6-12
「アリストにそこまでしてもらって、あなたはまだご自分がいらない人間だと思っておいでなの?」
パトリックが話している間も、ガネットは相変わらず泣いている。
もう声は上げていないが、グスグスとベソをかき、涙は未だ止まらない。
「……だって、本当のことだもん! あたし、助けてもらっただけで、なんのお返しもできてない、みんなすごい力があるのに、あたしだけ、なにも……」
さっきもそんなことを言っていた。ガネットの台詞を合わせたナターシャは、彼女の心の声が少し聞こえた気がした。
ガネットの周りに散乱した貝殻も、彼女の心境を物語る材料になる。
「……だから、綺麗な貝殻を集めようとしていましたの?」
ナターシャの一言に、ガネットの顔色が一変した。
ガネットは顔を上げて、見開いた瞳にナターシャを映す。
その反応に、ナターシャの仮説が確信に変わった。
ガネットの周りにだけ、不自然に散乱した貝殻たち。まだ砂を被っていないことから、移動されて間もないことがわかる。となれば、ガネットが持ち運んだとしか考えられない。
崖が崩れ落ちてきた時、ガネットは腰を抜かして尻もちをついた。その拍子に握りしめていた貝殻をばら撒いてしまったのだろう。
女の子が綺麗なものに興味を持つのは自然なことだ。ならガネットは自分のために貝殻集めをしていたのか。
ガネットの台詞を聞く前なら、ナターシャもそう思ったかもしれない。
だが、ガネットはこう言ったのだ。
『あたしはなんの役にも立たない』
『あたしだけなんのお返しもできてない』
それは裏を返せば、役に立つために、お返しをするために、なにかしたくて堪らないということ。
そこから導き出される答えは。
「アリストに渡そうとしたんですのね?」
ナターシャにズバリ指摘されたガネットは、戸惑って目を泳がせる。驚きのせいか、いつの間にか涙は引っ込んでいた。
口籠るガネットを前に、ナターシャはさらに続ける。
「もしかして、チミチミ池に落ちてしまったのも、アリストになにかお土産を渡したくて、誤って足を滑らせてしまったとか?」
パトリックは丸くした目でガネットを見る。
池に落ちたガネットを救出したのはパトリックだったが、彼女はなぜそんなところにいたのか話さなかった。
いや、話せなかったのかもしれない。パトリックも他のみんなも、ガネットの行動にだけ着目し、その理由を聞くことはしなかった。




