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「……って、だって、あたしはなんにもないんだもんっ、子供だし、魔力すらなくて、なんの役にも立たないっ、それなのに、あんたはすごい力があるくせに隠して、そんなのずるいっ、恵まれてるのにわざわざ嘘ついて、そんならあたしにちょうだいよ! いらないならあたしにちょうだいよーーっ!!」
あーーん! と大声を上げて、ガネットはついに泣き出してしまった。
ぬかるんだ地面に座り込み、両手を目元にあてて泣きじゃくる姿は、まさに子供だ。
そう、ガネットはまだ十歳の女の子。自分で思い通りにならないことや、辛いことにぶつかった時、どうしていいかわからず、感情的になってもなんの不思議もない。
ナターシャはどうするべきか考え、ふと視線を下げる。
すると、ガネットの周りに貝殻が散乱しているのが目に入った。
焦茶色の地面に目立つ白くて綺麗なものばかり。明らかにここに自然にあったものではない。
ナターシャが不思議に感じていると、背後から一つの気配が近づいてきた。
ナターシャとガネットのやり取りを見守っていたパトリックが、そろそろ自分の出番かと歩み寄ってきたのだ。その手にはもう魔術書はなかった。
パトリックはナターシャより一歩下がった場所で立ち止まると、ガネットの境遇について語り始める。
「ガネットは数年前、この海に流れ着いたんです。それを団長が見つけて……最初は孤児院に連れていこうと話したんですが、ガネットがどうしてもここで暮らしたいと言うので、結局団長が折れる形になりました」
ナターシャは顔だけで後ろを振り向くと、そこに立ったパトリックを見上げた。
「流れ着いたって……」
「ガネットの髪や目の色は珍しいですから、大方それが原因で捨てられたのかと。どこの世界にも心ない人間はいますからね」
ナターシャは眉を顰めると、顔の向きを戻して再び前にいるガネットを見た。
確かに紫の髪や赤い瞳は珍しい。だからといって、そんなことで小さな子を海に捨てるとは。そもそもこんな美しい髪や瞳、称賛こそすれ忌み嫌われる理由にはならないだろうに。
虫ケラ以下の人間は、美的センスも崩壊しているに違いないとナターシャは思った。
「ティルバイトの森と違って、海辺は魔力で覆われていませんから、魔力のないガネットでも漂着することができたんでしょう。ちなみに森の中に入れるのは、団長がガネットに魔力を分け与えたからです」
海に流れ着いたということは、ガネットは国外からやって来た可能性が高い。
冷たい海に揉まれて満身創痍でティルバイトに辿り着いたガネット。漂流に伴う心身の苦痛を考えると、ナターシャは胸が痛んだ。
しかし、同時にアリストがガネットと遭遇した事実に救われる。
遭難した子供を助け、自身の魔力を分け、住処まで与えるなんて……アリストはもはや魔術師というより聖女、いや、天使ではないかとナターシャは思い始めていた。




