6-9
「ガネット!」
パトリックが名を呼ぶと、ガネットは動きを止めて顔だけで振り返る。
が、それは一瞬のことで、ガネットはパトリックに向けてベーッと舌を出すと、再び前を向いて歩き出してしまった。
幸い今日は波が穏やかなので、波打ち際で遊ぶ分には問題ないだろうが、ガネットはそこから先に進もうとしている。
海は浅瀬だと思い込んでいても、急に深くなる部分があり、ガネットでは対処できない危険な生物も住んでいる。
それらのことから、パトリックはガネットを止めようと声を上げて走り出した。
「そっちは危ないので戻ってきなさい!」
ナターシャもパトリックの隣に並ぶように足を速めるが、ガネットは二人に背を向けたまま気にせず前進する。
「まったく、世話の焼ける……」
パトリックはため息混じりに呟くと、魔力が届く範囲に入れば、先ほどと同じようにガネットを釣り上げて引き戻そうと考えた。
その時、パトリックの横を走っていたナターシャの目に、ふとあるものが映り込む。
ガネットの数メートル上に、屋根のように突き出た岩肌。崖の先端部分から、小石の粉のようなものが落ち始めていた。
風に煽られているわけでもないのに、パラパラと削れるように剥がれ落ちる岩肌……それがなんの予兆か悟った時、ナターシャはまずいと思った。
おそらくこれは、崖が崩れるサイン。
もしもこのまま落下したら、ガネットはどうなってしまうのか。最悪の結果を想定したナターシャは、加速するとともに口を大きく開いた。
「危ないわ! 早く逃げて――」
ナターシャがそう言うが早いか、ガネットの頭上数メートルにある崖の先端が崩れ落ちる。
ずっと地面を見て歩いていたガネットは、ようやく危険を察知し、顔を上げた。
その瞬間、ガネットの正面に迫りくる巨大な岩の塊。
あまりに突然の事態に、ガネットは言葉を失いながら地面にベシャッと尻もちをつく。
もうダメだ……本能が死を悟ると、ガネットは反射的に両手で頭を庇い、強く瞼を閉じた。
刹那、ガネットの耳に岩が砕け散るような激しい音が響く。
ガネットは驚きと恐怖で身体を震わせると、その状態のまま身動きが取れなくなる。
が、ほどなくして異変に気づいた。
あんな大きな物体が自分めがけて落ちてきたのだから、今頃ペシャンコになっているはずなのに。一向に衝撃も加わらなければ、痛くも痒くもない。
それどころか、なにか心地よいもの包まれているような……不思議な感覚に、ガネットはそうっと瞼を持ち上げた。
すると視界を満たす金色の光。思わず目を疑ったガネットが手を伸ばしてみると、金色の光が壁のようになっていて、それ以上先に触れることはできない。
ガネットは地面に膝をついて、壁を伝うように身体の向きを変える。
すると、先ほどとは反対方向を見た時に、今し方なにが起きたのか理解した。
金色の光は淡く半透明で、周りの景色を見て取ることができる。
ガネットの視線の先にいたのは、ナターシャとパトリックだ。




