れる白髪が目につく。
漆黒のローブを纏っているので、ちゃんと外に出るまで全貌を確認するのが難しかった。
とはいえ、こんなことをする人物は一人しかいないが。
「おかえりなさい! お兄様!」
アリストの姿を見たガネットが、いち早く帰還の挨拶をする。
アリストは普段から転移魔術をどこで◯ドアのように使用しているので、ガネットや団員たちは慣れっこなのだ。
アリストがこちら側に戻ると、宇宙のような出入り口はシュルシュルと収縮して跡形もなく消える。
一応法で禁じられている上級魔術の日常使い……ナターシャはもう大抵のことは驚かない気がしてきた。
「おかえりなさいませ、アリスト」
「あ、た、ただいま」
気を取り直して迎え入れるナターシャに、アリストは戸惑いながら返事をする。
確かに食堂の辺りに移動するつもりだったが、まさかナターシャの目の前に出るとは思っていなかったのだ。
心の準備ができていなかったアリストは、後ろに持った品をどんなふうに渡そうかと悩んだ。
「どちらに行かれていたんですの?」
「ふ、服……見に……」
丸めた瞳で小首を傾げるナターシャに、アリストはドキドキしながら決心すると、勢いをつけて背中側に隠していたそれをナターシャの前に提示した。
瞬間、フワッと広がる高貴な紫。
ナターシャの瞳を思わせる、アメジストを散りばめたような色合いのそれは、胸元や袖口に細かい刺繍が施されており、裾には繊細なレースが幾重にも重なっていた。




