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ナターシャは両手のひらをガネットに向け、パトリックは左手に魔術書を、右手をガネットに翳していた。
崖の先端が崩れ落ちた瞬間、ナターシャは聖女の力でガネットをバリアーで包み、パトリックは魔術書を出現させ、黒魔術で岩を攻撃し粉砕していた。
やり方は違えども、二人ともガネットを守るべく最善を尽くしていたのだ。
ナターシャが両手を下ろすと、ガネットを覆っていた球体が消え、互いを隔てるものがなくなる。
遠巻きにナターシャたちと目が合ったガネットは、膝立ちしたままの状態で固まった。
ガネットの無事を確認したナターシャは、肩を怒らせながら大股開きで歩き始める。
そのままズンズンと一直線に近づき、ガネットの目の前まで来ると右手を振り上げた。
叩かれる――?
そう感じたガネットは身を引こうとしてバランスを崩し、再び地面に尻もちをつく。
ナターシャはそんな彼女の前にしゃがみながら、勢いよく手を振り下ろす……ふりをした。
実際はガネットの左頬間近でピタッと手を止めると、力を緩めてペチッとガネットの白いそれを叩く。
いや、叩いた、というよりも、弾いたといった方が正しいかもしれない。それくらい優しい触れ方だった。アリストにビンタした時とはえらい違いだ。
女騎士であった前世と同じく、基本的に女子供には優しいナターシャ。
しかし、言うべきことは言わねばならない。
「あなたは、もっとご自分を大事にするべきですわ!」
予想外の軽い叩き方に拍子抜けしていたガネットは、ナターシャの大きな声に身体を跳ねさせた。
目の前にあるナターシャの綺麗な顔があまりに真剣で、ガネットは息をするのも忘れる。
ナターシャは硬直したガネットをしばし無言で見つめた後、地面に両膝をつけてしっかりとガネットと向き合う。当然ナターシャの聖女服は湿った砂で汚れるが、そんなことはどうでもいい。
それからナターシャは、緊張した空気を和らげるように小さく息をついた。
「わたくしやパトリックがいたからいいものを……この世には危険なことがたくさんあるのです、ご自身で対処できないのなら、せめて信用する方々の言うことは聞かなくては」
ナターシャはガネットに言い聞かせるように、落ち着いた口調で話した。
しかし、その大人びた余裕のある対応が、かえってガネットの苦悩に火をつける。
動きを止めていたガネットは、次第にカタカタと震え始め、声を絞り出す。
「……るい……」
「え?」
「……ずるい!」
ガネットはハッキリそう言うと、ナターシャをキッと睨みつけた。ガーネットのような赤い瞳に、切なげな雫を蓄えながら。




